債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
民法
第二節 債権の効力
⤏ 第一款 債務不履行の責任等
債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時 又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
債務の履行が契約 その他の債務の発生原因 及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。
債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする。
債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法 その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制 その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。
ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき 又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。
ただし、その債務の不履行が契約 その他の債務の発生原因 及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
債務の履行が不能であるとき。
債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。
将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において、その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、前項と同様とする。
債務の不履行 又はこれによる損害の発生 若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任 及びその額を定める。
金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。
ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
賠償額の予定は、履行の請求 又は解除権の行使を妨げない。
違約金は、賠償額の予定と推定する。
前条の規定は、当事者が金銭でないものを損害の賠償に充てるべき旨を予定した場合について準用する。
債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物 又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物 又は権利について当然に債権者に代位する。
債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利 又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度において、債務者に対し、その権利の移転 又はその利益の償還を請求することができる。
⤏ 第二款 債権者代位権
債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。
ただし、債務者の一身に専属する権利 及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。
ただし、保存行為は、この限りでない。
債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。
債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。
債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払 又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払 又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。
この場合において、相手方が債権者に対してその支払 又は引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する。
債権者が被代位権利を行使したときは、相手方は、債務者に対して主張することができる抗弁をもって、債権者に対抗することができる。
債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立て その他の処分をすることを妨げられない。
この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。
債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。
登記 又は登録をしなければ権利の得喪 及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続 又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。
この場合においては、前三条の規定を準用する。
⤏ 第三款 詐害行為取消権
⤏ 第一目 詐害行為取消権の要件
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。
ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。
債務者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、受益者から相当の対価を取得しているときは、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
その行為が、不動産の金銭への換価 その他の当該処分による財産の種類の変更により、債務者において隠匿、無償の供与 その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
債務者が、その行為の当時、対価として取得した金銭 その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
受益者が、その行為の当時、債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
債務者がした既存の債務についての担保の供与 又は債務の消滅に関する行為について、債権者は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、詐害行為取消請求をすることができる。
その行為が、債務者が支払不能(債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第一号において同じ。)の時に行われたものであること。
その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
前項に規定する行為が、債務者の義務に属せず、又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において、次に掲げる要件のいずれにも該当するときは、債権者は、同項の規定にかかわらず、その行為について、詐害行為取消請求をすることができる。
その行為が、債務者が支払不能になる前三十日以内に行われたものであること。
その行為が、債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
債務者がした債務の消滅に関する行為であって、受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて、第四百二十四条に規定する要件に該当するときは、債権者は、前条第一項の規定にかかわらず、その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については、詐害行為取消請求をすることができる。
債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。
その転得者が受益者から転得した者である場合
その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
その転得者が他の転得者から転得した者である場合
その転得者 及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
⤏ 第二目 詐害行為取消権の行使の方法等
債権者は、受益者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。
受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。
債権者は、転得者に対する詐害行為取消請求において、債務者がした行為の取消しとともに、転得者が転得した財産の返還を請求することができる。
転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは、債権者は、その価額の償還を請求することができる。
詐害行為取消請求に係る訴えについては、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え
受益者
転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴え
その詐害行為取消請求の相手方である転得者
債権者は、詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは、遅滞なく、債務者に対し、訴訟告知をしなければならない。
債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。
債権者が第四百二十四条の六第一項後段 又は第二項後段の規定により価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。
債権者は、第四百二十四条の六第一項前段 又は第二項前段の規定により受益者 又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払 又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払 又は引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。
この場合において、受益者 又は転得者は、債権者に対してその支払 又は引渡しをしたときは、債務者に対してその支払 又は引渡しをすることを要しない。
債権者が第四百二十四条の六第一項後段 又は第二項後段の規定により受益者 又は転得者に対して価額の償還を請求する場合についても、前項と同様とする。
⤏ 第三目 詐害行為取消権の行使の効果
詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者 及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。
債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは、受益者は、債務者に対し、その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。
債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは、受益者は、その価額の償還を請求することができる。
債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(第四百二十四条の四の規定により取り消された場合を除く。)において、受益者が債務者から受けた給付を返還し、又はその価額を償還したときは、受益者の債務者に対する債権は、これによって原状に復する。
債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは、その転得者は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
ただし、その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付 又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
第四百二十五条の二に規定する行為が取り消された場合
その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権 又はその価額の償還請求権
前条に規定する行為が取り消された場合(第四百二十四条の四の規定により取り消された場合を除く。)
その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権
⤏ 第四目 詐害行為取消権の期間の制限
詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から二年を経過したときは、提起することができない。
行為の時から十年を経過したときも、同様とする。