この法律は、地域保健対策の推進に関する基本指針、保健所の設置 その他地域保健対策の推進に関し基本となる事項を定めることにより、母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)その他の地域保健対策に関する法律による対策が地域において総合的に推進されることを確保し、もつて地域住民の健康の保持 及び増進に寄与することを目的とする。
地域保健法
第一章 総則
地域住民の健康の保持 及び増進を目的として国 及び地方公共団体が講ずる施策は、我が国における急速な高齢化の進展、保健医療を取り巻く環境の変化等に即応し、地域における公衆衛生の向上及び増進を図るとともに、地域住民の多様化し、かつ、高度化する保健、衛生、生活環境等に関する需要に適確に対応することができるように、地域の特性 及び社会福祉等の関連施策との有機的な連携に配慮しつつ、総合的に推進されることを基本理念とする。
市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、当該市町村が行う地域保健対策が円滑に実施できるように、必要な施設の整備、人材の確保 及び資質の向上等に努めなければならない。
都道府県は、当該都道府県が行う地域保健対策が円滑に実施できるように、必要な施設の整備、人材の確保 及び資質の向上、調査 及び研究等に努めるとともに、市町村に対し、前項の責務が十分に果たされるように、その求めに応じ、必要な技術的援助を与えることに努めなければならない。
国は、地域保健に関する情報の収集、整理 及び活用 並びに調査 及び研究 並びに地域保健対策に係る人材の養成 及び資質の向上に努めるとともに、市町村 及び都道府県に対し、前二項の責務が十分に果たされるように必要な技術的 及び財政的援助を与えることに努めなければならない。
第二章 地域保健対策の推進に関する基本指針
厚生労働大臣は、地域保健対策の円滑な実施 及び総合的な推進を図るため、地域保健対策の推進に関する基本的な指針(以下「基本指針」という。)を定めなければならない。
基本指針は、次に掲げる事項について定めるものとする。
地域保健対策の推進の基本的な方向
保健所 及び市町村保健センターの整備 及び運営に関する基本的事項
地域保健対策に係る人材の確保 及び資質の向上 並びに第二十四条第一項の人材確保支援計画の策定に関する基本的事項
社会福祉等の関連施策との連携に関する基本的事項
その他地域保健対策の推進に関する重要事項
基本指針は、健康危機(国民の生命 及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病のまん延 その他の公衆衛生上重大な危害が生じ、又は生じるおそれがある緊急の事態をいう。第二十一条第一項において同じ。)への対処を考慮して定めるものとする。
厚生労働大臣は、基本指針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
第三章 保健所
保健所は、都道府県、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市、同法第二百五十二条の二十二第一項の中核市 その他の政令で定める市 又は特別区が、これを設置する。
都道府県は、前項の規定により保健所を設置する場合においては、保健医療に係る施策と社会福祉に係る施策との有機的な連携を図るため、医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第三十条の四第二項第十四号に規定する区域 及び介護保険法(平成九年法律第百二十三号)第百十八条第二項第一号に規定する区域を参酌して、保健所の所管区域を設定しなければならない。
保健所は、次に掲げる事項につき、企画、調整、指導 及びこれらに必要な事業を行う。
地域保健に関する思想の普及 及び向上に関する事項
人口動態統計 その他地域保健に係る統計に関する事項
栄養の改善 及び食品衛生に関する事項
住宅、水道、下水道、廃棄物の処理、清掃 その他の環境の衛生に関する事項
医事 及び薬事に関する事項
保健師に関する事項
公共医療事業の向上 及び増進に関する事項
母性 及び乳幼児 並びに老人の保健に関する事項
治療方法が確立していない疾病 その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健に関する事項
衛生上の試験 及び検査に関する事項
その他地域住民の健康の保持 及び増進に関する事項
保健所は、前条に定めるもののほか、地域住民の健康の保持 及び増進を図るため必要があるときは、次に掲げる事業を行うことができる。
所管区域に係る地域保健に関する情報を収集し、整理し、及び活用すること。
所管区域に係る地域保健に関する調査 及び研究を行うこと。
歯科疾患 その他厚生労働大臣の指定する疾病の治療を行うこと。
試験 及び検査を行い、並びに医師、歯科医師、薬剤師 その他の者に試験 及び検査に関する施設を利用させること。
都道府県の設置する保健所は、前二条に定めるもののほか、所管区域内の市町村の地域保健対策の実施に関し、市町村相互間の連絡調整を行い、及び市町村の求めに応じ、技術的助言、市町村職員の研修 その他必要な援助を行うことができる。
第五条第一項に規定する地方公共団体の長は、その職権に属する第六条各号に掲げる事項に関する事務を保健所長に委任することができる。
保健所に、政令の定めるところにより、所長その他所要の職員を置く。
第五条第一項に規定する地方公共団体は、保健所の所管区域内の地域保健 及び保健所の運営に関する事項を審議させるため、当該地方公共団体の条例で定めるところにより、保健所に、運営協議会を置くことができる。
第五条第一項に規定する地方公共団体は、保健所の事業の執行の便を図るため、その支所を設けることができる。
この法律による保健所でなければ、その名称中に、保健所たることを示すような文字を用いてはならない。
保健所の施設の利用 又は保健所で行う業務については、政令で定める場合を除いては、使用料、手数料 又は治療料を徴収してはならない。
国は、保健所の施設 又は設備に要する費用を支出する地方公共団体に対し、予算の範囲内において、政令で定めるところにより、その費用の全部 又は一部を補助することができる。
厚生労働大臣は、政令の定めるところにより、第五条第一項に規定する地方公共団体の長に対し、保健所の運営に関し必要な報告を求めることができる。
厚生労働大臣は、第五条第一項に規定する地方公共団体に対し、保健所の設置 及び運営に関し適切と認める技術的な助言 又は勧告をすることができる。
この章に定めるもののほか、保健所 及び保健所支所の設置、廃止 及び運営に関して必要な事項は、政令でこれを定める。
第四章 市町村保健センター
市町村は、市町村保健センターを設置することができる。
市町村保健センターは、住民に対し、健康相談、保健指導 及び健康診査 その他地域保健に関し必要な事業を行うことを目的とする施設とする。
国は、予算の範囲内において、市町村に対し、市町村保健センターの設置に要する費用の一部を補助することができる。
国は、第二十四条第一項の町村が市町村保健センターを整備しようとするときは、その整備が円滑に実施されるように適切な配慮をするものとする。
第五章 地域保健対策に係る人材の確保
第五条第一項に規定する地方公共団体の長は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)第十六条第二項に規定する新型インフルエンザ等感染症等に係る発生等の公表が行われた場合 その他の健康危機が発生した場合におけるその管轄する区域内の地域保健対策に係る業務の状況を勘案して必要があると認めるときは、地域保健の専門的知識を有する者であつて厚生労働省令で定めるもののうち、あらかじめ、この項の規定による要請を受ける旨の承諾をした者に対し、当該地方公共団体の長が管轄する区域内の地域保健対策に係る業務に従事すること 又は当該業務に関する助言を行うことを要請することができる。
前項の規定による要請を受けた者(以下「業務支援員」という。)を使用している者は、その業務の遂行に著しい支障のない限り、当該業務支援員が当該要請に応じて同項に規定する業務 又は助言を行うことができるための配慮をするよう努めなければならない。
業務支援員(地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第三条第二項に規定する一般職に属する職員として第一項に規定する業務 又は助言を行う者を除く。以下この項において同じ。)は、第一項の規定による要請に応じて行つた同項に規定する助言に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
業務支援員でなくなつた後においても、同様とする。
国 及び第五条第一項に規定する地方公共団体は、前条第一項に規定する者に対し、同項に規定する業務 又は助言に関する研修の機会の提供 その他の必要な支援を行うものとする。
国は、第二十一条第一項に規定する者の確保 及び資質の向上 並びに業務支援員が行う業務 又は助言が円滑に実施されるように、第五条第一項に規定する地方公共団体に対し、必要な助言、指導 その他の援助の実施に努めるものとする。
都道府県は、当分の間、基本指針に即して、政令で定めるところにより、地域保健対策の実施に当たり特にその人材の確保 又は資質の向上を支援する必要がある町村について、町村の申出に基づき、地域保健対策を円滑に実施するための人材の確保 又は資質の向上の支援に関する計画(以下「人材確保支援計画」という。)を定めることができる。
人材確保支援計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
人材確保支援計画の対象となる町村(以下「特定町村」という。)
都道府県が実施する特定町村の地域保健対策を円滑に実施するための人材の確保 又は資質の向上に資する事業の内容に関する事項
前項各号に掲げる事項のほか、人材確保支援計画を定める場合には、特定町村の地域保健対策を円滑に実施するための人材の確保 又は資質の向上の基本的方針に関する事項について定めるよう努めるものとする。
都道府県は、人材確保支援計画を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、特定町村の意見を聴かなければならない。
都道府県は、人材確保支援計画を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、厚生労働大臣にこれを通知しなければならない。
国は、政令で定めるところにより、予算の範囲内において、人材確保支援計画に定められた前条第二項第二号の事業を実施する都道府県に対し、当該事業に要する費用の一部を補助することができる。
国は、前項に規定するもののほか、人材確保支援計画を定めた都道府県が、当該人材確保支援計画に定められた事業を実施しようとするときは、当該事業が円滑に実施されるように必要な助言、指導 その他の援助の実施に努めるものとする。
第六章 地域保健に関する調査及び研究並びに試験及び検査に関する措置
第五条第一項に規定する地方公共団体は、地域保健対策に関する法律に基づく調査 及び研究 並びに試験 及び検査であつて、専門的な知識 及び技術を必要とするもの 並びにこれらに関連する厚生労働省令で定める業務を行うため、必要な体制の整備、他の同項に規定する地方公共団体との連携の確保 その他の必要な措置を講ずるものとする。
国は、前条の規定に基づいて実施する措置が円滑に実施されるように、第五条第一項に規定する地方公共団体に対し、必要な助言、指導 その他の援助の実施に努めるものとする。
第七章 罰則
第二十一条第三項の規定に違反して秘密を漏らした者は、一年以下の拘禁刑 又は五十万円以下の罰金に処する。