民法

# 明治二十九年法律第八十九号 #

第八章 先取特権

分類 法律
カテゴリ   民事
@ 施行日 : 令和六年四月一日 ( 2024年 4月1日 )
@ 最終更新 : 令和四年法律第百二号による改正
最終編集日 : 2024年 04月11日 15時12分


第一節 総則

1項

先取特権者は、この法律 その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

1項

先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失 又は損傷によって債務者が受けるべき金銭 その他の物に対しても、行使することができる。


ただし、先取特権者は、その払渡し 又は引渡しの前に差押えをしなければならない。

2項

債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

1項

第二百九十六条の規定は、先取特権について準用する。

第二節 先取特権の種類

第一款 一般の先取特権

1項

次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。

一 号
共益の費用
二 号
雇用関係
三 号
葬式の費用
四 号
日用品の供給
1項

共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算 又は配当に関する費用について存在する。

2項

前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。

1項

雇用関係の先取特権は、給料 その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。

1項

葬式の費用の先取特権は、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。

2項

前項の先取特権は、債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在する。

1項

日用品の供給の先取特権は、債務者 又はその扶養すべき同居の親族 及びその家事使用人の生活に必要な最後の六箇月間の飲食料品、燃料 及び電気の供給について存在する。

第二款 動産の先取特権

1項

次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。

一 号
不動産の賃貸借
二 号
旅館の宿泊
三 号
旅客 又は荷物の運輸
四 号
動産の保存
五 号
動産の売買
六 号

種苗 又は肥料(蚕種 又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給

七 号
農業の労務
八 号
工業の労務
1項

不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料 その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在する。

1項

土地の賃貸人の先取特権は、その土地 又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産 及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。

2項

建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。

1項

賃借権の譲渡 又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人 又は転借人の動産にも及ぶ。


譲渡人 又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。

1項

賃借人の財産のすべてを清算する場合には、賃貸人の先取特権は、前期、当期 及び次期の賃料 その他の債務 並びに前期 及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ存在する。

1項

賃貸人は、第六百二十二条の二第一項に規定する敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。

1項

旅館の宿泊の先取特権は、宿泊客が負担すべき宿泊料 及び飲食料に関し、その旅館に在るその宿泊客の手荷物について存在する。

1項

運輸の先取特権は、旅客 又は荷物の運送賃 及び付随の費用に関し、運送人の占有する荷物について存在する。

1項

第百九十二条から第百九十五条までの規定は、第三百十二条から前条までの規定による先取特権について準用する。

1項

動産の保存の先取特権は、動産の保存のために要した費用 又は動産に関する権利の保存、承認 若しくは実行のために要した費用に関し、その動産について存在する。

1項

動産の売買の先取特権は、動産の代価 及びその利息に関し、その動産について存在する。

1項

種苗 又は肥料の供給の先取特権は、種苗 又は肥料の代価 及びその利息に関し、その種苗 又は肥料を用いた後一年以内にこれを用いた土地から生じた果実(蚕種 又は蚕の飼養に供した桑葉の使用によって生じた物を含む。)について存在する。

1項

農業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の一年間の賃金に関し、その労務によって生じた果実について存在する。

1項

工業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の三箇月間の賃金に関し、その労務によって生じた製作物について存在する。

第三款 不動産の先取特権

1項

次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有する。

一 号
不動産の保存
二 号
不動産の工事
三 号
不動産の売買
1項

不動産の保存の先取特権は、不動産の保存のために要した費用 又は不動産に関する権利の保存、承認 若しくは実行のために要した費用に関し、その不動産について存在する。

1項

不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工 又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する。

2項

前項の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する。

1項

不動産の売買の先取特権は、不動産の代価 及びその利息に関し、その不動産について存在する。

第三節 先取特権の順位

1項

一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百六条各号に掲げる順序に従う。

2項

一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。


ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。

1項

同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。


この場合において、第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。

一 号

不動産の賃貸、旅館の宿泊 及び運輸の先取特権

二 号
動産の保存の先取特権
三 号

動産の売買、種苗 又は肥料の供給、農業の労務 及び工業の労務の先取特権

2項

前項の場合において、第一順位の先取特権者は、その債権取得の時において第二順位 又は第三順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない


第一順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても、同様とする。

3項

果実に関しては、第一の順位は農業の労務に従事する者に、第二の順位は種苗 又は肥料の供給者に、第三の順位は土地の賃貸人に属する。

1項

同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百二十五条各号に掲げる順序に従う。

2項

同一の不動産について売買が順次された場合には、売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は、売買の前後による。

1項

同一の目的物について同一順位の先取特権者が数人あるときは、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。

第四節 先取特権の効力

1項

先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない

1項

先取特権と動産質権とが競合する場合には、動産質権者は、第三百三十条の規定による第一順位の先取特権者と同一の権利を有する。

1項

一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない

2項

一般の先取特権者は、不動産については、まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければならない。

3項

一般の先取特権者は、前二項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは、その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については、登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない

4項

前三項の規定は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し、又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当する場合には、適用しない

1項

一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。


ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない。

1項

不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後 直ちに登記をしなければならない。

1項

不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。


この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。

2項

工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。

1項

前二条の規定に従って登記をした先取特権は、抵当権に先立って行使することができる。

1項

不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に、不動産の代価 又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない。

1項

先取特権の効力については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、抵当権に関する規定を準用する。