この法律は、児童に対する性的搾取 及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を規制し、及びこれらの行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
第一章 総則
この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
この法律において「児童買春」とは、次の各号に掲げる者に対し、対償を供与し、又はその供与の約束をして、当該児童に対し、性交等(性交 若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門 又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
児童の保護者(親権を行う者、未成年後見人 その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式 その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体 その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
児童を相手方とする 又は児童による性交 又は性交類似行為に係る児童の姿態
他人が児童の性器等を触る行為 又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ 又は刺激するもの
衣服の全部 又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等 若しくはその周辺部、臀部 又は胸部をいう。)が露出され 又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ 又は刺激するもの
この法律の適用に当たっては、学術研究、文化芸術活動、報道等に関する国民の権利 及び自由を不当に侵害しないように留意し、児童に対する性的搾取 及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない。
何人も、児童買春をし、又はみだりに児童ポルノを所持し、若しくは第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管すること その他児童に対する性的搾取 又は性的虐待に係る行為をしてはならない。
第二章 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰等
児童買春をした者は、五年以下の懲役 又は三百万円以下の罰金に処する。
児童買春の周旋をした者は、五年以下の懲役 若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
児童買春の周旋をすることを業とした者は、七年以下の懲役 及び千万円以下の罰金に処する。
児童買春の周旋をする目的で、人に児童買春をするように勧誘した者は、五年以下の懲役 若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
前項の目的で、人に児童買春をするように勧誘することを業とした者は、七年以下の懲役 及び千万円以下の罰金に処する。
自己の性的好奇心を満たす目的で、児童ポルノを所持した者(自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は、一年以下の懲役 又は百万円以下の罰金に処する。
自己の性的好奇心を満たす目的で、第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて保管するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る。)も、同様とする。
児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役 又は三百万円以下の罰金に処する。
電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録 その他の記録を提供した者も、同様とする。
前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。
同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体 その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
前二項に規定するもののほか、ひそかに第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体 その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第二項と同様とする。
児童ポルノを不特定 若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役 若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録 その他の記録を不特定 又は多数の者に提供した者も、同様とする。
前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。
同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
第六項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。
児童を児童買春における性交等の相手方とさせ 又は第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を描写して児童ポルノを製造する目的で、当該児童を売買した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
前項の目的で、外国に居住する児童で略取され、誘拐され、又は売買されたものをその居住国外に移送した日本国民は、二年以上の有期懲役に処する。
前二項の罪の未遂は、罰する。
児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条、第六条、第七条第二項から第八項まで 及び前条の規定による処罰を免れることができない。
ただし、過失がないときは、この限りでない。
第四条から第六条まで、第七条第一項から第七項まで 並びに第八条第一項 及び第三項(同条第一項に係る部分に限る。)の罪は、刑法(明治四十年法律第四十五号)第三条の例に従う。
法人の代表者 又は法人 若しくは人の代理人、使用人 その他の従業者が、その法人 又は人の業務に関し、第五条、第六条 又は第七条第二項から第八項までの罪を犯したときは、行為者を罰するほか、その法人 又は人に対して各本条の罰金刑を科する。
第四条から第八条までの罪に係る事件の捜査 及び公判に職務上関係のある者(次項において「職務関係者」という。)は、その職務を行うに当たり、児童の人権 及び特性に配慮するとともに、その名誉 及び尊厳を害しないよう注意しなければならない。
国 及び地方公共団体は、職務関係者に対し、児童の人権、特性等に関する理解を深めるための訓練 及び啓発を行うよう努めるものとする。
第四条から第八条までの罪に係る事件に係る児童については、その氏名、年齢、職業、就学する学校の名称、住居、容貌等により当該児童が当該事件に係る者であることを推知することができるような記事 若しくは写真 又は放送番組を、新聞紙 その他の出版物に掲載し、又は放送してはならない。
国 及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの所持、提供等の行為が児童の心身の成長に重大な影響を与えるものであることに鑑み、これらの行為を未然に防止することができるよう、児童の権利に関する国民の理解を深めるための教育 及び啓発に努めるものとする。
国 及び地方公共団体は、児童買春、児童ポルノの所持、提供等の行為の防止に資する調査研究の推進に努めるものとする。
第三章 心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置
こども家庭庁、法務省、都道府県警察、児童相談所、福祉事務所 その他の国、都道府県 又は市町村の関係行政機関は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童に対し、相互に連携を図りつつ、その心身の状況、その置かれている環境等に応じ、当該児童がその受けた影響から身体的 及び心理的に回復し、個人の尊厳を保って成長することができるよう、相談、指導、一時保護、施設への入所 その他の必要な保護のための措置を適切に講ずるものとする。
前項の関係行政機関は、同項の措置を講ずる場合において、同項の児童の保護のため必要があると認めるときは、その保護者に対し、相談、指導 その他の措置を講ずるものとする。
国 及び地方公共団体は、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童について専門的知識に基づく保護を適切に行うことができるよう、これらの児童の保護に関する調査研究の推進、これらの児童の保護を行う者の資質の向上、これらの児童が緊急に保護を必要とする場合における関係機関の連携協力体制の強化、これらの児童の保護を行う民間の団体との連携協力体制の整備等必要な体制の整備に努めるものとする。
こども家庭審議会 及び犯罪被害者等施策推進会議は、相互に連携して、児童買春の相手方となったこと、児童ポルノに描写されたこと等により心身に有害な影響を受けた児童の保護に関する施策の実施状況等について、当該児童の保護に関する専門的な知識経験を有する者の知見を活用しつつ、定期的に検証 及び評価を行うものとする。
こども家庭審議会 又は犯罪被害者等施策推進会議は、前項の検証 及び評価の結果を勘案し、必要があると認めるときは、当該児童の保護に関する施策の在り方について、それぞれ内閣総理大臣 又は関係行政機関に意見を述べるものとする。
内閣総理大臣 又は関係行政機関は、前項の意見があった場合において必要があると認めるときは、当該児童の保護を図るために必要な施策を講ずるものとする。
第四章 雑則
インターネットを利用した不特定の者に対する情報の発信 又はその情報の閲覧等のために必要な電気通信役務(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第三号に規定する電気通信役務をいう。)を提供する事業者は、児童ポルノの所持、提供等の行為による被害がインターネットを通じて容易に拡大し、これにより一旦国内外に児童ポルノが拡散した場合においてはその廃棄、削除等による児童の権利回復は著しく困難になることに鑑み、捜査機関への協力、当該事業者が有する管理権限に基づき児童ポルノに係る情報の送信を防止する措置 その他インターネットを利用したこれらの行為の防止に資するための措置を講ずるよう努めるものとする。
国は、第三条の二から第八条までの規定に係る行為の防止 及び事件の適正かつ迅速な捜査のため、国際的な緊密な連携の確保、国際的な調査研究の推進 その他の国際協力の推進に努めるものとする。