この法律は、性行為映像制作物の制作公表により出演者の心身 及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがあり、また、現に生じていることに鑑み、性行為映像制作物への出演に係る被害の発生 及び拡大の防止を図り、並びにその被害を受けた出演者の救済に資するために徹底した対策を講ずることが出演者の個人としての人格を尊重し、あわせてその心身の健康 及び私生活の平穏 その他の利益を保護するために不可欠であるとの認識の下に、性行為の強制の禁止 並びに他の法令による契約の無効 及び性行為 その他の行為の禁止 又は制限をいささかも変更するものではないとのこの法律の実施 及び解釈の基本原則を明らかにした上で、出演契約の締結 及び履行等に当たっての制作公表者等の義務、出演契約の効力の制限 及び解除 並びに差止請求権の創設等の厳格な規制を定める特則 並びに特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)の特例を定めるとともに、出演者等のための相談体制の整備等について定め、もって出演者の性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資することを目的とする。
性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律
第一章 総則
この法律において「性行為」とは、性交 若しくは性交類似行為 又は他人が人の露出された性器等(性器 又は肛門をいう。以下 この項において同じ。)を触る行為 若しくは人が自己 若しくは他人の露出された性器等を触る行為をいう。
この法律において「性行為映像制作物」とは、性行為に係る人の姿態を撮影した映像 並びにこれに関連する映像 及び音声によって構成され、社会通念上一体の内容を有するものとして制作された電磁的記録(電子的方式、磁気的方式 その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)又はこれに係る記録媒体であって、その全体として専ら性欲を興奮させ 又は刺激するものをいう。
この法律において「性行為映像制作物への出演」とは、性行為映像制作物において性行為に係る姿態の撮影の対象となることをいう。
この法律において「出演者」とは、性行為映像制作物への出演をし、又はしようとする者をいう。
この法律において「制作公表」とは、撮影、編集、流通、公表(頒布、公衆送信(公衆(特定かつ多数の者を含む。)によって直接受信されることを目的として無線通信 又は有線電気通信の送信を行うことをいう。)又は上映をいう。以下同じ。)等(これらの行為に関するあっせんを含む。)の一連の過程の全部 又は一部を行うことをいう。
この法律において「出演契約」とは、出演者が、性行為映像制作物への出演をして、その性行為映像制作物の制作公表を行うことを承諾することを内容とする契約をいう。
この法律において「制作公表者」とは、性行為映像制作物の制作公表を行う者として、出演者との間で出演契約を締結し、又は締結しようとする者をいう。
この法律において「制作公表従事者」とは、制作公表者以外の者であって、制作公表者との間の雇用、請負、委任 その他の契約に基づき性行為映像制作物の制作公表に従事する者をいう。
制作公表者 及び制作公表従事者は、その行う性行為映像制作物の制作公表により出演者の心身 及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがあり、また、現に生じていることを深く自覚して、出演者の個人としての人格を尊重し、あわせてその心身の健康 及び私生活の平穏 その他の利益を保護し、もってその性をめぐる個人の尊厳が重んぜられるようにしなければならない。
制作公表者 及び制作公表従事者は、性行為映像制作物に係る撮影に当たって、出演者に対して性行為を強制してはならない。
この法律のいかなる規定も、公の秩序 又は善良の風俗に反する法律行為を無効とする民法(明治二十九年法律第八十九号)第九十条の規定 その他の法令の規定により無効とされる契約を有効とするものと解釈してはならない。
制作公表者 及び制作公表従事者は、性行為映像制作物の制作公表に当たっては、この法律により刑法(明治四十年法律第四十五号)、売春防止法(昭和三十一年法律第百十八号)その他の法令において禁止され 又は制限されている性行為 その他の行為を行うことができることとなるものではないことに留意するとともに、出演者の権利 及び自由を侵害することがないようにしなければならない。
第二章 出演契約等に関する特則
第一節 締結に関する特則
出演契約は、性行為映像制作物ごとに締結しなければならない。
出演契約は、書面 又は電磁的記録でしなければ、その効力を生じない。
前項の出演契約に係る書面 又は電磁的記録(以下「出演契約書等」という。)には、制作公表者 及び出演者の氏名 又は名称 その他制作公表者 及び出演者を特定するために必要な事項 並びに当該出演契約の締結の日時 及び場所のほか、次に掲げる事項(当該制作公表者に係る部分に関する事項に限る。)を記載し、又は記録しなければならない。
当該出演者が性行為映像制作物への出演をすること。
当該出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影を予定する日時 及び場所
前号の撮影の対象となる当該出演者の性行為に係る姿態の具体的内容
前号の性行為に係る姿態の相手方を特定するために必要な事項
当該性行為映像制作物の公表を行う者が制作公表者以外の者であるときは、その旨 及び当該公表を行う者の氏名 又は名称 その他当該公表を行う者を特定するために必要な事項
当該出演者が受けるべき報酬の額 及び支払の時期
制作公表者は、出演者との間で出演契約を締結しようとするときは、あらかじめ、その出演者に対し、前条第三項に規定する事項(同項各号に掲げる事項については、当該制作公表者に係る部分に関する事項に限る。次条 及び第二十一条第二号において「出演契約事項」という。)について出演契約書等の案を示して説明するとともに、次に掲げる事項についてこれらの事項を記載し 又は記録した書面 又は電磁的記録(以下「説明書面等」という。)を交付し 又は提供して説明しなければならない。
第七条から第十六条までに規定する事項
第十一条の取消権については追認をすることができる時から、第十二条第一項の解除権については出演者が当該解除権を行使することができることを知った時から、それぞれ、時効によって消滅するまで、五年間行使することができること。
撮影された映像により出演者が特定される可能性があること。
第十七条第一項の規定により国が整備した体制における同項に規定する相談に応じる機関(同条第二項の規定により都道府県が整備した体制における当該相談に応じる機関があるときは、当該機関を含む。)の名称 及び連絡先
制作公表者は、前項の規定による説明を行うに当たっては、出演者がその内容を容易かつ正確に理解することができるよう、丁寧に、かつ、分かりやすく、これを行わなければならない。
制作公表者以外の者は、出演契約の内容 又は第一項各号に掲げる事項に関し、出演者を誤認させるような説明 その他の行為をしてはならない。
制作公表者は、出演者との間で出演契約を締結したときは、速やかに、当該出演者に対し、出演契約事項が記載され 又は記録された出演契約書等を交付し、又は提供しなければならない。
第二節 履行等に関する特則
出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影は、当該出演者が出演契約書等の交付 若しくは提供を受けた日 又は説明書面等の交付 若しくは提供を受けた日のいずれか遅い日から一月を経過した後でなければ、行ってはならない。
出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影において、出演者は、出演契約において定められている性行為に係る姿態の撮影であっても、その全部 又は一部を拒絶することができる。
これによって制作公表者 又は第三者に損害が生じたときであっても、当該出演者は、その賠償の責任を負わない。
出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影に当たっては、出演者の健康の保護(生殖機能の保護を含む。)その他の安全 及び衛生 並びに出演者が性行為に係る姿態の撮影を拒絶することができるようにすること その他その債務の履行の任意性が確保されるよう、特に配慮して必要な措置を講じなければならない。
いかなる名称によるかを問わず、出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影に密接に関連する出演者の撮影(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(平成二十六年法律第百二十六号)第二条第一項各号のいずれかに掲げる人の姿態の撮影に限る。)は、出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影とみなして前三項の規定を適用する。
この場合において、
前二項中
「性行為に係る姿態」とあるのは、
「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律第二条第一項各号のいずれかに掲げる人の姿態」と
する。
制作公表者は、性行為映像制作物の公表が行われるまでの間に、出演者に対し、出演契約に基づいて撮影された映像のうち当該出演者の性行為映像制作物への出演に係る映像であって公表を行うもの(当該制作公表者が当該公表に関する権原を有するものに限る。)を確認する機会を与えなければならない。
性行為映像制作物の公表は、当該性行為映像制作物に係る全ての撮影が終了した日から四月を経過した後でなければ、行ってはならない。
第三節 無効、取消し及び解除等に関する特則
性行為映像制作物を特定しないで、出演者に契約の相手方その他の者が指定する性行為映像制作物への出演をする義務を課す契約の条項は、無効とする。
次に掲げる出演契約の条項は、無効とする。
出演者の債務不履行について損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項
制作公表者の債務不履行により出演者に生じた損害を賠償する責任の全部 若しくは一部を免除し、又は制作公表者にその責任の有無 若しくは限度を決定する権限を付与する条項
制作公表者の債務の履行に際してされたその制作公表者の不法行為により出演者に生じた損害を賠償する責任の全部 若しくは一部を免除し、又は制作公表者にその責任の有無 若しくは限度を決定する権限を付与する条項
出演者の権利を制限し 又はその義務を加重する条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して出演者の利益を一方的に害するものと認められるもの
制作公表者が第五条第一項 又は第六条の規定に違反したときは、出演者は、その出演者の性行為映像制作物への出演に係る出演契約の申込み 又はその承諾の意思表示を取り消すことができる。
制作公表従事者が第五条第三項の規定に違反したときも、同様とする。
次に掲げるときは、出演者は、民法第五百四十一条の催告をすることなく、直ちにその出演者の性行為映像制作物への出演に係る出演契約の解除をすることができる。
第七条第一項 又は第三項の規定に違反して、その出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影(同条第四項の規定により出演者の性行為映像制作物への出演に係る撮影とみなされる撮影を含む。)が行われたとき。
第八条の規定に違反して、その出演者に対し、撮影された映像のうち当該出演者の性行為映像制作物への出演に係る映像であって公表を行うものを確認する機会を与えることなく、性行為映像制作物の公表が行われたとき。
第九条の規定に違反して、同条の期間を経過する前に性行為映像制作物の公表が行われたとき。
前項の解除があった場合においては、制作公表者は、当該解除に伴う損害賠償を請求することができない。
出演者は、任意に、書面 又は電磁的記録により、その出演者の性行為映像制作物への出演に係る出演契約の申込みの撤回 又は当該出演契約の解除(以下この条において「出演契約の任意解除等」という。)をすることができる。
ただし、当該出演者に係る性行為映像制作物の公表が行われた日から一年を経過したとき(出演者が、制作公表者 若しくは制作公表従事者が第五項の規定に違反して出演契約の任意解除等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことによりその告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は制作公表者 若しくは制作公表従事者が第六項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによって当該期間を経過するまでにその出演契約の任意解除等をしなかった場合には、当該出演者が、当該制作公表者 又は制作公表従事者が内閣府令で定めるところによりその出演契約の任意解除等をすることができる旨を記載して交付した書面を受領した日から一年を経過したとき)は、この限りでない。
出演契約の任意解除等は、出演契約の任意解除等に係る書面 又は電磁的記録による通知を発した時に、その効力を生ずる。
出演契約の任意解除等があった場合においては、制作公表者は、当該出演契約の任意解除等に伴う損害賠償を請求することができない。
前三項の規定に反する特約で出演者に不利なものは、無効とする。
制作公表者 及び制作公表従事者は、出演契約の任意解除等を妨げるため、出演者に対し、出演契約の任意解除等に関する事項(第一項から第三項までの規定に関する事項を含む。)その他その出演契約に関する事項であって出演者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、不実のことを告げる行為をしてはならない。
制作公表者 及び制作公表従事者は、出演契約の任意解除等を妨げるため、出演者を威迫して困惑させてはならない。
出演契約が解除されたときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。
第四節 差止請求権
出演者は、出演契約に基づくことなく性行為映像制作物の制作公表が行われたとき 又は出演契約の取消し 若しくは解除をしたときは、当該性行為映像制作物の制作公表を行い 又は行うおそれがある者に対し、当該制作公表の停止 又は予防を請求することができる。
出演者は、前項の規定による請求をするに際し、その制作公表の停止 又は予防に必要な措置を請求することができる。
制作公表者は、出演者が第一項の規定による請求をしようとするときは、当該出演者に対し、その性行為映像制作物の制作公表を行い 又は行うおそれがある者に関する情報の提供、当該者に対する制作公表の停止 又は予防に関する通知 その他必要な協力を行わなければならない。
第三章 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の特例
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第三条第二項 及び第四条(第一号に係る部分に限る。)並びに私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律第四条の場合のほか、特定電気通信役務提供者(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第二条第三号の特定電気通信役務提供者をいう。第一号 及び第二号において同じ。)は、特定電気通信(同法第二条第一号の特定電気通信をいう。第一号において同じ。)による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者(同法第二条第四号の発信者をいう。第二号 及び第三号において同じ。)に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれにも該当するときは、賠償の責めに任じない。
特定電気通信による情報であって性行為映像制作物に係るものの流通によって自己の権利を侵害されたとする者(当該性行為映像制作物の出演者に限る。)から、当該権利を侵害したとする情報(以下 この号 及び次号において「性行為映像制作物侵害情報」という。)、当該権利が侵害された旨、当該権利が侵害されたとする理由 及び当該性行為映像制作物侵害情報が性行為映像制作物に係るものである旨(同号において「性行為映像制作物侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し性行為映像制作物侵害情報の送信を防止する措置(同号 及び第三号において「性行為映像制作物侵害情報送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があったとき。
当該特定電気通信役務提供者が、当該性行為映像制作物侵害情報の発信者に対し当該性行為映像制作物侵害情報等を示して当該性行為映像制作物侵害情報送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会したとき。
当該発信者が当該照会を受けた日から二日を経過しても当該発信者から当該性行為映像制作物侵害情報送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。
第四章 相談体制の整備等
国は、性行為映像制作物への出演に係る勧誘、出演契約等の締結 及びその履行等、性行為映像制作物の制作公表の各段階において、出演者の個人としての人格を尊重し、あわせてその心身の健康 及び私生活の平穏 その他の利益を保護し、もってその性をめぐる個人の尊厳が重んぜられるようにする観点から、性行為映像制作物への出演に係る被害の発生 及び拡大の防止を図り、並びにその被害を受けた出演者の救済に資するとともに、その被害の背景にある貧困、性犯罪 及び性暴力等の問題の根本的な解決に資するよう、出演者その他の者からの相談に応じ、その心身の状態 及び生活の状況 その他の事情を勘案して適切に対応するために必要な体制を整備するものとする。
都道府県は、その地域の実情を踏まえつつ、前項の国の体制の整備に準じた体制の整備をするよう努めるものとする。
国 及び地方公共団体は、前条に定めるもののほか、性行為映像制作物への出演に係る被害の背景にある貧困、性犯罪 及び性暴力等の問題の根本的な解決に資するよう、社会福祉に関する施策、性犯罪 及び性暴力の被害者への支援に関する施策 その他の関連する施策との連携を図りつつ、出演者その他の者への支援 その他必要な措置を講ずるものとする。
国 及び地方公共団体は、性行為映像制作物への出演に係る被害が一度発生した場合においてはその被害の回復を図ることが著しく困難となることに鑑み、学校をはじめ、地域、家庭、職域 その他の様々な場を通じて、性行為映像制作物への出演に係る被害の発生を未然に防止するために必要な事項に関する国民の十分な理解と関心を深めるために必要な教育活動 及び啓発活動の充実を図るものとする。
第五章 罰則
第十三条第五項 又は第六項の規定に違反したときは、その違反行為をした者は、三年以下の懲役 若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、六月以下の懲役 若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第五条第一項の規定に違反して、説明書面等を交付せず 若しくは提供せず、又は同項各号に掲げる事項が記載され 若しくは記録されていない説明書面等 若しくは虚偽の記載 若しくは記録のある説明書面等を交付し 若しくは提供したとき。
第六条の規定に違反して、出演契約書等を交付せず 若しくは提供せず、又は出演契約事項が記載され 若しくは記録されていない出演契約書等 若しくは虚偽の記載 若しくは記録のある出演契約書等を交付し 若しくは提供したとき。
法人の代表者 若しくは管理人 又は法人 若しくは人の代理人、使用人 その他の従業者が、その法人 又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
第二十条
一億円以下の罰金刑
前条
同条の罰金刑
人格のない社団 又は財団について前項の規定の適用がある場合には、その代表者 又は管理人が、その訴訟行為につきその人格のない社団 又は財団を代表するほか、法人を被告人 又は被疑者とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。