少年院法
第五章 矯正教育
第一節 矯正教育の目的等
矯正教育を行うに当たっては、在院者の特性に応じ、次節に規定する指導を適切に組み合わせ、体系的かつ組織的にこれを行うものとする。
少年院の長は、矯正教育を行うに当たっては、被害者等(在院者が刑 若しくは保護処分を言い渡される理由となった犯罪 若しくは刑罰法令に触れる行為により害を被った者(以下この項において「被害者」という。)又はその法定代理人 若しくは被害者が死亡した場合 若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族 若しくは兄弟姉妹をいう。以下この章 及び第四十四条第三項において同じ。)の被害に関する心情、被害者等の置かれている状況 及び次項の規定により聴取した心情等を考慮するものとする。
少年院の長は、在院者について、被害者等から、被害に関する心情、被害者等の置かれている状況 又は当該在院者の生活 及び行動に関する意見(以下この章 及び第四十四条第三項において「心情等」という。)を述べたい旨の申出があったときは、法務省令で定めるところにより、当該心情等を聴取するものとする。
ただし、当該被害に係る事件の性質、当該被害者等と当該在院者との関係 その他の被害者等に関する事情を考慮して相当でないと認めるときは、この限りでない。
第二節 矯正教育の内容
将来の進路を定めていない在院者に対し前項の生活指導を行うに当たっては、その特性に応じた将来の進路を選択する能力の習得に資するよう特に配慮しなければならない。
次に掲げる事情を有する在院者に対し第一項の生活指導を行うに当たっては、その事情の改善に資するよう特に配慮しなければならない。
少年院の長は、第一項の生活指導を行うに当たっては、被害者等の被害に関する心情、被害者等の置かれている状況 及び前条第二項の規定により聴取した心情等を考慮するものとする。
少年院の長は、法務省令で定めるところにより、被害者等から、前条第二項の規定により聴取した心情等を在院者に伝達することを希望する旨の申出があったときは、第一項の生活指導を行うに当たり、当該心情等を在院者に伝達するものとする。
ただし、その伝達をすることが当該在院者の改善更生を妨げるおそれがあるとき その他当該被害に係る事件の性質、矯正教育の実施状況 その他の処遇に関する事情を考慮して相当でないと認めるときは、この限りでない。
前項の職業指導の実施による収入があるときは、その収入は、国庫に帰属する。
少年院の長は、第一項の職業指導を受けた在院者に対しては、出院の際に、法務大臣が定める基準に従い算出した金額の範囲内で、職業上有用な知識 及び技能の習得の状況 その他の事情を考慮して相当と認められる金額の報奨金(次項において「職業能力習得報奨金」という。)を支給することができる。
少年院の長は、在院者がその出院前に職業能力習得報奨金の支給を受けたい旨の申出をした場合において、その使用の目的が、第六十七条第一項第一号に規定する自弁物品等の購入 その他相当なものであると認めるときは、前項の規定にかかわらず、法務省令で定めるところにより、その時に出院したとするならばその在院者に支給することができる職業能力習得報奨金に相当する金額の範囲内で、申出の額の全部 又は一部の金額を支給することができる。
この場合には、その支給額に相当する金額を同項の規定により支給することができる職業能力習得報奨金の金額から減額する。
少年院の長は、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に定める義務教育を終了しない在院者 その他の社会生活の基礎となる学力を欠くことにより改善更生 及び円滑な社会復帰に支障があると認められる在院者に対しては、教科指導(同法による学校教育の内容に準ずる内容の指導をいう。以下同じ。)を行うものとする。
少年院の長は、前項に規定するもののほか、学力の向上を図ることが円滑な社会復帰に特に資すると認められる在院者に対し、その学力の状況に応じた教科指導を行うことができる。
教科指導により学校教育法第一条に規定する学校(以下単に「学校」という。)のうち、いずれかの学校の教育課程に準ずる教育の全部 又は一部を修了した在院者は、その修了に係る教育の範囲に応じて当該教育課程の全部 又は一部を修了したものとみなす。
第三節 矯正教育の計画等
法務大臣は、在院者の年齢、心身の障害の状況 及び犯罪的傾向の程度、在院者が社会生活に適応するために必要な能力 その他の事情に照らして一定の共通する特性を有する在院者の類型ごとに、その類型に該当する在院者に対して行う矯正教育の重点的な内容 及び標準的な期間(以下「矯正教育課程」という。)を定めるものとする。
少年院の長は、その少年院が前条の規定により実施すべき矯正教育課程の指定を受けたときは、法務省令で定めるところにより、当該矯正教育課程ごとに、少年院矯正教育課程を定めるものとする。
前項の少年院矯正教育課程には、第十六条に規定する処遇の段階ごとに、当該少年院における矯正教育の目標、内容、実施方法 及び期間 その他矯正教育の実施に関し必要な事項を定めるものとする。
少年院の長は、必要があると認めるときは、少年鑑別所の長の意見を聴いて、在院者に係る前項の矯正教育課程を変更するものとする。
少年院の長は、前条第一項の規定により在院者が履修すべき矯正教育課程を指定したときは、その者に対する矯正教育の計画(以下「個人別矯正教育計画」という。)を策定するものとする。
個人別矯正教育計画には、第三十二条第一項の少年院矯正教育課程に即して、在院者の特性に応じて行うべき矯正教育の目標、内容、実施方法 及び期間 その他矯正教育の実施に関し必要な事項を定めるものとする。
少年院の長は、個人別矯正教育計画を策定するに当たっては、法務省令で定めるところにより、被害者等の被害に関する心情、被害者等の置かれている状況 及び第二十三条の二第二項の規定により聴取した心情等を考慮するものとする。
少年院の長は、第四条第一項第五号に規定する第五種の少年院に収容されている者(以下「第五種少年院在院者」という。)について、個人別矯正教育計画を策定しようとする場合には、前二項に規定するもののほか、保護観察所の長の意見を踏まえ、策定するものとする。
少年院の長は、第一項の規定により個人別矯正教育計画を策定したときは、速やかに、その内容を、在院者に告知し、及びその保護者 その他相当と認める者(在院者が第五種少年院在院者である場合にあっては、相当と認める者 及び保護観察所の長)に通知するものとする。
少年院の長は、必要があると認めるときは、在院者に係る第一項の個人別矯正教育計画を変更するものとする。
第二項から第六項までの規定は、前項の規定による個人別矯正教育計画の変更について準用する。
前項の成績の評価は、法務省令で定めるところにより、個人別矯正教育計画において定められた矯正教育の目標の達成の程度 その他の法務省令で定める事項に関し、総合的に行うものとする。
少年院の長は、第一項の成績の評価を行ったときは、速やかに、その結果を、在院者に告知し、及びその保護者 その他相当と認める者(在院者が第五種少年院在院者である場合にあっては、相当と認める者 及び保護観察所の長)に通知するものとする。
少年院の長は、前項の規定による通知をする場合 その他適当と認める場合には、在院者の保護者 その他相当と認める者(在院者が第五種少年院在院者である場合にあっては、相当と認める者 及び保護観察所の長)に対し、その在院者の生活 及び心身の状況を通知するものとする。
少年院の長は、在院者について、第三十三条第一項の規定により指定された矯正教育課程(同条第二項の規定による変更があったときは、その変更後のもの。第百三十四条第二項において「指定矯正教育課程」という。)又は第三十四条第一項の規定により策定された個人別矯正教育計画(同条第七項の規定による変更があったときは、その変更後のもの)がその者にとって適切なものであるかどうかを確認するためその他必要があると認めるときは、その者に少年鑑別所の長による鑑別を受けさせることができる。
前項の規定により少年院の長が在院者に少年鑑別所の長による鑑別を受けさせる場合において、当該少年鑑別所に収容して鑑別を行うことが必要である旨の少年鑑別所の長の意見があるときは、七日間を超えない範囲内で、その在院者を少年鑑別所に収容することができる。
ただし、やむを得ない事由があるときは、通じて十四日間を超えない範囲内で、その収容を継続することができる。
第四節 矯正教育の実施
少年院の長は、法務省令で定めるところにより、在院者の日課(食事、就寝 その他の起居動作をすべき時間帯、矯正教育の時間帯 及び余暇に充てられるべき時間帯を定めたものをいう。次項 及び第八十四条第二項第九号において同じ。)を定め、これを在院者に励行させるものとする。
少年院の長は、必要と認めるときは、日課に定められた矯正教育の時間帯以外の時間帯においても、矯正教育を行うことができる。
少年院の長は、法務省令で定めるところにより、在院者に対し、学習、娯楽、運動競技 その他の余暇に充てられるべき時間帯における活動について、援助を与えるものとする。
矯正教育は、その効果的な実施を図るため、在院者が履修すべき矯正教育課程、第十六条に規定する処遇の段階 その他の事情を考慮し、在院者を適切な集団に編成して行うものとする。
少年院の長は、矯正教育を行うに当たり、在院者の心身の状況に照らしてその者が集団生活に適応することが困難であるとき、その他在院者に対して個別に矯正教育を行う必要があると認めるときは、前項の規定にかかわらず、在院者を集団に編成しないことができる。
少年院の長は、在院者(刑法(明治四十年法律第四十五号)第二十八条、少年法第五十八条 又は国際受刑者移送法第二十二条の規定により仮釈放を許すことができる期間を経過していない受刑在院者を除く。以下この条において同じ。)の円滑な社会復帰を図るため必要があると認める場合であって、その者の改善更生の状況 その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、少年院の職員の同行なしに、その在院者を少年院の外の場所に通わせて、前項の規定による援助として在院者に対する指導を行う者(次項 及び第五項第四号において「嘱託指導者」という。)による指導を受けさせることができる。
在院者に前項の指導(以下「院外委嘱指導」という。)を受けさせる場合には、少年院の長は、法務省令で定めるところにより、当該嘱託指導者との間において、在院者が受ける院外委嘱指導の内容 及び時間、在院者の安全 及び衛生を確保するため必要な措置 その他院外委嘱指導の実施に関し必要な事項について、取決めを行わなければならない。
少年院の長は、在院者に院外委嘱指導を受けさせる場合には、あらかじめ、その在院者が院外委嘱指導に関し遵守すべき事項(以下この条において「特別遵守事項」という。)を定め、これをその在院者に告知するものとする。
正当な理由なく、院外委嘱指導を受ける場所以外の場所に立ち入ってはならないこと。
少年院の長は、院外委嘱指導を受ける在院者が第八十四条第一項に規定する遵守事項 又は特別遵守事項を遵守しなかった場合 その他院外委嘱指導を不適当とする事由があると認める場合には、これを中止することができる。
在院者は、前項の規定により少年院の長が講ずる措置に応じて、必要な事項を守らなければならない。
第二十五条第一項の職業指導について、第一項の規定により少年院の長が講ずべき措置 及び前項の規定により在院者が守らなければならない事項は、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)その他の法令に定める労働者の安全 及び衛生を確保するため事業者が講ずべき措置 及び労働者が守らなければならない事項に準じて、法務大臣が定める。
少年院の長は、在院者が矯正教育を受けたことに起因して死亡した場合には、法務省令で定めるところにより、その遺族等(法務省令で定める遺族 その他の者をいう。以下同じ。)に対し、死亡手当金を支給することができる。
少年院の長は、矯正教育を受けたことに起因して負傷し、又は疾病にかかった在院者が治った場合において、身体に障害が残ったときは、法務省令で定めるところにより、その者に障害手当金を支給することができる。
少年院の長は、矯正教育を受けたことに起因して負傷し、又は疾病にかかった在院者が出院の時になお治っていない場合において、その傷病の性質、程度 その他の状況を考慮して相当と認められるときは、法務省令で定めるところにより、その者に特別手当金を支給することができる。
国が国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法律による損害賠償の責任を負う場合において、前条の手当金を支給したときは、同一の事由については、国は、その価額の限度においてその損害賠償の責任を免れる。
前条の手当金として支給を受けた金銭を標準として、租税 その他の公課を課してはならない。