鑑識は、予断を排除し、先入観に影響されることなく、あくまでも客観的に事実を明確にすることを目的としなければならない。
犯罪捜査規範
第10章 鑑識
鑑識を行うに当たつては、前項の目的を達するため、周密を旨とし、微細な点に至るまで看過することのないように努めるとともに、鑑識の対象となつた捜査資料が、公判審理において証明力を保持し得るように処置しておかなければならない。
捜査資料について迅速正確な鑑識を行うことができるようにするため、あらかじめ、自動車塗膜、農薬、医薬品 その他品質、形状、商標等によつて分類することのできる物件で必要なものを収集し、鑑識基礎資料として分類保存しておくように努めなければならない。
鑑識のため捜査資料を送付するに当たつては、変形、変質、滅失、散逸、混合等のことがないように注意するとともに、郵送の場合には、その外装、容器等につき細心の注意を払わなければならない。
特に必要があるときは、直接持参する等の方法をとらなければならない。
重要な鑑識資料の受渡しに当たつては、相互に、資料の名称、個数、受渡年月日 及び受渡人氏名を明確にしておかなければならない。
血液、精液、だ液、臓器、毛髪、薬品、爆発物等の鑑識に当たつては、なるべくその全部を用いることなく一部をもつて行い、残部は保存しておく等再鑑識のための考慮を払わなければならない。
捜査のため、死体の解剖、指掌紋 又は筆跡の鑑別、電子情報処理組織 及び電磁的記録の解析等専門的知識を要する鑑定を科学警察研究所 その他の犯罪鑑識機関 又は適当な学識経験者に嘱託するに当たつては、警察本部長 又は警察署長の指揮を受けなければならない。
鑑定を嘱託するに当たつては、鑑定嘱託書により、次に掲げる事項を具して、行わなければならない。
被疑者の住居、氏名、年齢 及び性別
鑑定資料の採取年月日 及び採取時の状態
事件内容の概要 その他参考事項
鑑定嘱託書に前項第4号に掲げる事項を記載するに当たつては、鑑定人に予断 又は偏見を生ぜしめないため当該鑑定に必要な範囲にとどめることに注意するとともに、その他鑑定嘱託書中に鑑定人に予断 又は偏見を生ぜしめるような事項を記載してはならない。
当該事件について口頭で必要な説明を加える場合もまた同様とする。
鑑定のため、人の住居 又は人の看守する邸宅、建造物 若しくは船舶内に入り、身体を検査し、死体を解剖し、墳墓を発掘し、又は物を破壊する必要があるときは、鑑定処分許可状の発付を受け、これを鑑定人に交付して鑑定を行わせるものとする。
被疑者の心神 又は身体に関する鑑定を嘱託する場合において、鑑定留置の処分を必要とするときは、裁判官にその処分を請求して鑑定留置状の発付を受け、これに基づいて病院 その他鑑定留置状所定の場所に被疑者を留置して鑑定を行わせるものとする。
前項の場合において、刑訴法第201条の2第1項第1号 又は第2号に掲げる者の個人特定事項について、必要と認めるときは、鑑定留置の処分の請求と同時に、裁判官に対し、同法第224条第3項において読み替えて準用する同法第207条の2第1項の規定による鑑定留置状に代わるものの交付の請求をするものとする。
第137条(令状の請求)の規定は、鑑定処分の許可の請求、鑑定留置の処分の請求、鑑定留置状に代わるものの交付の請求 及び鑑定留置期間の延長 又は短縮の請求について準用する。
鑑定留置状により被疑者を病院 その他の場所に留置した場合には、当該病院 その他の場所の管理者と緊密な連絡を取り、必要があるときは、看守者を付するための措置を講ずる等被疑者の自殺、逃亡 その他の事故を防止するように努めなければならない。
鑑定のため必要があるときは、鑑定人に書類 及び証拠物を閲覧 若しくは謄写させ、被疑者 その他関係者の取調べに立ち会わせ、又はこれらの者に対し質問をさせることができる。
鑑定を嘱託する場合には、鑑定人から、鑑定の日時、場所、経過 及び結果を関係者に容易に理解できるよう簡潔平明に記載した鑑定書の提出を求めるようにしなければならない。
ただし、鑑定の経過 及び結果が簡単であるときは、鑑定人から口頭の報告を求めることができるものとし、この場合には、その供述調書を作成しておかなければならない。
鑑定人が数人あるときは、共同の鑑定書の提出を求めることができる。
鑑定書の記載に不明 又は不備の点があるときは、これを補充する書面の提出を求めて鑑定書に添付しなければならない。