遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
民法
第七章 遺言
第一節 総則
十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
第五条、第九条、第十三条 及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
遺言者は、包括 又は特定の名義で、その財産の全部 又は一部を処分することができる。
第八百八十六条 及び第八百九十一条の規定は、受遺者について準用する。
被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人 又はその配偶者 若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。
前項の規定は、直系血族、配偶者 又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。
第二節 遺言の方式
⤏ 第一款 普通の方式
遺言は、自筆証書、公正証書 又は秘密証書によってしなければならない。
ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付 及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部 又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。
この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除 その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
証人二人以上の立会いがあること。
遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者 及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
遺言者 及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。
ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人 及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。
この場合における同条第三号の規定の適用については、
同号中
「口述」とあるのは、
「通訳人の通訳による申述 又は自書」と
する。
前条の遺言者 又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者 又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。
秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
遺言者が、公証人一人 及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨 並びにその筆者の氏名 及び住所を申述すること。
公証人が、その証書を提出した日付 及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者 及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
第九百六十八条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。
秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。
口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人 及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨 並びにその筆者の氏名 及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第九百七十条第一項第三号の申述に代えなければならない。
前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
第一項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第九百七十条第一項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。
ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。
次に掲げる者は、遺言の証人 又は立会人となることができない。
推定相続人 及び受遺者 並びにこれらの配偶者 及び直系血族
公証人の配偶者、四親等内の親族、書記 及び使用人
遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。
⤏ 第二款 特別の方式
疾病 その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。
この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者 及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
第一項後段の遺言者 又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授 又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者 又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人 又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人 及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
船舶中に在る者は、船長 又は事務員一人 及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人 又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
第九百七十六条第五項の規定は、前項の場合について準用する。
第九百七十七条 及び第九百七十八条の場合には、遺言者、筆者、立会人 及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。
第九百七十七条から第九百七十九条までの場合において、署名 又は印を押すことのできない者があるときは、立会人 又は証人は、その事由を付記しなければならない。
第九百六十八条第三項 及び第九百七十三条から第九百七十五条までの規定は、第九百七十六条から前条までの規定による遺言について準用する。
第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、その効力を生じない。
日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書 又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。
この場合においては、第九百六十九条第四号 又は第九百七十条第一項第四号の規定にかかわらず、遺言者 及び証人は、第九百六十九条第四号 又は第九百七十条第一項第四号の印を押すことを要しない。
第三節 遺言の効力
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。
受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認 又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。
この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。
受遺者が遺贈の承認 又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認 又は放棄をすることができる。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
遺贈の承認 及び放棄は、撤回することができない。
第九百十九条第二項 及び第三項の規定は、遺贈の承認 及び放棄について準用する。
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は、遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができる。
停止条件付きの遺贈についてその条件の成否が未定である間も、同様とする。
受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第二百九十九条の規定は、遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を支出した場合について準用する。
果実を収取するために支出した通常の必要費は、果実の価格を超えない限度で、その償還を請求することができる。
遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。
ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。
相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。
前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価額を弁償しなければならない。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
遺贈義務者は、遺贈の目的である物 又は権利を、相続開始の時(その後に当該物 又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
遺言者が、遺贈の目的物の滅失 若しくは変造 又はその占有の喪失によって第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定する。
遺贈の目的物が、他の物と付合し、又は混和した場合において、遺言者が第二百四十三条から第二百四十五条までの規定により合成物 又は混和物の単独所有者 又は共有者となったときは、その全部の所有権 又は持分を遺贈の目的としたものと推定する。
債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者が弁済を受け、かつ、その受け取った物がなお相続財産中に在るときは、その物を遺贈の目的としたものと推定する。
金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。
負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認 又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて、その負担した義務を免れる。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第四節 遺言の執行
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。
遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人 又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
遺言者は、遺言で、一人 又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なく その旨を相続人に通知しなければならない。
遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
相続人 その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。
この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。
未成年者 及び破産者は、遺言執行者となることができない。
遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理 その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで 及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分 その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
前項の規定に違反してした行為は、無効とする。
ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人 又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金 又は貯金の払戻しの請求 及びその預金 又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。
ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。
遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任 及び監督についての責任のみを負う。
遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。
ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
家庭裁判所は、相続財産の状況 その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。
ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
第六百四十八条第二項 及び第三項 並びに第六百四十八条の二の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。
遺言執行者がその任務を怠ったとき その他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
第六百五十四条 及び第六百五十五条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。
遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。
ただし、これによって遺留分を減ずることができない。
第五節 遺言の撤回及び取消し
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部 又は一部を撤回することができる。
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分 その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。
遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。
前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。
ただし、その行為が錯誤、詐欺 又は強迫による場合は、この限りでない。
遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。
この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。