此ノ法律ニ於テ行旅病人ト称スルハ 歩行ニ堪ヘサル行旅中ノ病人ニシテ療養ノ途ヲ有セス且救護者ナキ者ヲ謂ヒ行旅死亡人ト称スルハ 行旅中死亡シ引取者ナキ者ヲ謂フ
行旅病人及行旅死亡人取扱法
住所、居所 若ハ氏名知レス 且引取者ナキ死亡人ハ行旅死亡人ト看做ス
前二項ノ外行旅病人 及行旅死亡人ニ準スヘキ者ハ政令ヲ以テ之ヲ定ム
行旅病人ハ 其ノ所在地市町村之ヲ救護スヘシ
必要ノ場合ニ於テハ市町村ハ行旅病人ノ同伴者ニ対シテ 亦相当ノ救護ヲ為スヘシ
行旅病人 又ハ其ノ同伴者ヲ救護シタルトキハ市町村ハ速ニ扶養義務者 又ハ第五条ニ掲ケタル公共団体ニ通知シ之ヲ引取ラシムルノ手続ヲ為スヘシ
救護ニ要シタル費用ハ 被救護者ノ負担トシ被救護者ヨリ弁償ヲ得サルトキハ 其ノ扶養義務者ノ負担トス
行旅病人 若ハ其ノ同伴者ノ引取ヲ為ス者ナキトキ 又ハ 救護費用ノ弁償ヲ得サル場合ニ於テ其ノ引取並費用ノ弁償ヲ為スヘキ公共団体ニ関シテハ 勅令ノ定ムル所ニ依ル
扶養義務者ニ対スル被救護者引取ノ請求及救護費用弁償ノ請求ハ扶養義務者中ノ何人ニ対シテモ之ヲ請求スルコトヲ得
但シ 費用ノ弁償ヲ為シタル者ハ民法第八百七十八条ニ依リ扶養ノ義務ヲ履行スヘキ者ニ対シ求償ヲ為スヲ妨ケス
行旅死亡人アルトキハ其ノ所在地市町村ハ 其ノ状況相貌遺留物件 其ノ他本人ノ認識ニ必要ナル事項ヲ記録シタル後其ノ死体ノ埋葬 又ハ火葬ヲ為スベシ
墓地 若ハ火葬場ノ管理者ハ 本条ノ埋葬 又ハ火葬ヲ拒ムコトヲ得ス
必要ノ場合ニ於テハ 市町村ハ行旅死亡人ノ同伴者ニ対シテ 亦相当ノ救護ヲ為スヘシ
行旅病人ニ関スル規定ハ前項ノ場合ニ準用ス
行旅死亡人ノ住所、居所 若ハ氏名知レサルトキハ市町村ハ其ノ状況相貌遺留物件 其ノ他本人ノ認識ニ必要ナル事項ヲ 公署ノ掲示場ニ告示シ且官報 若ハ新聞紙ニ公告スヘシ
行旅死亡人ノ住所 若ハ居所 及氏名知レタルトキハ市町村ハ速ニ相続人ニ通知シ相続人分明ナラサルトキハ扶養義務者 若ハ同居ノ親族ニ通知シ又ハ第十三条ニ掲ケタル公共団体ニ通知スヘシ
行旅死亡人取扱ノ費用ハ先ツ其ノ遺留ノ金銭 若ハ有価証券ヲ以テ之ニ充テ仍足ラサルトキハ相続人ノ負担トシ相続人ヨリ弁償ヲ得サルトキハ 死亡人ノ扶養義務者ノ負担トス
行旅死亡人ノ遺留物件ハ市町村之ヲ保管スヘシ
但シ 其ノ保管ノ物件滅失 若ハ毀損ノ虞アルトキ 又ハ其ノ保管ニ不相当ノ費用 若ハ手数ヲ要スルトキハ之ヲ売却シ 又ハ棄却スルコトヲ得
市町村ハ 第九条ノ公告後六十日ヲ経過スルモ 仍行旅死亡人取扱費用ノ弁償ヲ得サルトキハ行旅死亡人ノ遺留物品ヲ売却シテ 其ノ費用ニ充ツルコトヲ得其ノ仍足ラサル場合ニ於テ 費用ノ弁償ヲ為スヘキ公共団体ニ関シテハ 勅令ノ定ムル所ニ依ル
市町村ハ行旅死亡人取扱費用ニ付遺留物件ノ上ニ 他ノ債権者ノ先取特権ニ対シ優先権ヲ有ス
市町村ハ 行旅死亡人取扱費用ノ弁償ヲ得タルトキハ相続人ニ其ノ保管スル遺留物件ヲ引渡スヘシ相続人ナキトキハ 正当ナル請求者ト認ムル者ニ之ヲ引渡スコトヲ得
行旅病人行旅死亡人 及其ノ同伴者ノ救護 若ハ取扱ニ関スル費用ハ所在地市町村費ヲ以テ 一時之ヲ繰替フヘシ
前項費用ノ弁償金徴収ニ付テハ 市町村税滞納処分ノ例ニ依ル
前項ノ徴収金ノ先取特権ハ 国税 及地方税ニ次グモノトス
外国人タル行旅病人行旅死亡人 及其ノ同伴者 並其ノ所持物件 若ハ遺留物件ノ取扱ニ関シ別段ノ規定ヲ要スルモノハ 政令ヲ以テ之ヲ定ム
船車内ニ於ケル行旅病人行旅死亡人 及其ノ同伴者並其ノ所持物件 若ハ遺留物件ノ取扱ニ関シ別段ノ規定ヲ要スルモノハ政令ヲ以テ之ヲ定ム
此ノ法律ハ 明治三十二年七月一日ヨリ施行ス
明治十五年第四十九号布告行旅死亡人取扱規則ハ 此ノ法律施行ノ日ヨリ廃止ス