この法律は、日本国の自衛隊とグレートブリテン 及び北アイルランド連合王国の軍隊との間における相互のアクセス 及び協力の円滑化に関する日本国とグレートブリテン 及び北アイルランド連合王国との間の協定(以下「協定」という。)の適確な実施を確保するため、協定の実施に伴う道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)及び道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)の適用除外、刑事手続等の特例、国の賠償責任の特例 並びに特殊海事損害に係る賠償の請求についての援助に関する措置を定め、もって我が国と英国との間における防衛の分野に係る協力の円滑化に資することを目的とする。
日本国の自衛隊とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の軍隊との間における相互のアクセス及び協力の円滑化に関する日本国とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国との間の協定の実施に関する法律
第一章 総則
この法律において「英国軍隊」とは、協定第一条(c)に規定する訪問部隊として日本国内に所在する英国の軍隊をいう。
この法律において「英国軍隊の文民構成員」とは、協定第一条(a)に規定する文民構成員であって、英国軍隊に係るものをいう。
この法律において「英国軍隊の構成員」とは、協定第一条(d)に規定する構成員であって、英国軍隊に係るものをいう。
第二章 道路運送法及び道路運送車両法の適用除外
公用車両(協定第一条(e)に規定する公用車両であって、英国軍隊に係るものをいう。次項において同じ。)には、道路運送法第九十四条 及び第九十五条の規定は、適用しない。
公用車両(日本国において賃借されるものを除く。)には、道路運送車両法第四条、第十九条、第二十九条、第三十一条から第三十三条まで、第四十条から第四十五条まで、第四十七条から第五十条まで、第五十四条、第五十四条の二、第五十六条、第五十八条、第六十三条、第六十六条、第七十三条第一項、第九十七条の三、第九十九条から第九十九条の三まで及び第百条の規定は、適用しない。
第三章 刑事手続等の特例
検察官 又は司法警察員は、逮捕された者が英国軍隊の構成員 又は英国軍隊の文民構成員であり、かつ、その者の犯した罪が協定第二十一条第四項(a)(i)又は(ii)に掲げる罪のいずれかに明らかに該当すると認めたときは、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定にかかわらず、直ちに被疑者を英国軍隊に引き渡さなければならない。
司法警察員は、前項の規定により被疑者を英国軍隊に引き渡した場合においても、必要な捜査を行い、速やかに書類 及び証拠物と共に事件を検察官に送致しなければならない。
検察官 又は司法警察員は、英国軍隊から日本国の法令による罪を犯した英国軍隊の構成員 又は英国軍隊の文民構成員を引き渡す旨の通知があった場合には、裁判官の発する逮捕状を示して被疑者の引渡しを受け、又は検察事務官 若しくは司法警察職員にその引渡しを受けさせなければならない。
この場合において、刑事訴訟法第二百一条の二第二項の規定による逮捕状に代わるものの交付があったときは、当該逮捕状に代わるものを示して、その引渡しを受けることができる。
検察官 又は司法警察員は、前項に規定する場合において、引き渡されるべき者が日本国の法令による罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由があって、急速を要し、あらかじめ裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げてその者の引渡しを受け、又は受けさせなければならない。
この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。
逮捕状が発せられないときは、直ちにその者を釈放し、又は釈放させなければならない。
前二項の場合を除くほか、検察官 又は司法警察員は、引き渡される者を受け取った後、直ちにその者を釈放し、又は釈放させなければならない。
第一項 又は第二項の規定による引渡しがあった場合には、刑事訴訟法第百九十九条の規定により被疑者が逮捕された場合の手続の例による。
ただし、同法第二百三条第一項、第二百四条第一項 及び第二百五条第二項の時間の制限は、それぞれ第一項 又は第二項の規定による引渡しがあった時から起算する。
英国軍隊の財産(英国軍隊が日本国内に所在していない場合にあっては、日本国内に所在する英国の軍隊の財産であって、英国軍隊の用に供されていたものを含む。)についての捜索(捜索状の執行を含む。)、差押え(差押状の執行を含む。)、記録命令付差押え(記録命令付差押状の執行を含む。)又は検証(検証状の執行を含む。)は、検察官 若しくは司法警察員が英国軍隊(英国軍隊が日本国内に所在していない場合にあっては、英国の軍隊。以下この条において同じ。)の権限ある者の同意を得て行い、又は検察官 若しくは司法警察員から英国軍隊の権限ある者に嘱託して行うものとする。
ただし、裁判所 又は裁判官が必要とする検証は、その裁判所 若しくは裁判官が英国軍隊の権限ある者の同意を得て行い、又はその裁判所 若しくは裁判官から英国軍隊の権限ある者に嘱託して行うものとする。
裁判所、検察官 又は司法警察員は、その保管する書類 又は証拠物について、英国軍隊 その他の英国の権限ある当局から、英国軍隊の構成員 又は英国軍隊の文民構成員が犯した罪に係る刑事事件の審判 又は捜査のため必要があるものとして申出があったときは、その閲覧 若しくは謄写を許し、謄本を作成して交付し、又はこれを一時貸与し、若しくは引き渡すことができる。
検察官 又は司法警察員は、英国軍隊から、日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件につき、英国軍隊の構成員 又は英国軍隊の文民構成員の逮捕の要請を受けたときは、これを逮捕し、又は検察事務官 若しくは司法警察職員に逮捕させることができる。
前項の場合において、逮捕の要請があった者が、人の住居 又は人の看守する邸宅、建造物 若しくは船舶内にいることを疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官 又は司法警察員は、裁判官の許可を得て、その場所に入りその者を捜索し、又は検察事務官 若しくは司法警察職員にその場所に入りその者を捜索させることができる。
ただし、追跡されている者がその場所に入ったことが明らかであって、急速を要し裁判官の許可を得ることができないときは、その許可を得ることを要しない。
第一項の規定により英国軍隊の構成員 又は英国軍隊の文民構成員を逮捕したときは、直ちに検察官 又は司法警察員から、その者を英国軍隊に引き渡さなければならない。
司法警察員は、前項の規定により英国軍隊の構成員 又は英国軍隊の文民構成員を引き渡したときは、その旨を検察官に通報しなければならない。
検察官 又は司法警察員は、英国軍隊 その他の英国の権限ある当局から、日本国の法令による罪に係る事件以外の刑事事件につき、協力の要請を受けたときは、参考人を取り調べ、実況見分をし、又は書類 その他の物の所有者、所持者 若しくは保管者にその物の提出を求めることができる。
検察官 又は司法警察員は、検察事務官 又は司法警察職員に前項の処分をさせることができる。
前二項の処分に際しては、検察官、検察事務官 又は司法警察職員は、その処分を受ける者に対して英国軍隊 その他の英国の権限ある当局の要請による旨を明らかにしなければならない。
第五条の規定は、英国の権限ある当局から、協定第一条(c)に規定する訪問部隊として英国内に所在する自衛隊に係る同条(d)に規定する構成員 又は同条(a)に規定する文民構成員(次項において「自衛隊に係る構成員 又は文民構成員」という。)であって、日本国の法令による罪を犯した者を引き渡す旨の通知があった場合について準用する。
第七条の規定は、英国の権限ある当局から、自衛隊に係る構成員 又は文民構成員が犯した罪に係る刑事事件の審判 又は捜査のために必要があるものとして申出があったときについて準用する。
刑事補償法(昭和二十五年法律第一号)又は少年の保護事件に係る補償に関する法律(平成四年法律第八十四号)の規定の適用については、英国軍隊 その他の英国の権限ある当局による抑留 又は拘禁は、刑事訴訟法による抑留 若しくは拘禁 又は少年の保護事件に係る補償に関する法律第二条第一項第二号に掲げる身体の自由の拘束とみなす。
第四章 国の賠償責任の特例
英国軍隊が占有し、所有し、又は管理する土地の工作物 その他の物件の設置 又は管理に瑕疵があったために日本国内において他人に損害を生じたときは、国が占有し、所有し、又は管理する土地の工作物 その他の物件の設置 又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じた場合の例により、国がその損害を賠償する責任を負う。
前二条の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
第五章 特殊海事損害に係る賠償の請求についての援助
特殊海事損害(協定第二十三条第六項(c)に規定する損害であって同条第五項の規定の適用を受けないものをいう。)を被った日本国民 又は日本国法人は、防衛省令で定めるところにより、その被った損害について英国に対して行う賠償の請求のあっせんを防衛大臣に申請することができる。
防衛大臣は、前条の規定による請求のあっせんの申請があったときは、当該申請に係る請求のあっせんを行わなければならない。
ただし、請求の理由がないと認められるときは、この限りでない。
政府は、前条本文の規定によるあっせんにより当該あっせんの申請をした者に係る請求が解決されない場合において、その者が英国の裁判所に当該請求に係る訴訟を提起するときは、政令で定めるところにより、訴訟に関する費用の立替え その他当該訴訟について必要な援助を行うことができる。
前項の立替金には、利息を付さない。
政府は、前条第一項の規定により費用の立替えを受けた者に係る訴訟が終了した場合には、その立替金を償還させなければならない。
ただし、政令で定めるところにより、償還金の支払を猶予し、又は立替金の全部 若しくは一部の償還を免除することができる。