債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。
民法
第一款 弁済
⤏ 第一目 総則
債務の弁済は、第三者もすることができる。
弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。
ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。
ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。
前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。
弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときは、その弁済をした者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。
前条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、又は譲り渡したときは、その弁済は、有効とする。
この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済をした者に対して求償をすることを妨げない。
債権者の預金 又は貯金の口座に対する払込みによってする弁済は、債権者がその預金 又は貯金に係る債権の債務者に対してその払込みに係る金額の払戻しを請求する権利を取得した時に、その効力を生ずる。
受領権者(債権者 及び法令の規定 又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。
前条の場合を除き、受領権者以外の者に対してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ、その効力を有する。
差押えを受けた債権の第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。
前項の規定は、第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。
弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。
債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約 その他の債権の発生原因 及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。
法令 又は慣習により取引時間の定めがあるときは、その取引時間内に限り、弁済をし、又は弁済の請求をすることができる。
弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。
ただし、債権者が住所の移転 その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。
弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。
弁済をする者は、前項の受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。
ただし、弁済を受領する者に不相当な負担を課するものであるときは、この限りでない。
債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。
債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付が全ての債務を消滅させるのに足りないとき(次条第一項に規定する場合を除く。)は、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。
弁済をする者 及び弁済を受領する者がいずれも第一項 又は第二項の規定による指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
全ての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。
債務者が一個 又は数個の債務について元本のほか利息 及び費用を支払うべき場合(債務者が数個の債務を負担する場合にあっては、同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担するときに限る。)において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息 及び元本に充当しなければならない。
前条の規定は、前項の場合において、費用、利息 又は元本のいずれかの全てを消滅させるのに足りない給付をしたときについて準用する。
前二条の規定にかかわらず、弁済をする者と弁済を受領する者との間に弁済の充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従い、その弁済を充当する。
一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、前三条の規定を準用する。
債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる。
弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。
ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。
⤏ 第二目 弁済の目的物の供託
弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。
この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。
弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき。
債権者が弁済を受領することができないとき。
弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。
ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。
前条の規定による供託は、債務の履行地の供託所にしなければならない。
供託所について法令に特別の定めがない場合には、裁判所は、弁済者の請求により、供託所の指定 及び供託物の保管者の選任をしなければならない。
前条の規定により供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない。
債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。
この場合においては、供託をしなかったものとみなす。
前項の規定は、供託によって質権 又は抵当権が消滅した場合には、適用しない。
弁済者は、次に掲げる場合には、裁判所の許可を得て、弁済の目的物を競売に付し、その代金を供託することができる。
その物が供託に適しないとき。
その物について滅失、損傷 その他の事由による価格の低落のおそれがあるとき。
その物の保存について過分の費用を要するとき。
前三号に掲げる場合のほか、その物を供託することが困難な事情があるとき。
弁済の目的物 又は前条の代金が供託された場合には、債権者は、供託物の還付を請求することができる。
債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には、債権者は、その給付をしなければ、供託物を受け取ることができない。
⤏ 第三目 弁済による代位
債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する
第四百六十七条の規定は、前条の場合(弁済をするについて正当な利益を有する者が債権者に代位する場合を除く。)について準用する。
前二条の規定により債権者に代位した者は、債権の効力 及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。
前項の規定による権利の行使は、債権者に代位した者が自己の権利に基づいて債務者に対して求償をすることができる範囲内(保証人の一人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には、自己の権利に基づいて当該 他の保証人に対して求償をすることができる範囲内)に限り、することができる。
第一項の場合には、前項の規定によるほか、次に掲げるところによる。
第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう。以下この項において同じ。)は、保証人 及び物上保証人に対して債権者に代位しない。
第三取得者の一人は、各財産の価格に応じて、他の第三取得者に対して債権者に代位する。
前号の規定は、物上保証人の一人が他の物上保証人に対して債権者に代位する場合について準用する。
保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。
ただし、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。
第三取得者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は、第三取得者とみなして第一号 及び第二号の規定を適用し、
物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は、物上保証人とみなして第一号、第三号 及び前号の規定を適用する。
債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は、債権者の同意を得て、その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使することができる。
前項の場合であっても、債権者は、単独でその権利を行使することができる。
前二項の場合に債権者が行使する権利は、その債権の担保の目的となっている財産の売却代金 その他の当該権利の行使によって得られる金銭について、代位者が行使する権利に優先する。
第一項の場合において、債務の不履行による契約の解除は、債権者のみがすることができる。
この場合においては、代位者に対し、その弁済をした価額 及びその利息を償還しなければならない。
代位弁済によって全部の弁済を受けた債権者は、債権に関する証書 及び自己の占有する担保物を代位者に交付しなければならない。
債権の一部について代位弁済があった場合には、債権者は、債権に関する証書にその代位を記入し、かつ、自己の占有する担保物の保存を代位者に監督させなければならない。
弁済をするについて正当な利益を有する者(以下この項において「代位権者」という。)がある場合において、債権者が故意 又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位権者は、代位をするに当たって担保の喪失 又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において、その責任を免れる。
その代位権者が物上保証人である場合において、その代位権者から担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者 及びその特定承継人についても、同様とする。
前項の規定は、債権者が担保を喪失し、又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、適用しない。