原子力基本法

# 昭和三十年法律第百八十六号 #

第一章 総則

分類 法律
カテゴリ   工業
@ 施行日 : 令和五年六月七日 ( 2023年 6月7日 )
@ 最終更新 : 令和五年法律第四十四号
最終編集日 : 2024年 08月29日 06時31分


1項

この法律は、原子力の研究、開発 及び利用(以下「原子力利用」という。)を推進することによつて、将来におけるエネルギー資源を確保し、並びに学術の進歩、産業の振興 及び地球温暖化の防止を図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。

1項

原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。

2項

前項の安全の確保については、確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康 及び財産の保護、環境の保全 並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。

3項

エネルギーとしての原子力利用は、国 及び原子力事業者(原子力発電に関する事業を行う者をいう。第二条の三 及び第二条の四において同じ。)が安全神話に陥り、平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故を防止することができなかつたことを真摯に反省した上で、原子力事故(原子力損害の賠償に関する法律昭和三十六年法律第百四十七号第二条第一項に規定する原子炉の運転等に起因する事故をいう。以下同じ。)の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立つて、これを行うものとする。

1項

国は、エネルギーとしての原子力利用に当たつては、原子力発電を電源の選択肢の一つとして活用することによる電気の安定供給の確保、我が国における脱炭素社会(地球温暖化対策の推進に関する法律平成十年法律第百十七号第二条の二に規定する脱炭素社会をいう。第十六条の二第二項において同じ。)の実現に向けた発電事業における非化石エネルギー源(エネルギー供給事業者によるエネルギー源の環境適合利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(平成二十一年法律第七十二号)第二条第二項に規定する非化石エネルギー源をいう。第十六条の二第二項において同じ。)の利用の促進 及びエネルギーの供給に係る自律性の向上に資することができるよう、必要な措置を講ずる責務を有する。

2項

国は、エネルギーとしての原子力利用に当たつては、原子力施設(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三十二年法律第百六十六号。次条第四号 及び第二条の四第一項において「原子炉等規制法」という。)第二条第七項に規定する原子力施設をいう。以下同じ。)の安全性の向上に不断に取り組むこと等によりその安全性を確保することを前提として、原子力事故による災害の防止に関し万全の措置を講じつつ、原子力施設が立地する地域 及び電力の大消費地である都市の住民をはじめとする国民の原子力発電に対する信頼を確保し、その理解と協力を得るために必要な取組 並びに地域振興 その他の原子力施設が立地する地域の課題の解決に向けた取組を推進する責務を有する。

1項
国は、原子力発電を適切に活用することができるよう、原子力施設の安全性を確保することを前提としつつ、次に掲げる施策 その他の必要な施策を講ずるものとする。
一 号
原子力発電に係る高度な技術の維持 及び開発を促進し、これらを行う人材の育成 及び確保を図り、並びに当該技術の維持 及び開発のために必要な産業基盤を維持し、及び強化するための施策
二 号

原子力に関する研究 及び開発に取り組む事業者、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 その他の関係者の相互の連携 並びに当該研究 及び開発に関する国際的な連携を強化するための施策 その他の当該研究 及び開発の推進 並びにこれらの成果の円滑な実用化を図るための施策

三 号
電気事業に係る制度の抜本的な改革が実施された状況においても、原子力事業者が原子力施設の安全性を確保するために必要な投資を行うこと その他の安定的にその事業を行うことができる事業環境を整備するための施策
四 号

原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施及び廃炉の推進に関する法律平成十七年法律第四十八号)第二条第四項に規定する再処理等、同条第一項に規定する使用済燃料に係るその貯蔵能力の増加 その他の対策 及び原子炉等規制法第四十三条の三の三十三第一項に規定する廃止措置の円滑かつ着実な実施を図るための関係地方公共団体との調整 その他の必要な施策

五 号

最終処分(特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(平成十二年法律第百十七号)第二条第二項に規定する最終処分をいう。以下この号において同じ。)に関する国民の理解を促進するための施策、最終処分の計画的な実施に向けた地方公共団体 その他の関係者に対する主体的な働き掛け、同法第六条第二項に規定する文献調査対象地区 又は同法第三条第二項第二号に規定する概要調査地区等をその区域に含む地方公共団体、最終処分に理解と関心を有する地方公共団体 その他の関係者に対する関係府省の連携による支援、最終処分に関する研究開発の推進を図るための国際的な連携 並びに原子力発電環境整備機構 及び原子力事業者との連携の強化 その他の最終処分の円滑かつ着実な実施を図るために必要な施策

1項

原子力事業者は、エネルギーとしての原子力利用に当たつては、原子力事故の発生の防止 及び原子炉等規制法第二条第六項に規定する特定核燃料物質の防護のために必要な措置を講じ、並びにその内容を不断に見直し、その他原子力施設の安全性の向上を図るための態勢を充実強化し、並びに関係地方公共団体 その他の関係機関と連携しながら原子力事故に対処するための防災の態勢を充実強化するために必要な措置を講ずる責務を有する。

2項

原子力事業者は、原子力施設が立地する地域の原子力発電に対する信頼を確保し、その理解を得ることがその事業の円滑な実施を図る上で極めて重要であることに鑑み、そのために必要な取組を推進しながら、国 又は地方公共団体が実施する地域振興 その他の原子力施設が立地する地域の課題の解決に向けた取組に協力する責務を有する。

1項

この法律において次に掲げる用語は、次の定義に従うものとする。

一 号

原子力」とは、原子核変換の過程において原子核から放出されるすべての種類のエネルギーをいう。

二 号

核燃料物質」とは、ウラン、トリウム等原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する物質であつて、政令で定めるものをいう。

三 号

核原料物質」とは、ウラン鉱、トリウム鉱 その他核燃料物質の原料となる物質であつて、政令で定めるものをいう。

四 号

原子炉」とは、核燃料物質を燃料として使用する装置をいう。


ただし、政令で定めるものを除く

五 号

放射線」とは、電磁波 又は粒子線のうち、直接 又は間接に空気を電離する能力をもつもので、政令で定めるものをいう。