裁判所は、争いに係る事実関係に関し、当事者の主張を明瞭にさせる必要があるときは、口頭弁論 又は審尋の期日において、当事者のため事務を処理し、又は補助する者で、裁判所が相当と認めるものに陳述をさせることができる。
民事保全法
第二章 保全命令に関する手続
第一節 総則
第二節 保全命令
⤏ 第一款 通則
保全命令の申立ては、日本の裁判所に本案の訴えを提起することができるとき、又は仮に差し押さえるべき物 若しくは係争物が日本国内にあるときに限り、することができる。
保全命令事件は、本案の管轄裁判所 又は仮に差し押さえるべき物 若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
本案の訴えが民事訴訟法第六条第一項に規定する特許権等に関する訴えである場合には、保全命令事件は、前項の規定にかかわらず、本案の管轄裁判所が管轄する。
ただし、仮に差し押さえるべき物 又は係争物の所在地を管轄する地方裁判所が同条第一項各号に定める裁判所であるときは、その裁判所もこれを管轄する。
本案の管轄裁判所は、第一審裁判所とする。
ただし、本案が控訴審に係属するときは、控訴裁判所とする。
仮に差し押さえるべき物 又は係争物が債権(民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百四十三条に規定する債権をいう。以下この条において同じ。)であるときは、その債権は、その債権の債務者(以下「第三債務者」という。)の普通裁判籍の所在地にあるものとする。
ただし、船舶(同法第百十二条に規定する船舶をいう。以下同じ。)又は動産(同法第百二十二条に規定する動産をいう。以下同じ。)の引渡しを目的とする債権 及び物上の担保権により担保される債権は、その物の所在地にあるものとする。
前項本文の規定は、仮に差し押さえるべき物 又は係争物が民事執行法第百六十七条第一項に規定する財産権(以下「その他の財産権」という。)で第三債務者 又はこれに準ずる者があるものである場合(次項に規定する場合を除く。)について準用する。
仮に差し押さえるべき物 又は係争物がその他の財産権で権利の移転について登記 又は登録を要するものであるときは、その財産権は、その登記 又は登録の地にあるものとする。
保全命令の申立ては、その趣旨 並びに保全すべき権利 又は権利関係 及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。
保全すべき権利 又は権利関係 及び保全の必要性は、疎明しなければならない。
保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。
前項の担保を立てる場合において、遅滞なく第四条第一項の供託所に供託することが困難な事由があるときは、裁判所の許可を得て、債権者の住所地 又は事務所の所在地 その他裁判所が相当と認める地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。
保全命令は、急迫の事情があるときに限り、裁判長が発することができる。
保全命令の申立てについての決定には、理由を付さなければならない。
ただし、口頭弁論を経ないで決定をする場合には、理由の要旨を示せば足りる。
保全命令は、当事者に送達しなければならない。
保全命令の申立てを取り下げるには、保全異議 又は保全取消しの申立てがあった後においても、債務者の同意を得ることを要しない。
保全命令の申立てを却下する裁判に対しては、債権者は、告知を受けた日から二週間の不変期間内に、即時抗告をすることができる。
前項の即時抗告を却下する裁判に対しては、更に抗告をすることができない。
第十六条本文の規定は、第一項の即時抗告についての決定について準用する。
⤏ 第二款 仮差押命令
仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
仮差押命令は、前項の債権が条件付 又は期限付である場合においても、これを発することができる。
仮差押命令は、特定の物について発しなければならない。
ただし、動産の仮差押命令は、目的物を特定しないで発することができる。
仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならない。
前項の金銭の供託は、仮差押命令を発した裁判所 又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない。
⤏ 第三款 仮処分命令
係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害 又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
第二十条第二項の規定は、仮処分命令について準用する。
第二項の仮処分命令は、口頭弁論 又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。
ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
裁判所は、仮処分命令の申立ての目的を達するため、債務者に対し一定の行為を命じ、若しくは禁止し、若しくは給付を命じ、又は保管人に目的物を保管させる処分 その他の必要な処分をすることができる。
裁判所は、保全すべき権利が金銭の支払を受けることをもってその行使の目的を達することができるものであるときに限り、債権者の意見を聴いて、仮処分の執行の停止を得るため、又は既にした仮処分の執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を仮処分命令において定めることができる。
第二十二条第二項の規定は、前項の金銭の供託について準用する。
占有移転禁止の仮処分命令(係争物の引渡し 又は明渡しの請求権を保全するための仮処分命令のうち、次に掲げる事項を内容とするものをいう。以下この条、第五十四条の二 及び第六十二条において同じ。)であって、係争物が不動産であるものについては、その執行前に債務者を特定することを困難とする特別の事情があるときは、裁判所は、債務者を特定しないで、これを発することができる。
債務者に対し、係争物の占有の移転を禁止し、及び係争物の占有を解いて執行官に引き渡すべきことを命ずること。
執行官に、係争物の保管をさせ、かつ、債務者が係争物の占有の移転を禁止されている旨 及び執行官が係争物を保管している旨を公示させること。
前項の規定による占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたときは、当該執行によって係争物である不動産の占有を解かれた者が、債務者となる。
第一項の規定による占有移転禁止の仮処分命令は、第四十三条第二項の期間内にその執行がされなかったときは、債務者に対して送達することを要しない。
この場合において、第四条第二項において準用する民事訴訟法第七十九条第一項の規定による担保の取消しの決定で第十四条第一項の規定により立てさせた担保に係るものは、裁判所が相当と認める方法で申立人に告知することによって、その効力を生ずる。
第三節 保全異議
保全命令に対しては、債務者は、その命令を発した裁判所に保全異議を申し立てることができる。
保全異議の申立てがあった場合において、保全命令の取消しの原因となることが明らかな事情 及び保全執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったときに限り、裁判所は、申立てにより、保全異議の申立てについての決定において第三項の規定による裁判をするまでの間、担保を立てさせて、又は担保を立てることを条件として保全執行の停止 又は既にした執行処分の取消しを命ずることができる。
抗告裁判所が保全命令を発した場合において、事件の記録が原裁判所に存するときは、その裁判所も、前項の規定による裁判をすることができる。
裁判所は、保全異議の申立てについての決定において、既にした第一項の規定による裁判を取り消し、変更し、又は認可しなければならない。
第一項 及び前項の規定による裁判に対しては、不服を申し立てることができない。
第十五条の規定は、第一項の規定による裁判について準用する。
裁判所は、当事者、尋問を受けるべき証人 及び審尋を受けるべき参考人の住所 その他の事情を考慮して、保全異議事件につき著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るために必要があるときは、申立てにより 又は職権で、当該保全命令事件につき管轄権を有する他の裁判所に事件を移送することができる。
裁判所は、口頭弁論 又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、保全異議の申立てについての決定をすることができない。
裁判所は、審理を終結するには、相当の猶予期間を置いて、審理を終結する日を決定しなければならない。
ただし、口頭弁論 又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日においては、直ちに審理を終結する旨を宣言することができる。
裁判所は、保全異議の申立てについての決定においては、保全命令を認可し、変更し、又は取り消さなければならない。
裁判所は、前項の決定において、相当と認める一定の期間内に債権者が担保を立てること 又は第十四条第一項の規定による担保の額を増加した上、相当と認める一定の期間内に債権者がその増加額につき担保を立てることを保全執行の実施 又は続行の条件とする旨を定めることができる。
裁判所は、第一項の規定による保全命令を取り消す決定について、債務者が担保を立てることを条件とすることができる。
第十六条本文 及び第十七条の規定は、第一項の決定について準用する。
仮処分命令に基づき、債権者が物の引渡し 若しくは明渡し 若しくは金銭の支払を受け、又は物の使用 若しくは保管をしているときは、裁判所は、債務者の申立てにより、前条第一項の規定により仮処分命令を取り消す決定において、債権者に対し、債務者が引き渡し、若しくは明け渡した物の返還、債務者が支払った金銭の返還 又は債権者が使用 若しくは保管をしている物の返還を命ずることができる。
裁判所は、第三十二条第一項の規定により保全命令を取り消す決定において、その送達を受けた日から二週間を超えない範囲内で相当と認める一定の期間を経過しなければその決定の効力が生じない旨を宣言することができる。
ただし、その決定に対して保全抗告をすることができないときは、この限りでない。
保全異議の申立てを取り下げるには、債権者の同意を得ることを要しない。
保全異議の申立てについての裁判は、判事補が単独ですることができない。
第四節 保全取消し
保全命令を発した裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対し、相当と認める一定の期間内に、本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出し、既に本案の訴えを提起しているときはその係属を証する書面を提出すべきことを命じなければならない。
前項の期間は、二週間以上でなければならない。
債権者が第一項の規定により定められた期間内に同項の書面を提出しなかったときは、裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消さなければならない。
第一項の書面が提出された後に、同項の本案の訴えが取り下げられ、又は却下された場合には、その書面を提出しなかったものとみなす。
第一項 及び第三項の規定の適用については、本案が家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)第二百五十七条第一項に規定する事件であるときは家庭裁判所に対する調停の申立てを、本案が労働審判法(平成十六年法律第四十五号)第一条に規定する事件であるときは地方裁判所に対する労働審判手続の申立てを、本案に関し仲裁合意があるときは仲裁手続の開始の手続を、本案が公害紛争処理法(昭和四十五年法律第百八号)第二条に規定する公害に係る被害についての損害賠償の請求に関する事件であるときは同法第四十二条の十二第一項に規定する損害賠償の責任に関する裁定(次項において「責任裁定」という。)の申請を本案の訴えの提起とみなす。
前項の調停の事件、同項の労働審判手続、同項の仲裁手続 又は同項の責任裁定の手続が調停の成立、労働審判(労働審判法第二十九条第二項において準用する民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)第十六条の規定による調停の成立 及び労働審判法第二十四条第一項の規定による労働審判事件の終了を含む。)、仲裁判断又は責任裁定(公害紛争処理法第四十二条の二十四第二項の当事者間の合意の成立を含む。)によらないで終了したときは、債権者は、その終了の日から第一項の規定により定められた期間と同一の期間内に本案の訴えを提起しなければならない。
第三項の規定は債権者が前項の規定による本案の訴えの提起をしなかった場合について、第四項の規定は前項の本案の訴えが提起され、又は労働審判法第二十二条第一項(同法第二十三条第二項 及び第二十四条第二項において準用する場合を含む。)の規定により訴えの提起があったものとみなされた後にその訴えが取り下げられ、又は却下された場合について準用する。
第十六条本文 及び第十七条の規定は、第三項(前項において準用する場合を含む。)の規定による決定について準用する。
保全すべき権利 若しくは権利関係 又は保全の必要性の消滅 その他の事情の変更があるときは、保全命令を発した裁判所 又は本案の裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消すことができる。
前項の事情の変更は、疎明しなければならない。
第十六条本文、第十七条 並びに第三十二条第二項 及び第三項の規定は、第一項の申立てについての決定について準用する。
仮処分命令により償うことができない損害を生ずるおそれがあるとき その他の特別の事情があるときは、仮処分命令を発した裁判所 又は本案の裁判所は、債務者の申立てにより、担保を立てることを条件として仮処分命令を取り消すことができる。
前項の特別の事情は、疎明しなければならない。
第十六条本文 及び第十七条の規定は、第一項の申立てについての決定について準用する。
第二十七条から第二十九条まで、第三十一条 及び第三十三条から第三十六条までの規定は、保全取消しに関する裁判について準用する。
ただし、第二十七条から第二十九条まで、第三十一条、第三十三条、第三十四条 及び第三十六条の規定は、第三十七条第一項の規定による裁判については、この限りでない。
前項において準用する第二十七条第一項の規定による裁判は、保全取消しの申立てが保全命令を発した裁判所以外の本案の裁判所にされた場合において、事件の記録が保全命令を発した裁判所に存するときは、その裁判所も、これをすることができる。
第五節 保全抗告
保全異議 又は保全取消しの申立てについての裁判(第三十三条(前条第一項において準用する場合を含む。)の規定による裁判を含む。)に対しては、その送達を受けた日から二週間の不変期間内に、保全抗告をすることができる。
ただし、抗告裁判所が発した保全命令に対する保全異議の申立てについての裁判に対しては、この限りでない。
原裁判所は、保全抗告を受けた場合には、保全抗告の理由の有無につき判断しないで、事件を抗告裁判所に送付しなければならない。
保全抗告についての裁判に対しては、更に抗告をすることができない。
第十六条本文、第十七条 並びに第三十二条第二項 及び第三項の規定は保全抗告についての決定について、第二十七条第一項、第四項 及び第五項、第二十九条、第三十一条 並びに第三十三条の規定は保全抗告に関する裁判について、民事訴訟法第三百四十九条の規定は保全抗告をすることができる裁判が確定した場合について準用する。
前項において準用する第二十七条第一項の規定による裁判は、事件の記録が原裁判所に存するときは、その裁判所も、これをすることができる。
保全命令を取り消す決定に対して保全抗告があった場合において、原決定の取消しの原因となることが明らかな事情 及びその命令の取消しにより償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったときに限り、抗告裁判所は、申立てにより、保全抗告についての裁判をするまでの間、担保を立てさせて、又は担保を立てることを条件として保全命令を取り消す決定の効力の停止を命ずることができる。
第十五条、第二十七条第四項 及び前条第五項の規定は、前項の規定による裁判について準用する。