受刑者には、矯正処遇として、第九十二条 又は第九十三条に規定する作業を行わせ、並びに第百三条 及び第百四条に規定する指導を行う。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
第十節 矯正処遇の実施等
⤏ 第一款 通則
矯正処遇は、処遇要領(矯正処遇の目標 並びにその基本的な内容 及び方法を受刑者ごとに定める矯正処遇の実施の要領をいう。以下この条 及び次条第一項において同じ。)に基づいて行うものとする。
処遇要領は、必要に応じ、受刑者の希望を参酌して定めるものとする。
これを変更しようとするときも、同様とする。
矯正処遇は、必要に応じ、医学、心理学、教育学、社会学 その他の専門的知識 及び技術を活用して行うものとする。
刑事施設の長は、処遇要領を定めるに当たっては、法務省令で定めるところにより、被害者等(受刑者が刑を言い渡される理由となった犯罪により害を被った者(以下この項において「被害者」という。)又はその法定代理人 若しくは被害者が死亡した場合 若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族 若しくは兄弟姉妹をいう。以下この節において同じ。)の被害に関する心情、被害者等の置かれている状況 及び第三項の規定により聴取した心情等を考慮するものとする。
処遇要領を変更しようとするときも、同様とする。
刑事施設の長は、矯正処遇を行うに当たっては、前項の心情 及び状況 並びに次項の規定により聴取した心情等を考慮するものとする。
刑事施設の長は、法務省令で定める受刑者について、被害者等から、被害に関する心情、被害者等の置かれている状況 又は当該受刑者の生活 及び行動に関する意見(以下この節において「心情等」という。)を述べたい旨の申出があったときは、法務省令で定めるところにより、当該心情等を聴取するものとする。
ただし、当該被害に係る事件の性質、当該被害者等と当該受刑者との関係 その他の被害者等に関する事情を考慮して相当でないと認めるときは、この限りでない。
受刑者には、矯正処遇を行うほか、次の各号に掲げる期間において、当該各号に定める指導を行う。
刑の執行開始後の法務省令で定める期間
受刑の意義 その他矯正処遇の実施の基礎となる事項 並びに刑事施設における生活 及び行動に関する指導
釈放前における法務省令で定める期間
釈放後の社会生活において直ちに必要となる知識の付与 その他受刑者の帰住 及び釈放後の生活に関する指導
前項第二号に掲げる期間における受刑者の処遇は、できる限り、これにふさわしい設備と環境を備えた場所で行うものとし、必要に応じ、第百六条の二第一項の規定による外出 又は外泊を許し、その他円滑な社会復帰を図るため必要な措置を執るものとする。
刑事施設の長は、法務省令で定める基準に従い、第一項各号に定める指導を行う日 及び時間を定める。
矯正処遇 及び前条第一項の規定による指導(以下「矯正処遇等」という。)は、その効果的な実施を図るため、必要に応じ、受刑者を集団に編成して行うものとする。
前項の場合において特に必要があるときは、第四条第一項の規定にかかわらず、居室外に限り、同項第一号に掲げる別による分離をしないことができる。
矯正処遇等は、その効果的な実施を図るため必要な限度において、刑事施設の外の適当な場所で行うことができる。
受刑者の自発性 及び自律性を涵養するため、刑事施設の規律 及び秩序を維持するための受刑者の生活 及び行動に対する制限は、法務省令で定めるところにより、第三十条の目的を達成する見込みが高まるに従い、順次緩和されるものとする。
前項の場合において、第三十条の目的を達成する見込みが特に高いと認められる受刑者の処遇は、法務省令で定めるところにより、開放的施設(収容を確保するため通常必要とされる設備 又は措置の一部を設けず、又は講じない刑事施設の全部 又は一部で法務大臣が指定するものをいう。以下同じ。)で行うことができる。
刑事施設の長は、受刑者の改善更生の意欲を喚起するため、次に掲げる処遇について、法務省令で定めるところにより、一定の期間ごとの受刑態度の評価に応じた優遇措置を講ずるものとする。
第四十条第二項の規定により物品を貸与し、又は支給すること。
第四十一条第一項の規定により自弁の物品の使用 又は摂取を許すこと。
第百十一条の面会をすることができる時間 又は回数を定めること。
その他法務省令で定める処遇
刑事施設の長は、受刑者の処遇を行うに当たり必要があると認めるときは、受刑者の親族、民間の篤志家、関係行政機関 その他の者に対し、協力を求めるものとする。
前項の協力をした者は、その協力を行うに当たって知り得た受刑者に関する秘密を漏らしてはならない。
刑事施設の長は、受刑者の資質 及び環境の調査のため必要があるときは、公務所 又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
⤏ 第二款 作業
懲役受刑者(刑事施設に収容されているものに限る。以下この節において同じ。)に行わせる作業は、懲役受刑者ごとに、刑事施設の長が指定する。
刑事施設の長は、禁錮受刑者(刑事施設に収容されているものに限る。以下この節において同じ。)又は拘留受刑者(刑事施設に収容されているものに限る。)が刑事施設の長の指定する作業を行いたい旨の申出をした場合には、法務省令で定めるところにより、その作業を行うことを許すことができる。
作業は、できる限り、受刑者の勤労意欲を高め、これに職業上有用な知識 及び技能を習得させるように実施するものとする。
受刑者に職業に関する免許 若しくは資格を取得させ、又は職業に必要な知識 及び技能を習得させる必要がある場合において、相当と認めるときは、これらを目的とする訓練を作業として実施する。
刑事施設の長は、法務省令で定める基準に従い、一日の作業時間 及び作業を行わない日を定める。
刑事施設の長は、作業を行う受刑者の安全 及び衛生を確保するため必要な措置を講じなければならない。
受刑者は、前項の規定により刑事施設の長が講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。
第二項の規定により刑事施設の長が講ずべき措置 及び前項の規定により受刑者が守らなければならない事項は、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)その他の法令に定める労働者の安全 及び衛生を確保するため事業者が講ずべき措置 及び労働者が守らなければならない事項に準じて、法務大臣が定める。
刑事施設の長は、刑法第二十八条(国際受刑者移送法第二十一条において読み替えて適用する場合を含む。)、少年法第五十八条 又は国際受刑者移送法第二十二条の規定により仮釈放を許すことができる期間を経過した懲役受刑者 又は禁錮受刑者が、第八十八条第二項の規定により開放的施設において処遇を受けていること その他の法務省令で定める事由に該当する場合において、その円滑な社会復帰を図るため必要があるときは、刑事施設の職員の同行なしに、その受刑者を刑事施設の外の事業所(以下この条において「外部事業所」という。)に通勤させて作業を行わせることができる。
前項の規定による作業(以下「外部通勤作業」という。)は、外部事業所の業務に従事し、又は外部事業所が行う職業訓練を受けることによって行う。
受刑者に外部通勤作業を行わせる場合には、刑事施設の長は、法務省令で定めるところにより、当該外部事業所の事業主(以下この条において「外部事業主」という。)との間において、受刑者の行う作業の種類、作業時間、受刑者の安全 及び衛生を確保するため必要な措置 その他外部通勤作業の実施に関し必要な事項について、取決めを行わなければならない。
刑事施設の長は、受刑者に外部通勤作業を行わせる場合には、あらかじめ、その受刑者が外部通勤作業に関し遵守すべき事項(以下この条において「特別遵守事項」という。)を定め、これをその受刑者に告知するものとする。
特別遵守事項は、次に掲げる事項を具体的に定めるものとする。
指定された経路 及び方法により移動しなければならないこと。
指定された時刻までに刑事施設に帰着しなければならないこと。
正当な理由なく、外部通勤作業を行う場所以外の場所に立ち入ってはならないこと。
外部事業主による作業上の指示に従わなければならないこと。
正当な理由なく、犯罪性のある者 その他接触することにより矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者と接触してはならないこと。
刑事施設の長は、外部通勤作業を行う受刑者が遵守事項 又は特別遵守事項を遵守しなかった場合 その他外部通勤作業を不適当とする事由があると認める場合には、これを中止することができる。
作業の実施による収入は、国庫に帰属する。
刑事施設の長は、作業を行った受刑者に対しては、釈放の際(その者が受刑者以外の被収容者となったときは、その際)に、その時における報奨金計算額に相当する金額の作業報奨金を支給するものとする。
刑事施設の長は、法務省令で定めるところにより、毎月、その月の前月において受刑者が行った作業に対応する金額として、法務大臣が定める基準に従い、その作業の成績 その他就業に関する事項を考慮して算出した金額を報奨金計算額に加算するものとする。
ただし、釈放の日の属する月における作業に係る加算は、釈放の時に行う。
前項の基準は、作業の種類 及び内容、作業に要する知識 及び技能の程度等を考慮して定める。
刑事施設の長は、受刑者がその釈放前に作業報奨金の支給を受けたい旨の申出をした場合において、その使用の目的が、自弁物品等の購入、親族の生計の援助、被害者に対する損害賠償への充当等相当なものであると認めるときは、第一項の規定にかかわらず、法務省令で定めるところにより、その支給の時における報奨金計算額に相当する金額の範囲内で、申出の額の全部 又は一部の金額を支給することができる。
この場合には、その支給額に相当する金額を報奨金計算額から減額する。
受刑者が次の各号のいずれかに該当する場合において、当該各号に定める日から起算して六月を経過する日までに刑事施設に収容されなかったときは、その者の報奨金計算額は、零とする。
逃走したとき
逃走した日
第八十三条第二項の規定により解放された場合において、同条第三項に規定する避難を必要とする状況がなくなった後速やかに同項に規定する場所に出頭しなかったとき
避難を必要とする状況がなくなった日
外部通勤作業 又は第百六条の二第一項の規定による外出 若しくは外泊の場合において、刑事施設の長が指定した日時までに刑事施設に帰着しなかったとき
その日
刑事施設の長は、受刑者が死亡した場合には、法務省令で定めるところにより、その遺族等に対し、その時に釈放したとするならばその受刑者に支給すべき作業報奨金に相当する金額を支給するものとする。
刑事施設の長は、受刑者が作業上死亡した場合(作業上負傷し、又は疾病にかかった受刑者が受刑者以外の被収容者となった場合において、その被収容者がその負傷 又は疾病により死亡したときを含む。)には、法務省令で定めるところにより、その遺族等に対し、死亡手当金を支給するものとする。
刑事施設の長は、作業上負傷し、又は疾病にかかった受刑者が治った場合(作業上負傷し、又は疾病にかかった受刑者が受刑者以外の被収容者となった場合において、その被収容者が治ったときを含む。)において、身体に障害が残ったときは、法務省令で定めるところにより、その者に障害手当金を支給するものとする。
ただし、その者が故意 又は重大な過失によって負傷し、又は疾病にかかったときは、その全部 又は一部を支給しないことができる。
前二項の規定により支給する手当金の額は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)に基づく災害補償の額に関する基準を参酌して法務省令で定める基準に従い算出した金額とする。
刑事施設の長は、作業上負傷し、又は疾病にかかった受刑者が釈放の時になお治っていない場合(作業上負傷し、又は疾病にかかった受刑者が受刑者以外の被収容者となった場合において、その被収容者が釈放の時になお治っていないときを含む。)において、その傷病の性質、程度 その他の状況を考慮して相当と認められるときは、法務省令で定めるところにより、その者に特別手当金を支給するものとする。
国が国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法律による損害賠償の責任を負う場合において、前条の手当金を支給したときは、同一の事由については、国は、その価額の限度においてその損害賠償の責任を免れる。
前項に規定する場合において、前条の手当金の支給を受けるべき者が、同一の事由につき国家賠償法、民法 その他の法律による損害賠償を受けたときは、国は、その価額の限度において同条の手当金の支給の義務を免れる。
第百条の手当金の支給を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。
第百条の手当金として支給を受けた金銭を標準として、租税 その他の公課を課してはならない。
⤏ 第三款 各種指導
刑事施設の長は、受刑者に対し、犯罪の責任を自覚させ、健康な心身を培わせ、並びに社会生活に適応するのに必要な知識 及び生活態度を習得させるため必要な指導を行うものとする。
次に掲げる事情を有することにより改善更生 及び円滑な社会復帰に支障があると認められる受刑者に対し前項の指導を行うに当たっては、その事情の改善に資するよう特に配慮しなければならない。
麻薬、覚せい剤 その他の薬物に対する依存があること。
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員であること。
その他法務省令で定める事情
刑事施設の長は、第一項の指導を行うに当たっては、被害者等の被害に関する心情、被害者等の置かれている状況 及び第八十四条の二第三項の規定により聴取した心情等を考慮するものとする。
刑事施設の長は、法務省令で定めるところにより、被害者等から、第八十四条の二第三項の規定により聴取した心情等を受刑者に伝達することを希望する旨の申出があったときは、第一項の指導を行うに当たり、当該心情等を受刑者に伝達するものとする。
ただし、その伝達をすることが当該受刑者の改善更生を妨げるおそれがあるとき その他当該被害に係る事件の性質、矯正処遇の実施状況 その他の処遇に関する事情を考慮して相当でないと認めるときは、この限りでない。
刑事施設の長は、社会生活の基礎となる学力を欠くことにより改善更生 及び円滑な社会復帰に支障があると認められる受刑者に対しては、教科指導(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)による学校教育の内容に準ずる内容の指導をいう。次項において同じ。)を行うものとする。
刑事施設の長は、前項に規定するもののほか、学力の向上を図ることが円滑な社会復帰に特に資すると認められる受刑者に対し、その学力の状況に応じた教科指導を行うことができる。
刑事施設の長は、法務省令で定める基準に従い、前二条の規定による指導を行う日 及び時間を定める。
⤏ 第四款 社会復帰支援等
前三号に掲げるもののほか、受刑者が健全な社会生活を営むために必要な援助を行うこと。
前項の支援は、その効果的な実施を図るため必要な限度において、刑事施設の外の適当な場所で行うことができる。
刑事施設の長は、第一項の支援を行うに当たっては、矯正処遇の実施状況、第八十四条の二第三項の規定により聴取した心情等 その他の被害者等に関する事情 及び受刑者が社会復帰をするに際し支援を必要とする事情を考慮するものとする。
刑事施設の長は、第一項の支援を行うに当たっては、保護観察所の長と連携を図るように努めなければならない。
刑事施設の長は、刑法第二十八条(国際受刑者移送法第二十一条において読み替えて適用する場合を含む。)、少年法第五十八条 又は国際受刑者移送法第二十二条の規定により仮釈放を許すことができる期間を経過した懲役受刑者 又は禁錮受刑者が、第八十八条第二項の規定により開放的施設において処遇を受けていること その他の法務省令で定める事由に該当する場合において、その円滑な社会復帰を図るため、刑事施設の外において、その者が、釈放後の住居 又は就業先の確保 その他の一身上の重要な用務を行い、更生保護に関係のある者を訪問し、その他その釈放後の社会生活に有用な体験をする必要があると認めるときは、刑事施設の職員の同行なしに、外出し、又は七日以内の期間を定めて外泊することを許すことができる。
ただし、外泊については、その受刑者に係る刑が六月以上執行されている場合に限る。
第九十六条第四項、第五項(第四号を除く。)及び第六項の規定は、前項の規定による外出 及び外泊について準用する。
前条第一項の規定による外泊をした者が、刑事施設の長が指定した日時までに刑事施設に帰着しなかった場合には、その外泊の期間は、刑期に算入しない。
ただし、自己の責めに帰することのできない事由によって帰着することができなかった場合は、この限りでない。
第百六条の二第一項の規定による外出 又は外泊に要する費用については、受刑者が負担することができない場合 又は刑事施設の長が相当と認める場合には、その全部 又は一部を国庫の負担とする。
⤏ 第五款 未決拘禁者としての地位を有する受刑者
未決拘禁者としての地位を有する受刑者についての第八十四条第一項 及び第八十九条の規定の適用については、
第八十四条第一項中
「矯正処遇として」とあるのは
「未決の者としての地位を損なわない限度で、かつ、その拘禁の期間を考慮して可能な範囲内で、矯正処遇として」と、
第八十九条第三号中
「第百十一条」とあるのは
「第百十九条において準用する第百十一条」と
する。
未決拘禁者としての地位を有する受刑者については、第八十六条から第八十八条まで、第九十六条、第百六条第二項 及び第百六条の二から前条までの規定は、適用しない。