民法

# 明治二十九年法律第八十九号 #

第二章 占有権

分類 法律
カテゴリ   民事
@ 施行日 : 令和六年四月一日 ( 2024年 4月1日 )
@ 最終更新 : 令和四年法律第百二号による改正
最終編集日 : 2024年 04月11日 15時12分


第一節 占有権の取得

1項

占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。

1項

占有権は、代理人によって取得することができる。

1項

占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。

2項

譲受人 又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。

1項

代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。

1項

代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。

1項

権原の性質上 占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。

1項

占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。

2項

前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間 継続したものと推定する。

1項

占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。

2項

前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。

第二節 占有権の効力

1項

占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。

1項

善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。

2項

善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。

1項

悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。

2項

前項の規定は、暴行 若しくは強迫 又は隠匿によって占有をしている者について準用する。

1項

占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、その回復者に対し、悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い、善意の占有者はその滅失 又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。


ただし、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければならない。

1項

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

1項

前条の場合において、占有物が盗品 又は遺失物であるときは、被害者 又は遺失者は、盗難 又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。

1項

占有者が、盗品 又は遺失物を、競売 若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者 又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない

1項

家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から一箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。

1項

占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額 その他の必要費を回復者から償還させることができる。


ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。

2項

占有者が占有物の改良のために支出した金額 その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額 又は増価額を償還させることができる。


ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

1項

占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。


他人のために占有をする者も、同様とする。

1項

占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止 及び損害の賠償を請求することができる。

1項

占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防 又は損害賠償の担保を請求することができる。

1項

占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還 及び損害の賠償を請求することができる。

2項

占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。


ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。

1項

占有保持の訴えは、妨害の存する間 又はその消滅した後一年以内に提起しなければならない。


ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から一年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。

2項

占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。


この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。

3項

占有回収の訴えは、占有を奪われた時から一年以内に提起しなければならない。

1項

占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。

2項

占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない

第三節 占有権の消滅

1項

占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。


ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。

1項

代理人によって占有をする場合には、占有権は、次に掲げる事由によって消滅する。

一 号

本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。

二 号

代理人が本人に対して以後 自己 又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。

三 号
代理人が占有物の所持を失ったこと。
2項

占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない。

第四節 準占有

1項

この章の規定は、自己のためにする意思をもって財産権の行使をする場合について準用する。