津波対策の推進に関する法律

平成二十三年法律第七十七号
略称 : 津波対策推進法 
分類 法律
カテゴリ   災害対策
@ 施行日 : 令和四年三月三十一日 ( 2022年 3月31日 )
@ 最終更新 : 令和四年法律第三号による改正
最終編集日 : 2024年 07月10日 08時22分

前文

津波は、平成二十三年三月十一日に発生した東日本大震災においても明らかになったように、一度発生すると、広域にわたり、国民の生命、身体 及び財産に甚大な被害を及ぼすとともに、我が国の経済社会の健全な発展に深刻な影響を及ぼすおそれがある災害である。我が国は、過去幾度となく津波により甚大な被害を受け、また、東日本大震災により多くの尊い命を失ったことは、痛恨の極みである。さらに、東日本大震災では、原子力発電所の事故による災害の発生により、地域住民の生活 及び我が国の経済社会に深刻な影響を及ぼしている。


他方、津波は、その発生に際して国民が迅速かつ適切な行動をとることにより、人命に対する被害を相当程度軽減することができることから、津波 及び津波による被害の特性、津波に備える必要性等に関する国民の理解と関心を深めることが特に重要であり、東日本大震災という未曽有の大災害を受け、その重要性が一層高まっている。

我が国は、地殻の境界 及びその周辺に位置し、常に、大規模な地震 及びこれに伴う津波による被害を受ける危険にさらされており、多数の人命を奪った東日本大震災の惨禍を二度と繰り返すことのないよう、これまでの津波対策が必ずしも十分でなかったことを国として率直に反省し、津波に関する最新の知見 及び先人の知恵、行動 その他の歴史的教訓を踏まえつつ、津波対策に万全を期する必要がある。


ここに、津波に関する基本的認識を明らかにするとともに、津波対策を総合的かつ効果的に推進するため、この法律を制定する。

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1項

この法律は、津波による被害から国民の生命、身体 及び財産を保護するため、津波対策を推進するに当たっての基本的認識を明らかにするとともに、津波の観測体制の強化 及び調査研究の推進、津波に関する防災上必要な教育 及び訓練の実施、津波対策のために必要な施設の整備 その他の津波対策を推進するために必要な事項を定めることにより、津波対策を総合的かつ効果的に推進し、もって社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする。

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1項

津波対策は、次に掲げる津波に関する基本的認識の下に、総合的かつ効果的に推進されなければならない。

一 号

津波は、一度発生すると、広域にわたり、国民の生命、身体 及び財産に甚大な被害を及ぼすとともに、我が国の経済社会の健全な発展に深刻な影響を及ぼすおそれがあること。

二 号

津波は、その発生に際して国民が迅速かつ適切な行動をとることにより、命に対する被害を相当程度軽減することができることから、防潮堤、水門等津波からの防護のための施設の整備と併せて、津波避難施設(津波により浸水すると想定される地域における一時的な避難場所としての機能を有する堅固な建築物 又は工作物をいう。以下同じ。)の着実な整備を推進するとともに、津波に関する防災上必要な教育 及び訓練の実施、防災思想の普及等を推進することにより津波 及び津波による被害の特性、津波に備える必要性等に関する国民の理解と関心を深めることが特に重要であること。

三 号

津波は、被害の発生を防止し、又は軽減するためにその規模等を迅速かつ適切に予測する必要があること、津波による被害の詳細な予測がいまだ困難であること等から、観測体制の充実 並びに過去の津波 及び将来発生することが予測される津波 並びにこれらによる被害等に関する調査研究を推進することが重要であること。

四 号

津波は、国境を越えて広域にわたり伝播する特性を有していること、各国における調査研究の成果を国際的に共有する必要性が高いこと等から、 観測 及び調査研究に係る国際協力を推進することが重要であること。

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1項

国 及び地方公共団体は、災害対策基本法昭和三十六年法律第二百二十三号)、地震防災対策特別措置法(平成七年法律第百十一号)その他の関係法律に基づく災害対策を実施するに当たっては、この法律の趣旨 及び内容を踏まえ、津波対策を適切に実施しなければならない。

2項

事業者 及び国民は、津波対策の重要性に関する理解と関心を深め、 国 及び地方公共団体が実施する津波対策に協力するよう努めなければならない。

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1項

国は、津波対策を効果的に推進するため、国、地方公共団体、大学等の研究機関、事業者、国民等の相互間の緊密な連携協力体制の整備に努めなければならない。

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1項

国は、津波による被害の発生を防止し、又は軽減するため、津波の観測体制の強化に努めなければならない。

2項

国は、津波の発生機構の解明、津波の規模等に関する予測の精度の向上、地形、土地利用の現況 その他地域の状況を踏まえて津波による被害を詳細に予測する手法の開発 及び改善、津波による被害の防止 又は軽減を図るための施設の改良、津波に関する記録(国民の津波に関する体験の記録を含む。)の収集 その他 津波対策を効果的に実施するため必要な調査研究を推進し、その成果の普及に努めなければならない。

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1項

都道府県 及び市町村は、地形、土地利用の現況 その他地域の状況 及び津波に関する最新の知見を踏まえ、津波により浸水する範囲 及びその水深 その他地域において想定される津波による被害について、津波の規模 及び津波対策のための施設の整備等の状況ごとに複数の予測を行い、その結果を津波対策に活用するよう努めなければならない。

2項

都道府県 及び市町村は、前項の予測の内容について、津波により浸水するおそれのある地域の土地利用の現況の変化、津波に関する最新の知見等を踏まえて、適宜、適切な見直しを行うよう努めなければならない。

3項

国は、都道府県 及び市町村が第一項の予測 及びその結果の津波対策への活用を適切に行うことができるよう、情報の提供、技術的な助言 その他必要な援助を行うよう努めなければならない。

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1項

国 及び地方公共団体は、第五条第二項の調査研究の成果等を踏まえ、 国民が、津波に関する記録 及び最新の知見、地域において想定される津波による被害、津波が発生した際にとるべき行動等に関する知識の習得を通じ、津波が発生した際に迅速かつ適切な行動をとることができるようになることを目標として、学校教育 その他の多様な機会を通じ、映像等を用いた効果的な手法を活用しつつ、 津波について防災上 必要な教育 及び訓練、防災思想の普及等に努めなければならない。

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1項

都道府県 及び市町村は、地震防災対策特別措置法第十四条第一項 及び第二項の規定により津波により浸水する範囲 及び その水深を住民に周知するに当たっては、第六条第一項の予測の結果を活用するとともに、印刷物の配布のほか予測される被害を映像として住民に視聴させること等を通じてより効果的に行うよう努めなければならない。

2項

都道府県 及び市町村は、津波により浸水すると想定される範囲に地下街 その他地下に設けられた不特定かつ多数の者が利用する施設 又は主として高齢者、障害者、乳幼児 その他の特に防災上の配慮を要する者が利用する施設で津波からの迅速かつ適切な避難を確保する必要があると認められるものがある場合にあっては、当該施設の所有者 又は管理者への前項の周知に特に配慮するものとする。

3項

第六条第三項の規定は、都道府県 及び市町村が行う第一項の周知について準用する。

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1項

国 及び地方公共団体は、津波に関する予報 又は警報 及び避難の勧告 又は指示が的確かつ迅速に伝達され、できる限り多くの者が、迅速かつ円滑に避難することができるようにするために必要な体制の整備 その他 必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

2項

都道府県 及び市町村は、津波が発生し、又は発生するおそれがある場合における避難場所、避難の経路 その他住民の迅速かつ円滑な避難を確保するために必要な事項に関する計画を定め、これを公表するよう努めなければならない。

3項

第一項の措置を講ずる場合 及び前項の計画を定める場合には、高齢者、障害者、乳幼児、旅行者、日本語を理解できない者 その他避難について特に配慮を要する者の津波からの避難について留意しなければならない。

4項

第六条第三項の規定は、都道府県 及び市町村が行う第二項の計画の策定について準用する。

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1項

国 及び地方公共団体は、津波対策に係る施設の整備等においては、次の事項に特に配慮して取り組むよう努めなければならない。

一 号

最新の知見に基づく施設の整備の推進

二 号

既存の施設の維持 及び改良

三 号

海岸 及び津波の遡上が予想される河川の堤防の性能(地震による震動 及び地盤の液状化により破壊されないために必要とされる性能を含む。)の確保 及び向上

四 号

海岸 及び津波の遡上が予想される河川の水門等について津波が到達する前の自動的な閉鎖 又は遠隔操作による閉鎖を可能とするための改良

五 号
津波避難施設の指定の推進
六 号

地域の特性に応じた津波避難施設、津波避難施設への避難路等の整備の推進

2項

国 及び地方公共団体は、津波により浸水するおそれのある地域において、公共施設等(津波からの防護を直接の目的として整備するものを除く)を整備しようとするときは、当該地域における一時的な避難場所としての機能 その他の津波に関する防災上の機能を備えたものとなるよう配慮しなければならない。

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1項

都道府県 及び市町村は、まちづくりを推進するに当たっては、津波対策について考慮した都市計画法昭和四十三年法律第百号第八条第一項第一号の用途地域の指定、建築基準法昭和二十五年法律第二百一号第三十九条の災害危険区域の指定等による津波による被害の危険性の高い地域における住宅等の立地の抑制、津波が発生した際に沿岸部の堅固な建築物を利用して内陸部への津波 及び漂流物の侵入を軽減する仕組みの構築 その他の津波対策の推進に配慮して取り組むよう努めなければならない。

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1項

国 及び地方公共団体は、産業との調和に配意しつつ、石油類、火薬類、高圧ガス、原子力基本法昭和三十年法律第百八十六号第三条第二号に規定する核燃料物質 その他の危険物を多量に扱う施設の津波からの安全の確保に努めなければならない。

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1項

災害復旧に関する国の制度は、津波による被害からの復旧にも十分配慮されたものでなければならない。

2項

国 及び地方公共団体は、津波による被害の特性を踏まえ、津波により被害を受けた地域の復旧 及び復興に当たり、当該地域の産業の復興 及び雇用の確保に特に配慮するよう努めなければならない。

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1項

国 及び地方公共団体は、津波に関する防災上必要な教育 及び訓練の実施、津波からの迅速かつ円滑な避難の確保 その他の津波対策の推進に当たっては、情報通信技術の活用を通じて、これらをより効果的に行うよう努めなければならない。

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1項

国は、津波が、国境を越えて広域にわたり伝播する特性を有していること、 各国における調査研究の成果を国際的に共有する必要性が高いこと 及び我が国において蓄積された津波に関する知見の国際的評価が高いことに鑑み、津波による被害の発生を防止し、又は軽減するための国際協力の推進について、次に掲げる事項に特に配慮して取り組むよう努めなければならない。

一 号

国際的な観測 及び通報のための体制の整備

二 号
海外への研究者の派遣
三 号

外国人研究者 及び外国人留学生の受入れ 並びに帰国後のこれらの者との継続的な交流 及び連携

四 号

我が国において蓄積された知識、技術、記録等の海外への提供

五 号

海外の被災地域に対する適切かつ迅速な援助の実施

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1項

国民の間に広く津波対策についての理解と関心を深めるようにするため、津波防災の日を設ける。

2項

津波防災の日は、十一月五日とする。

3項

国 及び地方公共団体は、二千十五年十二月二十二日の国際連合総会において十一月五日を世界津波の日とすることが決議されたことも踏まえ、 津波防災の日には、津波対策に関する国際協力の推進に資するよう配慮しつつ、その趣旨にふさわしい行事が実施されるよう努めるものとする。

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1項

国は、津波対策の推進に関する施策を実施するため必要な財政上 又は税制上の措置 その他の措置を講ずるよう努めるものとする。

2項

国は、都道府県 又は市町村が、地形、土地利用の現況 その他地域の状況 及び津波に関する最新の知見を踏まえ、津波により浸水する範囲 及びその水深 その他地域において想定される津波による被害について、津波の規模 及び津波対策のための施設の整備等の状況ごとに複数の予測を行う場合 又はその内容を住民に視聴させるための映像を作成する場合には、必要な財政上の援助を行うものとする。

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