この法律は、調停による国際的な和解合意に関する国際連合条約(以下「条約」という。)の実施に関し必要な事項を定めるものとする。
この法律において「調停」とは、その名称や開始の原因となる事実のいかんにかかわらず、一定の法律関係(契約に基づくものであるかどうかを問わない。)に関する民事 又は商事の紛争の解決をしようとする紛争の当事者のため、当事者に対して紛争の解決を強制する権限を有しない第三者が和解の仲介を実施し、その解決を図る手続をいう。
この法律において「調停人」とは、調停において和解の仲介を実施する者をいう。
この法律において「国際和解合意」とは、調停において当事者間に成立した合意であって、合意が成立した当時において次の各号に掲げる事由のいずれかに該当するものをいう。
当事者の全部 又は一部が日本国外に住所 又は主たる事務所 若しくは営業所を有するとき(当事者の全部 又は一部の発行済株式(議決権のあるものに限る。)又は出資の総数 又は総額の百分の五十を超える数 又は額の株式(議決権のあるものに限る。)又は持分を有する者 その他これと同等のものとして法務省令で定める者が日本国外に住所 又は主たる事務所 若しくは営業所を有するときを含む。)。
当事者の全部 又は一部が互いに異なる国に住所 又は事務所 若しくは営業所(当事者が二以上の事務所 又は営業所を有する場合にあっては、合意が成立した当時において当事者が知っていたか、又は予見することのできた事情に照らして、合意によって解決された紛争と最も密接な関係がある事務所 又は営業所。次号において同じ。)を有するとき。
この法律の規定は、次に掲げる国際和解合意については、適用しない。
民事上の契約 又は取引のうち、その当事者の全部 又は一部が個人(事業として 又は事業のために契約 又は取引の当事者となる場合におけるものを除く。)であるものに関する紛争に係る国際和解合意
個別労働関係紛争(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)第一条に規定する個別労働関係紛争をいう。)に係る国際和解合意
国際和解合意に基づいて民事執行をしようとする当事者は、債務者を被申立人として、裁判所に対し、執行決定(国際和解合意に基づく民事執行を許す旨の決定をいう。以下同じ。)を求める申立てをしなければならない。
前項の申立てをする者(以下この条において「申立人」という。)は、次に掲げる書面を提出しなければならない。
前項の書面については、これに記載すべき事項を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式 その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。次項において同じ。)に係る記録媒体の提出をもって、当該書面の提出に代えることができる。
この場合において、当該記録媒体を提出した申立人は、当該書面を提出したものとみなす。
申立人は、前二項の規定により書面 又は記録媒体を提出するときは、併せて、当該書面(日本語で作成されたものを除く。)又は当該記録媒体に係る電磁的記録(日本語で作成されたものを除く。)の日本語による翻訳文を提出しなければならない。
ただし、裁判所は、相当と認めるときは、被申立人の意見を聴いて、当該書面 又は当該電磁的記録の全部 又は一部について日本語による翻訳文を提出することを要しないものとすることができる。
第一項の申立てを受けた裁判所は、他の裁判機関 又は仲裁廷に対して当該国際和解合意に関する他の申立てがあった場合において、必要があると認めるときは、同項の申立てに係る手続を中止することができる。
この場合において、裁判所は、申立人の申立てにより、被申立人に対し、担保を立てるべきことを命ずることができる。
東京地方裁判所 及び大阪地方裁判所(被申立人の普通裁判籍の所在地 又は請求の目的 若しくは差し押さえることができる被申立人の財産の所在地が日本国内にある場合に限る。)
前項の規定により二以上の裁判所が管轄権を有するときは、先に申立てがあった裁判所が管轄する。
裁判所は、第一項の申立てに係る事件の全部 又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより 又は職権で、これを管轄裁判所に移送しなければならない。
裁判所は、第七項の規定により管轄する事件について、相当と認めるときは、申立てにより 又は職権で、当該事件の全部 又は一部を同項の規定により管轄権を有しないこととされた裁判所に移送することができる。
前二項の規定による決定に対しては、その告知を受けた日から二週間の不変期間内に、即時抗告をすることができる。
裁判所は、次項の規定により第一項の申立てを却下する場合を除き、執行決定をしなければならない。
裁判所は、第一項の申立てがあった場合において、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるとき(第一号から第六号までに掲げる事由にあっては、被申立人が当該事由の存在を証明した場合に限る。)に限り、当該申立てを却下することができる。
国際和解合意が、当事者が合意により国際和解合意に適用すべきものとして有効に指定した法令(当該指定がないときは、裁判所が国際和解合意について適用すべきものと判断する法令)によれば、当事者の行為能力の制限以外の事由により、その効力を有しないこと。
調停人が、法令 その他当事者間の合意により当該調停人 又は当該調停人が実施する調停に適用される準則(公の秩序に関しないものに限る。)に違反した場合であって、その違反する事実が重大であり、かつ、当該国際和解合意の成立に影響を及ぼすものであること。
裁判所は、口頭弁論 又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、第一項の申立てについての決定をすることができない。
第一項の申立てについての決定に対しては、その告知を受けた日から二週間の不変期間内に、即時抗告をすることができる。
呼出状の送達 及び当該事件について出頭した者に対する期日の告知以外の方法による期日の呼出しをしたときは、期日に出頭しない者に対し、法律上の制裁 その他期日の不遵守による不利益を帰することができない。
ただし、その者が期日の呼出しを受けた旨を記載した書面を提出したときは、この限りでない。
執行決定の手続における申立てその他の申述(以下この条において「申立て等」という。)のうち、当該申立て等に関するこの法律 その他の法令の規定により書面等(書面、書類、文書、謄本、抄本、正本、副本、複本 その他文字、図形等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙 その他の有体物をいう。次項 及び第四項において同じ。)をもってするものとされているものであって、最高裁判所の定める裁判所に対してするもの(当該裁判所の裁判長、受命裁判官、受託裁判官 又は裁判所書記官に対してするものを含む。)については、当該法令の規定にかかわらず、最高裁判所規則で定めるところにより、電子情報処理組織(裁判所の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。以下この項 及び第三項において同じ。)と申立て等をする者の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。)を用いてすることができる。
前項の規定によりされた申立て等については、当該申立て等を書面等をもってするものとして規定した申立て等に関する法令の規定に規定する書面等をもってされたものとみなして、当該申立て等に関する法令の規定を適用する。
第一項の規定によりされた申立て等は、同項の裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に、当該裁判所に到達したものとみなす。
第一項の場合において、当該申立て等に関する他の法令の規定により署名等(署名、記名、押印 その他氏名 又は名称を書面等に記載することをいう。以下この項において同じ。)をすることとされているものについては、当該申立て等をする者は、当該法令の規定にかかわらず、当該署名等に代えて、最高裁判所規則で定めるところにより、氏名 又は名称を明らかにする措置を講じなければならない。
第一項の規定によりされた申立て等が第三項に規定するファイルに記録されたときは、第一項の裁判所は、当該ファイルに記録された情報の内容を書面に出力しなければならない。
第一項の規定によりされた申立て等に係るこの法律 その他の法令の規定による事件の記録の閲覧 若しくは謄写 又はその正本、謄本 若しくは抄本の交付は、前項の書面をもってするものとする。
当該申立て等に係る書類の送達 又は送付も、同様とする。
執行決定の手続に係る裁判の裁判書を作成する場合には、当該裁判書には、当該裁判に係る主文、当事者 及び法定代理人 並びに裁判所を記載しなければならない。
前項の裁判書を送達する場合には、当該送達は、当該裁判書の正本によってする。
特別の定めがある場合を除き、執行決定の手続に関しては、その性質に反しない限り、民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第一編から第四編までの規定(同法第七十一条第二項、第九十一条の二、第九十二条第九項 及び第十項、第九十二条の二第二項、第九十四条、第百条第二項、第一編第五章第四節第三款、第百十一条、第一編第七章、第百三十三条の二第五項 及び第六項、第百三十三条の三第二項、第百五十一条第三項、第百六十条第二項、第百八十五条第三項、第二百五条第二項、第二百十五条第二項、第二百二十七条第二項 並びに第二百三十二条の二の規定を除く。)を準用する。
この場合において、別表の上欄に掲げる同法の規定中同表の中欄に掲げる字句は、それぞれ同表の下欄に掲げる字句に読み替えるものとする。
この法律に定めるもののほか、執行決定の手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。