検察官は、特定犯罪に係る事件の被疑者 又は被告人が特定犯罪に係る他人の刑事事件(以下単に「他人の刑事事件」という。)について一 又は二以上の第一号に掲げる行為をすることにより得られる証拠の重要性、関係する犯罪の軽重 及び情状、当該関係する犯罪の関連性の程度 その他の事情を考慮して、必要と認めるときは、被疑者 又は被告人との間で、被疑者 又は被告人が当該他人の刑事事件について一 又は二以上の同号に掲げる行為をし、かつ、検察官が被疑者 又は被告人の当該事件について一 又は二以上の第二号に掲げる行為をすることを内容とする合意をすることができる。
刑事訴訟法
第四章 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意
第一節 合意及び協議の手続
第百九十八条第一項 又は第二百二十三条第一項の規定による検察官、検察事務官 又は司法警察職員の取調べに際して真実の供述をすること。
証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること。
検察官、検察事務官 又は司法警察職員による証拠の収集に関し、証拠の提出 その他の必要な協力をすること(イ 及びロに掲げるものを除く。)。
特定の訴因 及び罰条により公訴を提起し、又はこれを維持すること。
特定の訴因 若しくは罰条の追加 若しくは撤回 又は特定の訴因 若しくは罰条への変更を請求すること。
第二百九十三条第一項の規定による意見の陳述において、被告人に特定の刑を科すべき旨の意見を陳述すること。
即決裁判手続の申立てをすること。
前項に規定する「特定犯罪」とは、次に掲げる罪(死刑 又は無期の懲役 若しくは禁錮に当たるものを除く。)をいう。
刑法第九十六条から第九十六条の六まで若しくは第百五十五条の罪、同条の例により処断すべき罪、同法第百五十七条の罪、同法第百五十八条の罪(同法第百五十五条の罪、同条の例により処断すべき罪 又は同法第百五十七条第一項 若しくは第二項の罪に係るものに限る。)又は同法第百五十九条から第百六十三条の五まで、第百九十七条から第百九十七条の四まで、第百九十八条、第二百四十六条から第二百五十条まで 若しくは第二百五十二条から第二百五十四条までの罪
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号。以下「組織的犯罪処罰法」という。)第三条第一項第一号から第四号まで、第十三号 若しくは第十四号に掲げる罪に係る同条の罪、同項第十三号 若しくは第十四号に掲げる罪に係る同条の罪の未遂罪 又は組織的犯罪処罰法第十条 若しくは第十一条の罪
前二号に掲げるもののほか、租税に関する法律、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号) 又は金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)の罪 その他の財政経済関係犯罪として政令で定めるもの
爆発物取締罰則(明治十七年太政官布告第三十二号)
大麻取締法(昭和二十三年法律第百二十四号)
覚醒剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)
麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)
武器等製造法(昭和二十八年法律第百四十五号)
あへん法(昭和二十九年法律第七十一号)
銃砲刀剣類所持等取締法(昭和三十三年法律第六号)
国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)
刑法第百三条、第百四条 若しくは第百五条の二の罪 又は組織的犯罪処罰法第七条の罪(同条第一項第一号から第三号までに掲げる者に係るものに限る。) 若しくは組織的犯罪処罰法第七条の二の罪(いずれも前各号に掲げる罪を本犯の罪とするものに限る。)
第一項の合意には、被疑者 若しくは被告人がする同項第一号に掲げる行為 又は検察官がする同項第二号に掲げる行為に付随する事項 その他の合意の目的を達するため必要な事項をその内容として含めることができる。
前条第一項の合意をするには、弁護人の同意がなければならない。
前条第一項の合意は、検察官、被疑者 又は被告人 及び弁護人が連署した書面により、その内容を明らかにしてするものとする。
第三百五十条の二第一項の合意をするため必要な協議は、検察官と被疑者 又は被告人 及び弁護人との間で行うものとする。
ただし、被疑者 又は被告人 及び弁護人に異議がないときは、協議の一部を弁護人のみとの間で行うことができる。
前条の協議において、検察官は、被疑者 又は被告人に対し、他人の刑事事件について供述を求めることができる。
この場合においては、第百九十八条第二項の規定を準用する。
被疑者 又は被告人が前条の協議においてした供述は、第三百五十条の二第一項の合意が成立しなかつたときは、これを証拠とすることができない。
前項の規定は、被疑者 又は被告人が当該協議においてした行為が刑法第百三条、第百四条 若しくは第百七十二条の罪 又は組織的犯罪処罰法第七条第一項第一号 若しくは第二号に掲げる者に係る同条の罪に当たる場合において、これらの罪に係る事件において用いるときは、これを適用しない。
検察官は、司法警察員が送致し若しくは送付した事件 又は司法警察員が現に捜査していると認める事件について、その被疑者との間で第三百五十条の四の協議を行おうとするときは、あらかじめ、司法警察員と協議しなければならない。
検察官は、第三百五十条の四の協議に係る他人の刑事事件について司法警察員が現に捜査していること その他の事情を考慮して、当該他人の刑事事件の捜査のため必要と認めるときは、前条第一項の規定により供述を求めること その他の当該協議における必要な行為を司法警察員にさせることができる。
この場合において、司法警察員は、検察官の個別の授権の範囲内で、検察官が第三百五十条の二第一項の合意の内容とすることを提案する同項第二号に掲げる行為の内容の提示をすることができる。
第二節 公判手続の特例
検察官は、被疑者との間でした第三百五十条の二第一項の合意がある場合において、当該合意に係る被疑者の事件について公訴を提起したときは、第二百九十一条の手続が終わつた後(事件が公判前整理手続に付された場合にあつては、その時後)遅滞なく、証拠として第三百五十条の三第二項の書面(以下「合意内容書面」という。)の取調べを請求しなければならない。
被告事件について、公訴の提起後に被告人との間で第三百五十条の二第一項の合意をしたときも、同様とする。
前項の規定により合意内容書面の取調べを請求する場合において、当該合意の当事者が第三百五十条の十第二項の規定により当該合意から離脱する旨の告知をしているときは、検察官は、あわせて、同項の書面の取調べを請求しなければならない。
第一項の規定により合意内容書面の取調べを請求した後に、当該合意の当事者が第三百五十条の十第二項の規定により当該合意から離脱する旨の告知をしたときは、検察官は、遅滞なく、同項の書面の取調べを請求しなければならない。
被告人以外の者の供述録取書等であつて、その者が第三百五十条の二第一項の合意に基づいて作成したもの 又は同項の合意に基づいてされた供述を録取し 若しくは記録したものについて、検察官、被告人 若しくは弁護人が取調べを請求し、又は裁判所が職権でこれを取り調べることとしたときは、検察官は、遅滞なく、合意内容書面の取調べを請求しなければならない。
この場合においては、前条第二項 及び第三項の規定を準用する。
検察官、被告人 若しくは弁護人が証人尋問を請求し、又は裁判所が職権で証人尋問を行うこととした場合において、その証人となるべき者との間で当該証人尋問についてした第三百五十条の二第一項の合意があるときは、検察官は、遅滞なく、合意内容書面の取調べを請求しなければならない。
この場合においては、第三百五十条の七第三項の規定を準用する。
第三節 合意の終了
次の各号に掲げる事由があるときは、当該各号に定める者は、第三百五十条の二第一項の合意から離脱することができる。
第三百五十条の二第一項の合意の当事者が当該合意に違反したとき
その相手方
次に掲げる事由
被告人
検察官が第三百五十条の二第一項第二号ニに係る同項の合意に基づいて訴因 又は罰条の追加、撤回 又は変更を請求した場合において、裁判所がこれを許さなかつたとき。
検察官が第三百五十条の二第一項第二号ホに係る同項の合意に基づいて第二百九十三条第一項の規定による意見の陳述において被告人に特定の刑を科すべき旨の意見を陳述した事件について、裁判所がその刑より重い刑の言渡しをしたとき。
検察官が第三百五十条の二第一項第二号ヘに係る同項の合意に基づいて即決裁判手続の申立てをした事件について、裁判所がこれを却下する決定(第三百五十条の二十二第三号 又は第四号に掲げる場合に該当することを理由とするものに限る。)をし、又は第三百五十条の二十五第一項第三号 若しくは第四号に該当すること(同号については、被告人が起訴状に記載された訴因について有罪である旨の陳述と相反するか 又は実質的に異なつた供述をしたことにより同号に該当する場合を除く。)となつたことを理由として第三百五十条の二十二の決定を取り消したとき。
検察官が第三百五十条の二第一項第二号トに係る同項の合意に基づいて略式命令の請求をした事件について、裁判所が第四百六十三条第一項 若しくは第二項の規定により通常の規定に従い審判をすることとし、又は検察官が第四百六十五条第一項の規定により正式裁判の請求をしたとき。
次に掲げる事由
検察官
被疑者 又は被告人が第三百五十条の四の協議においてした他人の刑事事件についての供述の内容が真実でないことが明らかになつたとき。
第一号に掲げるもののほか、被疑者 若しくは被告人が第三百五十条の二第一項の合意に基づいてした供述の内容が真実でないこと 又は被疑者 若しくは被告人が同項の合意に基づいて提出した証拠が偽造 若しくは変造されたものであることが明らかになつたとき。
前項の規定による離脱は、その理由を記載した書面により、当該離脱に係る合意の相手方に対し、当該合意から離脱する旨の告知をして行うものとする。
検察官が第三百五十条の二第一項第二号イに係る同項の合意に基づいて公訴を提起しない処分をした事件について、検察審査会法第三十九条の五第一項第一号 若しくは第二号の議決 又は同法第四十一条の六第一項の起訴議決があつたときは、当該合意は、その効力を失う。
前条の場合には、当該議決に係る事件について公訴が提起されたときにおいても、被告人が第三百五十条の四の協議においてした供述 及び当該合意に基づいてした被告人の行為により得られた証拠 並びにこれらに基づいて得られた証拠は、当該被告人の刑事事件において、これらを証拠とすることができない。
前項の規定は、次に掲げる場合には、これを適用しない。
前条に規定する議決の前に被告人がした行為が、当該合意に違反するものであつたことが明らかになり、又は第三百五十条の十第一項第三号イ 若しくはロに掲げる事由に該当することとなつたとき。
被告人が当該合意に基づくものとしてした行為 又は当該協議においてした行為が第三百五十条の十五第一項の罪、刑法第百三条、第百四条、第百六十九条 若しくは第百七十二条の罪 又は組織的犯罪処罰法第七条第一項第一号 若しくは第二号に掲げる者に係る同条の罪に当たる場合において、これらの罪に係る事件において用いるとき。
証拠とすることについて被告人に異議がないとき。
第四節 合意の履行の確保
検察官が第三百五十条の二第一項第二号イからニまで、ヘ 又はトに係る同項の合意(同号ハに係るものについては、特定の訴因 及び罰条により公訴を提起する旨のものに限る。)に違反して、公訴を提起し、公訴を取り消さず、異なる訴因 及び罰条により公訴を提起し、訴因 若しくは罰条の追加、撤回 若しくは変更を請求することなく 若しくは異なる訴因 若しくは罰条の追加 若しくは撤回 若しくは異なる訴因 若しくは罰条への変更を請求して公訴を維持し、又は即決裁判手続の申立て 若しくは略式命令の請求を同時にすることなく公訴を提起したときは、判決で当該公訴を棄却しなければならない。
検察官が第三百五十条の二第一項第二号ハに係る同項の合意(特定の訴因 及び罰条により公訴を維持する旨のものに限る。)に違反して訴因 又は罰条の追加 又は変更を請求したときは、裁判所は、第三百十二条第一項の規定にかかわらず、これを許してはならない。
検察官が第三百五十条の二第一項の合意に違反したときは、被告人が第三百五十条の四の協議においてした供述 及び当該合意に基づいてした被告人の行為により得られた証拠は、これらを証拠とすることができない。
前項の規定は、当該被告人の刑事事件の証拠とすることについて当該被告人に異議がない場合 及び当該被告人以外の者の刑事事件の証拠とすることについてその者に異議がない場合には、これを適用しない。
第三百五十条の二第一項の合意に違反して、検察官、検察事務官 又は司法警察職員に対し、虚偽の供述をし 又は偽造 若しくは変造の証拠を提出した者は、五年以下の懲役に処する。
前項の罪を犯した者が、当該合意に係る他人の刑事事件の裁判が確定する前であつて、かつ、当該合意に係る自己の刑事事件の裁判が確定する前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。