この法律は、国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することにかんがみ、裁判員の参加する刑事裁判に関し、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)及び刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の特則 その他の必要な事項を定めるものとする。
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律
第一章 総則
地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条 又は第三条の二の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第二十六条の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う。
死刑 又は無期の懲役 若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
裁判所法第二十六条第二項第二号に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)
前項の合議体の裁判官の員数は三人、裁判員の員数は六人とし、裁判官のうち一人を裁判長とする。
ただし、次項の決定があったときは、裁判官の員数は一人、裁判員の員数は四人とし、裁判官を裁判長とする。
第一項の規定により同項の合議体で取り扱うべき事件(以下「対象事件」という。)のうち、公判前整理手続による争点 及び証拠の整理において公訴事実について争いがないと認められ、事件の内容 その他の事情を考慮して適当と認められるものについては、裁判所は、裁判官一人 及び裁判員四人から成る合議体を構成して審理 及び裁判をする旨の決定をすることができる。
裁判所は、前項の決定をするには、公判前整理手続において、検察官、被告人 及び弁護人に異議のないことを確認しなければならない。
第三項の決定は、第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の期日までにしなければならない。
地方裁判所は、第三項の決定があったときは、裁判所法第二十六条第二項の規定にかかわらず、当該決定の時から第三項に規定する合議体が構成されるまでの間、一人の裁判官で事件を取り扱う。
裁判所は、被告人の主張、審理の状況 その他の事情を考慮して、事件を第三項に規定する合議体で取り扱うことが適当でないと認めたときは、決定で、同項の決定を取り消すことができる。
地方裁判所は、前条第一項各号に掲げる事件について、被告人の言動、被告人がその構成員である団体の主張 若しくは当該団体の他の構成員の言動 又は現に裁判員候補者 若しくは裁判員に対する加害 若しくはその告知が行われたこと その他の事情により、裁判員候補者、裁判員 若しくは裁判員であった者 若しくはその親族 若しくはこれに準ずる者の生命、身体 若しくは財産に危害が加えられるおそれ 又はこれらの者の生活の平穏が著しく侵害されるおそれがあり、そのため裁判員候補者 又は裁判員が畏怖し、裁判員候補者の出頭を確保することが困難な状況にあり 又は裁判員の職務の遂行ができずこれに代わる裁判員の選任も困難であると認めるときは、検察官、被告人 若しくは弁護人の請求により 又は職権で、これを裁判官の合議体で取り扱う決定をしなければならない。
前項の決定 又は同項の請求を却下する決定は、合議体でしなければならない。
ただし、当該前条第一項各号に掲げる事件の審判に関与している裁判官は、その決定に関与することはできない。
第一項の決定 又は同項の請求を却下する決定をするには、最高裁判所規則で定めるところにより、あらかじめ、検察官 及び被告人 又は弁護人の意見を聴かなければならない。
前条第一項の合議体が構成された後は、職権で第一項の決定をするには、あらかじめ、当該合議体の裁判長の意見を聴かなければならない。
刑事訴訟法第四十三条第三項 及び第四項 並びに第四十四条第一項の規定は、第一項の決定 及び同項の請求を却下する決定について準用する。
第一項の決定 又は同項の請求を却下する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
この場合においては、即時抗告に関する刑事訴訟法の規定を準用する。
地方裁判所は、第二条第一項各号に掲げる事件について、次のいずれかに該当するときは、検察官、被告人 若しくは弁護人の請求により 又は職権で、これを裁判官の合議体で取り扱う決定をしなければならない。
公判前整理手続による当該事件の争点 及び証拠の整理を経た場合であって、審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたること 又は裁判員が出頭しなければならないと見込まれる公判期日 若しくは公判準備が著しく多数に上ることを回避することができないときにおいて、他の事件における裁判員の選任 又は解任の状況、第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の経過 その他の事情を考慮し、裁判員の選任が困難であり 又は審判に要すると見込まれる期間の終了に至るまで裁判員の職務の遂行を確保することが困難であると認めるとき。
第二条第一項の合議体を構成する裁判員の員数に不足が生じ、かつ、裁判員に選任すべき補充裁判員がない場合であって、その後の審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたること 又はその期間中に裁判員が出頭しなければならないと見込まれる公判期日 若しくは公判準備が著しく多数に上ることを回避することができないときにおいて、他の事件における裁判員の選任 又は解任の状況、第四十六条第二項 及び同項において準用する第三十八条第一項後段の規定による裁判員 及び補充裁判員の選任のための手続の経過 その他の事情を考慮し、裁判員の選任が困難であり 又は審判に要すると見込まれる期間の終了に至るまで裁判員の職務の遂行を確保することが困難であると認めるとき。
前条第二項、第三項、第五項 及び第六項の規定は、前項の決定 及び同項の請求を却下する決定について準用する。
第一項の決定 又は同項の請求を却下する決定をするには、あらかじめ、当該第二条第一項各号に掲げる事件の係属する裁判所の裁判長の意見を聴かなければならない。
裁判所は、対象事件以外の事件であって、その弁論を対象事件の弁論と併合することが適当と認められるものについては、決定で、これを第二条第一項の合議体で取り扱うことができる。
裁判所は、前項の決定をした場合には、刑事訴訟法の規定により、同項の決定に係る事件の弁論と対象事件の弁論とを併合しなければならない。
裁判所は、第二条第一項の合議体で取り扱っている事件の全部 又は一部について刑事訴訟法第三百十二条の規定により罰条が撤回 又は変更されたため対象事件に該当しなくなったときであっても、当該合議体で当該事件を取り扱うものとする。
ただし、審理の状況 その他の事情を考慮して適当と認めるときは、決定で、裁判所法第二十六条の定めるところにより、当該事件を一人の裁判官 又は裁判官の合議体で取り扱うことができる。
第二条第一項の合議体で事件を取り扱う場合において、刑事訴訟法第三百三十三条の規定による刑の言渡しの判決、同法第三百三十四条の規定による刑の免除の判決 若しくは同法第三百三十六条の規定による無罪の判決 又は少年法(昭和二十三年法律第百六十八号)第五十五条の規定による家庭裁判所への移送の決定に係る裁判所の判断(次項第一号 及び第二号に掲げるものを除く。)のうち次に掲げるもの(以下「裁判員の関与する判断」という。)は、第二条第一項の合議体の構成員である裁判官(以下「構成裁判官」という。)及び裁判員の合議による。
前項に規定する場合において、次に掲げる裁判所の判断は、構成裁判官の合議による。
法令の解釈に係る判断
訴訟手続に関する判断(少年法第五十五条の決定を除く。)
その他裁判員の関与する判断以外の判断
裁判員の関与する判断をするための審理は構成裁判官 及び裁判員で行い、それ以外の審理は構成裁判官のみで行う。
第二条第三項の決定があった場合においては、構成裁判官の合議によるべき判断は、構成裁判官が行う。