この法律は、多目的ダムの建設 及び管理に関し河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)の特例を定めるとともに、ダム使用権を創設し、もつて多目的ダムの効用をすみやかに、かつ、十分に発揮させることを目的とする。
特定多目的ダム法
第一章 総則
この法律において「多目的ダム」とは、国土交通大臣が河川法第九条第一項の規定により自ら新築するダムで、これによる流水の貯留を利用して流水が発電、水道 又は工業用水道の用(以下「特定用途」という。)に供されるものをいい、余水路、副ダム その他ダムと一体となつてその効用を全うする施設 又は工作物(もつぱら特定用途に供されるものを除く。)を含むものとする。
この法律において「ダム使用権」とは、多目的ダムによる一定量の流水の貯留を一定の地域において確保する権利をいう。
多目的ダムによる流水の貯留を利用して流水を特定用途に供する者は、河川法第二十三条の規定による流水の占用の許可 又は同法第二十三条の二の規定による流水の占用の登録によつて生ずる権利(以下「流水占用権」という。)を有するほか、ダム使用権を有する者(以下「ダム使用権者」という。)でなければならない。
第二章 多目的ダムの建設
国土交通大臣は、多目的ダムを新築しようとするときは、その建設に関する基本計画(以下「基本計画」という。)を作成しなければならない。
次の各号に掲げる要件に該当する多目的ダムに関する基本計画の作成 又は変更の際、発電の用以外の特定用途の全部 又は一部についてダム使用権の設定予定者を定めることができない特別の事情があり、かつ、当該基本計画の作成後政令で定める期間内にこれを定めることができる見込みが十分であるときは、当該特定用途に係る前項各号に掲げる事項については、その際定めることができる限度において基本計画に定めれば足りる。
この場合においては、国土交通大臣は、当該ダム使用権の設定予定者を定めることができることとなつた後、遅滞なく、当該基本計画を変更して、必要な事項を定めなければならない。
発電の用以外の特定用途に係る水の需要が十分にあり、かつ、当該多目的ダムによりその供給を確保する緊急の必要があること。
国土交通大臣は、基本計画を作成し、変更し、又は廃止しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するとともに、関係都道府県知事 及び基本計画に定められるべき、又は定められたダム使用権の設定予定者の意見をきかなければならない。
この場合において、関係都道府県知事は、意見を述べようとするときは、当該都道府県の議会の議決を経なければならない。
国土交通大臣は、基本計画を作成し、変更し、又は廃止したときは、すみやかに、その旨を公示するとともに、関係行政機関の長、関係都道府県知事 及びダム使用権の設定予定者に通知しなければならない。
ダム使用権の設定予定者は、ダム使用権の設定を申請した者で、第十五条第二項各号に掲げる要件を備える者でなければならない。
相続人、合併 又は分割により設立される法人 その他のダム使用権の設定予定者の一般承継人(法人の分割による承継の場合にあつては、申請された流水の用途に係る事業の全部を承継する法人に限る。)は、被承継人が有していたこの法律の規定に基づく地位を承継する。
ダム使用権の設定予定者は、多目的ダムの建設に要する費用のうち、建設の目的である各用途について、多目的ダムによる流水の貯留を利用して流水を当該用途に供することによつて得られる効用から算定される推定の投資額 及び当該用途のみに供される工作物でその効用と同等の効用を有するものの設置に要する推定の費用の額 並びに多目的ダムの建設に要する費用の財源の一部に借入金が充てられる場合においては、支払うべき利息の額を勘案して、政令で定めるところにより算出した額の費用を負担しなければならない。
多目的ダムの建設に要する費用の範囲、負担金の納付の方法 及び期限 その他前項の負担金に関し必要な事項は、政令で定める。
多目的ダムの建設に要する費用について河川法第六十条第一項の規定により都道府県が負担すべき負担金の額は、その建設に要する費用の額から前条第一項の負担金 及び政令で定めるその他の負担金の額を控除した額に同法第六十条第一項に定める都道府県の負担割合を乗じた額 及び都道府県が収納する政令で定めるその他の負担金の額を合算した額とする。
前項の負担金を徴収する場合における負担金の徴収を受ける者の範囲 及び徴収の方法については、国土交通大臣が負担させる場合にあつては政令で、都道府県知事が負担させる場合にあつては都道府県の条例で定める。
専用の施設を新設し、又は拡張して、新築される多目的ダムによる流水の貯留を利用して流水をかんがいの用に供する者は、多目的ダムの建設に要する費用につき当該用途について第七条第一項に規定する方法と同一の方法により算出した額のうち十分の一以内で政令で定める割合の額 及びその額に対応する建設期間中の利息の額を合算した額の負担金を負担しなければならない。
前項の負担金は、都道府県知事が徴収する。
前条第二項の規定は、前項の負担金について準用する。
前二条の規定により都道府県知事が負担させ、又は徴収した負担金 及びその負担金の納付義務者から徴収した延滞金は、当該都道府県に帰属する。
ダム使用権の設定予定者のダム使用権の設定の申請が却下され、又は取り下げられたときは、その者がすでに納付した第七条第一項の負担金を還付するものとする。
ただし、国土交通大臣は、基本計画を廃止する場合を除き、新たにダム使用権の設定予定者が定められるまでその還付を停止することができる。
ダム使用権の設定予定者は、第三条の規定にかかわらず、ダム使用権の設定を受ける前に、国土交通大臣の許可を受けて、多目的ダムによる流水の貯留を利用して流水を特定用途に供することができる。
第三章 ダム使用権
国土交通大臣は、次の各号に掲げる要件に適合すると認めた場合でなければ、ダム使用権を設定してはならない。
国土交通大臣は、基本計画を作成したときは、基本計画にダム使用権の設定予定者として定められた者以外の者の設定の申請を却下することができる。
国土交通大臣は、次の各号の一に該当すると認めたときは、ダム使用権の設定予定者の設定の申請を却下しなければならない。
ダム使用権の設定予定者が、前条第二項の要件を備えなくなつたとき。
第七条第一項の負担金を納付しないとき。
国土交通大臣は、多目的ダムの建設を完了したときは、ただちに、ダム使用権の設定予定者にダム使用権の設定をしなければならない。
ダム使用権の設定は、次の各号に掲げる事項を明らかにして行わなければならない。
前項第二号に掲げる事項は、当該多目的ダムが十分にその効用を果すために適切なものでなければならない。
ダム使用権によつて流水の貯留が確保される地域は、前条第一項第二号に規定する流水の最高水位における水平面が土地に接する線によつて囲まれる地域とする。
ダム使用権は、物権とみなし、この法律に別段の定がある場合を除き、不動産に関する規定を準用する。
ダム使用権は、相続、法人の合併 その他の一般承継、譲渡、滞納処分、強制執行、仮差押え 及び仮処分 並びに一般の先取特権 及び抵当権の目的となるほか、権利の目的となることができない。
ダム使用権は、国土交通大臣の許可を受けなければ、移転(相続、法人の合併 その他の一般承継(法人の分割による承継の場合にあつては、当該ダム使用権の設定の目的に係る事業の全部を承継させるものに限る。)によるものを除く。)の目的とし、分割し、併合し、又はその設定の目的を変更することができない。
抵当権の設定が登録されているダム使用権については、その抵当権者の同意がなければ、分割、併合 若しくは設定の目的の変更の許可を申請し、又はこれを放棄することができない。
国土交通大臣は、ダム使用権者の有する流水占用権につき、河川法第二十三条の規定による許可 又は同法第二十三条の二の規定による登録の全部 又は一部を取り消す場合において、何人にも従前どおりの流水の占用を認めることができないときは、ダム使用権につき、これに相当する取消し 又は変更の処分をしなければならない。
前項の期間内にダム使用権の譲渡がされないときは、国土交通大臣は、ダム使用権者の有していた流水占用権の全部 又は一部と同一の流水占用権につき他の者が河川法第二十三条の規定による許可 又は同法第二十三条の二の規定による登録を受ける見込みが十分であるときに限り、ダム使用権の全部 又は一部につき取消しの処分をすることができる。
前項の規定による登録は、登記に代るものとする。
第一項の規定による登録に関する処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二章 及び第三章の規定は、適用しない。
ダム使用権登録簿については、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成十一年法律第四十二号)の規定は、適用しない。
ダム使用権登録簿に記録されている保有個人情報(個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)第六十条第一項に規定する保有個人情報をいう。)については、同法第五章第四節の規定は、適用しない。
前各項に規定するもののほか、登録に関し必要な事項は、政令で定める。
ダム使用権の設定を受ける者は、第十七条の規定により設定を受ける場合を除き、多目的ダムによる流水の貯留を利用して流水を当該ダム使用権の設定の目的である用途に供することによつて得られる効用から算定される推定の投資額を勘案して、政令で定めるところにより算出した額の納付金を国に納付しなければならない。
ダム使用権につき、第二十四条 又は第二十五条第二項の規定による取消 又は変更の処分があつたときは、国は、すでに納付された第七条第一項の負担金 又は前条の納付金のうち、同条に規定する方法と同一の方法により算出した金額を還付するものとする。
ただし、第十七条の規定によりダム使用権の設定を受けた者に対して還付する額は、第七条第一項の負担金の額から政令で定めるところにより算定した償却額を控除した額をこえないものとする。
第二十四条 又は第二十五条第二項の規定による取消 又は変更の処分により消滅した全部 又は一部のダム使用権の上に抵当権の設定が登録されているときは、国は、その抵当権者の承諾を得た場合を除き、前項の還付金を供託しなければならない。
抵当権者は、前項の規定により供託された還付金に対して、その権利を行うことができる。
第四章 多目的ダムの管理
国土交通大臣は、多目的ダムの操作規則を定め、又は変更しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するとともに、関係都道府県知事 及びダム使用権の設定予定者 又はダム使用権者の意見をきかなければならない。
国土交通大臣 又は多目的ダムを管理する都道府県知事は、多目的ダムによつて貯留された流水を放流することによつて流水の状況に著しい変化を生ずると認める場合において、これによつて生ずる危害を防止するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、あらかじめ、関係都道府県知事、関係市町村長 及び関係警察署長に通知するとともに、一般に周知させるため必要な措置をとらなければならない。
前項の規定により都道府県が処理することとされている事務は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二条第九項第一号に規定する第一号法定受託事務とする。
ダム使用権者(流水占用権を有しない者を除く。)は、政令で定めるところにより、多目的ダムの維持、修繕 その他の管理に要する費用の一部を負担しなければならない。
第五章 雑則
第十三条の規定による許可を受けたダム使用権の設定予定者 又はダム使用権者で、三月三十一日現在において多目的ダムによる流水の貯留を利用して流水を特定用途に供している者は、翌年の六月三十日までに、国 又は都道府県が当該多目的ダムに関し国有資産等所在市町村交付金法(昭和三十一年法律第八十二号)第二十条の規定により地方公共団体に交付する交付金に相当する額の納付金を、国 又は都道府県に納付しなければならない。
第七条第一項、第九条第一項 若しくは第十条第一項の負担金、第三十三条のダム使用権者の負担金 又は第二十七条 若しくは前条の納付金(以下この条において「負担金等」という。)を納付しない者があるときは、国土交通大臣 又は都道府県知事は、督促状によつて納付すべき期限を指定して督促しなければならない。
前項の場合においては、国土交通大臣 又は都道府県知事は、国土交通省令で定めるところにより、延滞金を徴収することができる。
ただし、延滞金は、年十四・五パーセントの割合を乗じて計算した額をこえない範囲内で定めなければならない。
第一項の規定による督促を受けた者がその指定する期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、国土交通大臣 又は都道府県知事は、国税滞納処分の例により前二項に規定する負担金等 及び延滞金を徴収することができる。
この場合における負担金等 及び延滞金の先取特権の順位は、国税 及び地方税に次ぐものとする。
負担金等 及び延滞金を徴収する権利は、これらを行使することができる時から五年間行使しないときは、時効により消滅する。
この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な事項は、政令で定める。