この編(第七百四十七条を除く。)において「船舶」とは、商行為をする目的で航海の用に供する船舶(端舟 その他ろかいのみをもって運転し、又は主としてろかいをもって運転する舟を除く。)をいう。
商法
第三編 海商
第一章 船舶
第二節 船舶の所有
⤏ 第一款 総則
船舶所有者は、船舶法(明治三十二年法律第四十六号)の定めるところに従い、登記をし、かつ、船舶国籍証書の交付を受けなければならない。
前項の規定は、総トン数二十トン未満の船舶については、適用しない。
船舶所有権の移転は、その登記をし、かつ、船舶国籍証書に記載しなければ、第三者に対抗することができない。
航海中の船舶を譲渡したときは、その航海によって生ずる損益は、譲受人に帰属する。
差押え 及び仮差押えの執行(仮差押えの登記をする方法によるものを除く。)は、航海中の船舶(停泊中のものを除く。)に対してはすることができない。
船舶所有者は、船長 その他の船員がその職務を行うについて故意 又は過失によって他人に加えた損害を賠償する責任を負う。
持分会社の業務を執行する社員の持分の移転により当該持分会社の所有する船舶が日本の国籍を喪失することとなるときは、他の業務を執行する社員は、相当の対価でその持分を売り渡すことを請求することができる。
⤏ 第二款 船舶の共有
船舶共有者の間においては、船舶の利用に関する事項は、各船舶共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。
船舶共有者は、その持分の価格に応じ、船舶の利用に関する費用を負担しなければならない。
船舶共有者が次に掲げる事項を決定したときは、その決定について異議のある船舶共有者は、他の船舶共有者に対し、相当の対価で自己の持分を買い取ることを請求することができる。
新たな航海(船舶共有者の間で予定されていなかったものに限る。)をすること。
前項の規定による請求をしようとする者は、同項の決定の日(当該決定に加わらなかった場合にあっては、当該決定の通知を受けた日の翌日)から三日以内に、他の船舶共有者 又は船舶管理人に対してその旨の通知を発しなければならない。
船舶共有者は、その持分の価格に応じ、船舶の利用について生じた債務を弁済する責任を負う。
船舶共有者の間に組合契約があるときであっても、各船舶共有者(船舶管理人であるものを除く。)は、他の船舶共有者の承諾を得ないで、その持分の全部 又は一部を他人に譲渡することができる。
船舶管理人である船舶共有者は、他の船舶共有者の全員の承諾を得なければ、その持分の全部 又は一部を他人に譲渡することができない。
船舶共有者は、船舶管理人を選任しなければならない。
船舶共有者でない者を船舶管理人とするには、船舶共有者の全員の同意がなければならない。
船舶共有者が船舶管理人を選任したときは、その登記をしなければならない。
船舶管理人の代理権の消滅についても、同様とする。
第九条の規定は、前項の規定による登記について準用する。
船舶管理人は、次に掲げる行為を除き、船舶共有者に代わって船舶の利用に関する一切の裁判上 又は裁判外の行為をする権限を有する。
船舶を賃貸し、又はこれについて抵当権を設定すること。
新たな航海(船舶共有者の間で予定されていなかったものに限る。)をすること。
船舶管理人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
船舶管理人は、その職務に関する帳簿を備え、船舶の利用に関する一切の事項を記載しなければならない。
船舶管理人は、一定の期間ごとに、船舶の利用に関する計算を行い、各船舶共有者の承認を求めなければならない。
船舶共有者の持分の移転 又は国籍の喪失により船舶が日本の国籍を喪失することとなるときは、他の船舶共有者は、相当の対価でその持分を売り渡すことを請求し、又は競売に付することができる。
第三節 船舶賃貸借
船舶の賃貸借は、これを登記したときは、その後その船舶について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。
船舶の賃借人であって商行為をする目的でその船舶を航海の用に供しているものは、その船舶を受け取った後にこれに生じた損傷があるときは、その利用に必要な修繕をする義務を負う。
ただし、その損傷が賃貸人の責めに帰すべき事由によるものであるときは、この限りでない。
前条に規定する船舶の賃借人は、その船舶の利用に関する事項については、第三者に対して、船舶所有者と同一の権利義務を有する。
前項の場合において、その船舶の利用について生じた先取特権は、船舶所有者に対しても、その効力を生ずる。
ただし、船舶の賃借人によるその利用の態様が船舶所有者との契約に反することを先取特権者が知っていたときは、この限りでない。
第四節 定期傭船
定期傭船契約は、当事者の一方が艤装した船舶に船員を乗り組ませて当該船舶を一定の期間相手方の利用に供することを約し、相手方がこれに対してその傭船料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
定期傭船者は、船長に対し、航路の決定 その他の船舶の利用に関し必要な事項を指示することができる。
ただし、発航前の検査 その他の航海の安全に関する事項については、この限りでない。
船舶の燃料、水先料、入港料 その他船舶の利用に関する通常の費用は、定期傭船者の負担とする。
第五百七十二条、第七百三十九条第一項 並びに第七百四十条第一項 及び第三項の規定は定期傭船契約に係る船舶により物品を運送する場合について、第七百三条第二項の規定は定期傭船者の船舶の利用について生ずる先取特権について、それぞれ準用する。
この場合において、
第七百三十九条第一項中
「発航の当時」とあるのは、
「各航海に係る発航の当時」と
読み替えるものとする。
第二章 船長
船長は、船籍港外においては、次に掲げる行為を除き、船舶所有者に代わって航海のために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
船舶について抵当権を設定すること。
船長の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
船長は、やむを得ない事由により自ら船舶を指揮することができない場合には、法令に別段の定めがあるときを除き、自己に代わって船長の職務を行うべき者を選任することができる。
この場合において、船長は、船舶所有者に対してその選任についての責任を負う。
船長は、属具目録を船内に備え置かなければならない。
船長は、航海中に積荷の利害関係人の利益のため必要があるときは、利害関係人に代わり、最もその利益に適合する方法によって、その積荷の処分をしなければならない。
積荷の利害関係人は、前項の処分によりその積荷について債務を負担したときは、当該債務に係る債権者にその積荷について有する権利を移転して、その責任を免れることができる。
ただし、利害関係人に過失があったときは、この限りでない。
船長は、航海を継続するため必要があるときは、積荷を航海の用に供することができる。
第五百七十六条第一項 及び第二項の規定は、前項の場合において船舶所有者が支払うべき償金の額について準用する。
この場合において、
同条第一項中
「引渡し」とあるのは、
「陸揚げ」と
読み替えるものとする。
船長は、海員がその職務を行うについて故意 又は過失によって他人に加えた損害を賠償する責任を負う。
ただし、船長が海員の監督について注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
船長は、遅滞なく、航海に関する重要な事項を船舶所有者に報告しなければならない。
船舶所有者は、いつでも、船長を解任することができる。
前項の規定により解任された船長は、その解任について正当な理由がある場合を除き、船舶所有者に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
船長が船舶共有者である場合において、その意に反して解任されたときは、船長は、他の船舶共有者に対し、相当の対価で自己の持分を買い取ることを請求することができる。
船長は、前項の規定による請求をしようとするときは、遅滞なく、他の船舶共有者 又は船舶管理人に対してその旨の通知を発しなければならない。
第三章 海上物品運送に関する特則
第一節 個品運送
運送人は、個品運送契約(個々の運送品を目的とする運送契約をいう。以下この節において同じ。)に基づいて荷送人から運送品を受け取ったときは、その船積み 及び積付けをしなければならない。
荷送人が運送品の引渡しを怠ったときは、船長は、直ちに発航することができる。
この場合において、荷送人は、運送賃の全額(運送人がその運送品に代わる他の運送品について運送賃を得た場合にあっては、当該運送賃の額を控除した額)を支払わなければならない。
荷送人は、船積期間内に、運送に必要な書類を船長に交付しなければならない。
運送人は、発航の当時 次に掲げる事項を欠いたことにより生じた運送品の滅失、損傷 又は延着について、損害賠償の責任を負う。
ただし、運送人がその当時当該事項について注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
船舶を航海に堪える状態に置くこと。
船員の乗組み、船舶の艤装 及び需品の補給を適切に行うこと。
船倉、冷蔵室 その他運送品を積み込む場所を運送品の受入れ、運送 及び保存に適する状態に置くこと。
前項の規定による運送人の損害賠償の責任を免除し、又は軽減する特約は、無効とする。
法令に違反して又は個品運送契約によらないで船積みがされた運送品については、運送人は、いつでも、これを陸揚げすることができ、船舶 又は積荷に危害を及ぼすおそれがあるときは、これを放棄することができる。
運送人は、前項に規定する運送品を運送したときは、船積みがされた地 及び時における同種の運送品に係る運送賃の最高額を請求することができる。
前二項の規定は、運送人 その他の利害関係人の荷送人に対する損害賠償の請求を妨げない。
荷受人は、運送品を受け取ったときは、個品運送契約 又は船荷証券の趣旨に従い、運送人に対し、次に掲げる金額の合計額(以下この節において「運送賃等」という。)を支払う義務を負う。
運送賃、付随の費用 及び立替金の額
運送品の価格に応じて支払うべき救助料の額 及び共同海損の分担額
運送人は、運送賃等の支払を受けるまで、運送品を留置することができる。
運送人は、荷受人に運送品を引き渡した後においても、運送賃等の支払を受けるため、その運送品を競売に付することができる。
ただし、第三者がその占有を取得したときは、この限りでない。
発航前においては、荷送人は、運送賃の全額を支払って個品運送契約の解除をすることができる。
ただし、個品運送契約の解除によって運送人に生ずる損害の額が運送賃の全額を下回るときは、その損害を賠償すれば足りる。
前項の規定は、運送品の全部 又は一部の船積みがされた場合には、他の荷送人 及び傭船者の全員の同意を得たときに限り、適用する。
この場合において、荷送人は、運送品の船積み 及び陸揚げに要する費用を負担しなければならない。
荷送人は、前条の規定により個品運送契約の解除をしたときであっても、運送人に対する付随の費用 及び立替金の支払義務を免れることができない。
発航後においては、荷送人は、他の荷送人 及び傭船者の全員の同意を得、かつ、運送賃等 及び運送品の陸揚げによって生ずべき損害の額の合計額を支払い、又は相当の担保を供しなければ、個品運送契約の解除をすることができない。
運送人は、船長が第七百十二条第一項の規定により積荷を航海の用に供したときにおいても、運送賃の全額を請求することができる。
この節の規定は、商行為をする目的で専ら湖川、港湾 その他の海以外の水域において航行の用に供する船舶(端舟 その他ろかいのみをもって運転し、又は主としてろかいをもって運転する舟を除く。以下この編において「非航海船」という。)によって物品を運送する場合について準用する。
第二節 航海傭船
航海傭船契約(船舶の全部 又は一部を目的とする運送契約をいう。以下この節において同じ。)に基づいて運送品の船積みのために必要な準備を完了したときは、船長は、遅滞なく、傭船者に対してその旨の通知を発しなければならない。
船積期間の定めがある航海傭船契約において始期を定めなかったときは、その期間は、前項の通知があった時から起算する。
この場合において、不可抗力によって船積みをすることができない期間は、船積期間に算入しない。
傭船者が船積期間の経過後に運送品の船積みをした場合には、運送人は、特約がないときであっても、相当な滞船料を請求することができる。
船長は、第三者から運送品を受け取るべき場合において、その第三者を確知することができないとき、又はその第三者が運送品の船積みをしないときは、直ちに傭船者に対してその旨の通知を発しなければならない。
前項の場合において、傭船者は、船積期間内に限り、運送品の船積みをすることができる。
傭船者は、運送品の全部の船積みをしていないときであっても、船長に対し、発航の請求をすることができる。
傭船者は、前項の請求をしたときは、運送人に対し、運送賃の全額のほか、運送品の全部の船積みをしないことによって生じた費用を支払う義務を負い、かつ、その請求により、当該費用の支払について相当の担保を供しなければならない。
船長は、船積期間が経過した後は、傭船者が運送品の全部の船積みをしていないときであっても、直ちに発航することができる。
この場合においては、前条第二項の規定を準用する。
運送品の陸揚げのために必要な準備を完了したときは、船長は、遅滞なく、荷受人に対してその旨の通知を発しなければならない。
陸揚期間の定めがある航海傭船契約において始期を定めなかったときは、その期間は、前項の通知があった時から起算する。
この場合において、不可抗力によって陸揚げをすることができない期間は、陸揚期間に算入しない。
荷受人が陸揚期間の経過後に運送品の陸揚げをした場合には、運送人は、特約がないときであっても、相当な滞船料を請求することができる。
発航前においては、全部航海傭船契約(船舶の全部を目的とする航海傭船契約をいう。以下この節において同じ。)の傭船者は、運送賃の全額 及び滞船料を支払って全部航海傭船契約の解除をすることができる。
ただし、全部航海傭船契約の解除によって運送人に生ずる損害の額が運送賃の全額 及び滞船料を下回るときは、その損害を賠償すれば足りる。
傭船者は、運送品の全部 又は一部の船積みをした後に前項の規定により全部航海傭船契約の解除をしたときは、その船積み 及び陸揚げに要する費用を負担しなければならない。
全部航海傭船契約の傭船者が船積期間内に運送品の船積みをしなかったときは、運送人は、その傭船者が全部航海傭船契約の解除をしたものとみなすことができる。
発航後においては、全部航海傭船契約の傭船者は、第七百四十五条に規定する合計額 及び滞船料を支払い、又は相当の担保を供しなければ、全部航海傭船契約の解除をすることができない。
第七百四十三条、第七百四十五条 及び第七百五十三条第三項の規定は、船舶の一部を目的とする航海傭船契約の解除について準用する。
この場合において、
第七百四十三条第一項中
「全額」とあるのは
「全額 及び滞船料」と、
第七百四十五条中
「合計額」とあるのは
「合計額 並びに滞船料」と
読み替えるものとする。
第七百三十八条から第七百四十二条まで(第七百三十九条第二項を除く。)、第七百四十四条、第七百四十六条 及び第七百四十七条の規定は、航海傭船契約について準用する。
この場合において、
第七百四十一条第一項中
「金額」とあるのは
「金額 及び滞船料」と、
第七百四十四条中
「前条」とあるのは
「第七百五十三条第一項 又は第七百五十五条において準用する前条」と、
第七百四十七条中
「この節」とあるのは
「次節」と
読み替えるものとする。
運送人は、前項において準用する第七百三十九条第一項の規定による運送人の損害賠償の責任を免除し、又は軽減する特約をもって船荷証券の所持人に対抗することができない。
第三節 船荷証券等
運送人 又は船長は、荷送人 又は傭船者の請求により、運送品の船積み後 遅滞なく、船積みがあった旨を記載した船荷証券(以下この節において「船積船荷証券」という。)の一通 又は数通を交付しなければならない。
運送品の船積み前においても、その受取後は、荷送人 又は傭船者の請求により、受取があった旨を記載した船荷証券(以下この節において「受取船荷証券」という。)の一通 又は数通を交付しなければならない。
受取船荷証券が交付された場合には、受取船荷証券の全部と引換えでなければ、船積船荷証券の交付を請求することができない。
前二項の規定は、運送品について現に海上運送状が交付されているときは、適用しない。
船荷証券には、次に掲げる事項(受取船荷証券にあっては、第七号 及び第八号に掲げる事項を除く。)を記載し、運送人 又は船長がこれに署名し、又は記名 押印しなければならない。
運送品の容積 若しくは重量 又は包 若しくは個品の数 及び運送品の記号
外部から認められる運送品の状態
荷送人 又は傭船者の氏名 又は名称
受取船荷証券と引換えに船積船荷証券の交付の請求があったときは、その受取船荷証券に船積みがあった旨を記載し、かつ、署名し、又は記名押印して、船積船荷証券の作成に代えることができる。
この場合においては、前項第七号 及び第八号に掲げる事項をも記載しなければならない。
前条第一項第一号 及び第二号に掲げる事項は、その事項につき荷送人 又は傭船者の書面 又は電磁的方法による通知があったときは、その通知に従って記載しなければならない。
前項の規定は、同項の通知が正確でないと信ずべき正当な理由がある場合 及び当該通知が正確であることを確認する適当な方法がない場合には、適用しない。
運送品の記号について、運送品 又はその容器 若しくは包装に航海の終了の時まで判読に堪える表示がされていない場合も、同様とする。
荷送人 又は傭船者は、運送人に対し、第一項の通知が正確でないことによって生じた損害を賠償する責任を負う。
運送人は、船荷証券の記載が事実と異なることをもって善意の所持人に対抗することができない。
船荷証券が作成されたときは、運送品に関する処分は、船荷証券によってしなければならない。
船荷証券は、記名式であるときであっても、裏書によって、譲渡し、又は質権の目的とすることができる。
ただし、船荷証券に裏書を禁止する旨を記載したときは、この限りでない。
船荷証券により運送品を受け取ることができる者に船荷証券を引き渡したときは、その引渡しは、運送品について行使する権利の取得に関しては、運送品の引渡しと同一の効力を有する。
船荷証券が作成されたときは、これと引換えでなければ、運送品の引渡しを請求することができない。
陸揚港においては、運送人は、数通の船荷証券のうち一通の所持人が運送品の引渡しを請求したときであっても、その引渡しを拒むことができない。
陸揚港外においては、運送人は、船荷証券の全部の返還を受けなければ、運送品の引渡しをすることができない。
二人以上の船荷証券の所持人がある場合において、その一人が他の所持人より先に運送人から運送品の引渡しを受けたときは、当該他の所持人の船荷証券は、その効力を失う。
二人以上の船荷証券の所持人が運送品の引渡しを請求したときは、運送人は、その運送品を供託することができる。
運送人が第七百六十五条第一項の規定により運送品の一部を引き渡した後に他の所持人が運送品の引渡しを請求したときにおけるその運送品の残部についても、同様とする。
運送人は、前項の規定により運送品を供託したときは、遅滞なく、請求をした各所持人に対してその旨の通知を発しなければならない。
第一項に規定する場合においては、最も先に発送され、又は引き渡された船荷証券の所持人が他の所持人に優先する。
船荷証券が作成された場合における前編第八章第二節の規定の適用については、
第五百八十条中
「荷送人」とあるのは、
「船荷証券の所持人」とし、
第五百八十一条、第五百八十二条第二項 及び第五百八十七条ただし書の規定は、適用しない。
運送人 又は船長は、陸上運送 及び海上運送を一の契約で引き受けたときは、荷送人の請求により、運送品の船積み後遅滞なく、船積みがあった旨を記載した複合運送証券の一通 又は数通を交付しなければならない。
運送品の船積み前においても、その受取後は、荷送人の請求により、受取があった旨を記載した複合運送証券の一通 又は数通を交付しなければならない。
第七百五十七条第二項 及び第七百五十八条から前条までの規定は、複合運送証券について準用する。
この場合において、
第七百五十八条第一項中
「除く。)」とあるのは、
「除く。)並びに発送地及び到達地」と
読み替えるものとする。
第四節 海上運送状
運送人 又は船長は、荷送人 又は傭船者の請求により、運送品の船積み後 遅滞なく、船積みがあった旨を記載した海上運送状を交付しなければならない。
運送品の船積み前においても、その受取後は、荷送人 又は傭船者の請求により、受取があった旨を記載した海上運送状を交付しなければならない。
海上運送状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
第七百五十八条第一項各号(第十一号を除く。)に掲げる事項(運送品の受取があった旨を記載した海上運送状にあっては、同項第七号 及び第八号に掲げる事項を除く。)
第一項の運送人 又は船長は、海上運送状の交付に代えて、法務省令で定めるところにより、荷送人 又は傭船者の承諾を得て、海上運送状に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。
この場合において、当該運送人 又は船長は、海上運送状を交付したものとみなす。
前三項の規定は、運送品について現に船荷証券が交付されているときは、適用しない。
第四章 船舶の衝突
船舶と他の船舶との衝突(次条において「船舶の衝突」という。)に係る事故が生じた場合において、衝突したいずれの船舶についても その船舶所有者 又は船員に過失があったときは、裁判所は、これらの過失の軽重を考慮して、各船舶所有者について、その衝突による損害賠償の責任 及びその額を定める。
この場合において、過失の軽重を定めることができないときは、損害賠償の責任 及びその額は、各船舶所有者が等しい割合で負担する。
船舶の衝突を原因とする不法行為による損害賠償請求権(財産権が侵害されたことによるものに限る。)は、不法行為の時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。
前二条の規定は、船舶がその航行 若しくは船舶の取扱いに関する行為 又は船舶に関する法令に違反する行為により他の船舶に著しく接近し、当該他の船舶 又は当該他の船舶内にある人 若しくは物に損害を加えた事故について準用する。
前三条の規定は、船舶と非航海船との事故について準用する。
第五章 海難救助
船舶 又は積荷 その他の船舶内にある物(以下この編において「積荷等」という。)の全部 又は一部が海難に遭遇した場合において、これを救助した者があるときは、その者(以下この章において「救助者」という。)は、契約に基づかないで救助したときであっても、その結果に対して救助料の支払を請求することができる。
船舶所有者 及び船長は、積荷等の所有者に代わってその救助に係る契約を締結する権限を有する。
救助料につき特約がない場合において、その額につき争いがあるときは、裁判所は、危険の程度、救助の結果、救助のために要した労力 及び費用(海洋の汚染の防止 又は軽減のためのものを含む。)その他一切の事情を考慮して、これを定める。
海難に際し契約で救助料を定めた場合において、その額が著しく不相当であるときは、当事者は、その増減を請求することができる。
この場合においては、前条の規定を準用する。
救助料の額は、特約がないときは、救助された物の価額(救助された積荷の運送賃の額を含む。)の合計額を超えることができない。
数人が共同して救助した場合において、各救助者に支払うべき救助料の割合については、第七百九十三条の規定を準用する。
第七百九十二条第一項に規定する場合において、人命の救助に従事した者があるときは、その者も、前項の規定に従って救助料の支払を受けることができる。
救助に従事した船舶に係る救助料については、その三分の二を船舶所有者に支払い、その三分の一を船員に支払わなければならない。
前項の規定に反する特約で船員に不利なものは、無効とする。
前二項の規定にかかわらず、救助料の割合が著しく不相当であるときは、船舶所有者 又は船員の一方は、他の一方に対し、その増減を請求することができる。
この場合においては、第七百九十三条の規定を準用する。
各船員に支払うべき救助料の割合は、救助に従事した船舶の船舶所有者が決定する。
この場合においては、前条の規定を準用する。
救助者が救助することを業とする者であるときは、前各項の規定にかかわらず、救助料の全額をその救助者に支払わなければならない。
船舶所有者が前条第四項の規定により救助料の割合を決定するには、航海を終了するまでにその案を作成し、これを船員に示さなければならない。
船員は、前条の案に対し、異議の申立てをすることができる。
この場合において、当該異議の申立ては、その案が示された後、当該異議の申立てをすることができる最初の港の管海官庁にしなければならない。
管海官庁は、前項の規定による異議の申立てを理由があると認めるときは、前条の案を更正することができる。
船舶所有者は、第一項の規定による異議の申立てについての管海官庁の決定があるまでは、船員に対し、救助料の支払をすることができない。
船舶所有者が第七百九十八条の案の作成を怠ったときは、管海官庁は、船員の請求により、船舶所有者に対し、その案の作成を命ずることができる。
船舶所有者が前項の規定による命令に従わないときは、管海官庁は、自ら第七百九十七条第四項の規定による決定をすることができる。
次に掲げる場合には、救助者は、救助料を請求することができない。
故意に海難を発生させたとき。
正当な事由により救助を拒まれたにもかかわらず、救助したとき。
救助料に係る債権を有する者は、救助された積荷等について先取特権を有する。
前項の先取特権については、第八百四十三条第二項、第八百四十四条 及び第八百四十六条の規定を準用する。
救助された船舶の船長は、救助料の債務者に代わってその支払に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
救助された船舶の船長は、救助料に関し、救助料の債務者のために、原告 又は被告となることができる。
前二項の規定は、救助に従事した船舶の船長について準用する。
この場合において、
これらの規定中
「債務者」とあるのは、
「債権者(当該船舶の船舶所有者 及び海員に限る。)」と
読み替えるものとする。
前三項の規定は、契約に基づく救助については、適用しない。
積荷等の全部 又は一部が救助されたときは、当該積荷等の所有者は、当該積荷等をもって救助料に係る債務を弁済する責任を負う。
海難に遭遇した船舶から排出された油 その他の物により海洋が汚染され、当該汚染が広範囲の沿岸海域において海洋環境の保全に著しい障害を及ぼし、若しくは人の健康を害し、又はこれらの障害を及ぼすおそれがある場合において、当該船舶の救助に従事した者が当該障害の防止 又は軽減のための措置をとったときは、その者(以下この条において「汚染対処船舶救助従事者」という。)は、特約があるときを除き、船舶所有者に対し、特別補償料の支払を請求することができる。
特別補償料の額は、前項に規定する措置として必要 又は有益であった費用に相当する額とする。
汚染対処船舶救助従事者がその措置により第一項に規定する障害を防止し、又は軽減したときは、特別補償料は、当事者の請求により、前項に規定する費用に相当する額以上当該額に百分の三十(当該額が当該障害の防止 又は軽減の結果に比して著しく少ないこと その他の特別の事情がある場合にあっては、百分の百)を乗じて得た額を加算した額以下の範囲内において、裁判所がこれを定める。
この場合においては、第七百九十三条の規定を準用する。
汚染対処船舶救助従事者が同一の海難につき救助料に係る債権を有するときは、特別補償料の額は、当該救助料の額を控除した額とする。
汚染対処船舶救助従事者の過失によって第一項に規定する障害を防止し、又は軽減することができなかったときは、裁判所は、これを考慮して、特別補償料の額を定めることができる。
救助料 又は特別補償料に係る債権は、救助の作業が終了した時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。
この章の規定は、非航海船 又は非航海船内にある積荷 その他の物を救助する場合について準用する。
第六章 共同海損
船舶 及び積荷等に対する共同の危険を避けるために船舶 又は積荷等について処分がされたときは、当該処分(以下この章において「共同危険回避処分」という。)によって生じた損害 及び費用は、共同海損とする。
前項の規定は、同項の危険が過失によって生じた場合における利害関係人から当該過失のある者に対する求償権の行使を妨げない。
共同海損となる損害の額は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める額によって算定する。
ただし、第二号 及び第四号に定める額については、積荷の滅失 又は損傷のために支払うことを要しなくなった一切の費用の額を控除するものとする。
船舶
到達の地 及び時における当該船舶の価格
積荷
陸揚げの地 及び時における当該積荷の価格
積荷以外の船舶内にある物
到達の地 及び時における当該物の価格
運送賃
陸揚げの地 及び時において請求することができる運送賃の額
船荷証券 その他積荷の価格を評定するに足りる書類(以下この章において「価格評定書類」という。)に積荷の実価より低い価額を記載したときは、その積荷に加えた損害の額は、当該価格評定書類に記載された価額によって定める。
積荷の価格に影響を及ぼす事項につき価格評定書類に虚偽の記載をした場合において、当該記載によることとすれば積荷の実価より低い価格が評定されることとなるときも、同様とする。
次に掲げる損害 又は費用は、利害関係人が分担することを要しない。
次に掲げる物に加えた損害。
ただし、次のハに掲げる物にあっては第五百七十七条第二項第一号に掲げる場合を、次のニに掲げる物にあっては甲板積みをする商慣習がある場合を除く。
船舶所有者に無断で船積みがされた積荷
船積みに際して故意に虚偽の申告がされた積荷
高価品である積荷であって、荷送人 又は傭船者が運送を委託するに当たりその種類 及び価額を通知していないもの
共同海損は、次の各号に掲げる者(船員 及び旅客を除く。)が当該各号に定める額の割合に応じて分担する。
船舶の利害関係人
到達の地 及び時における当該船舶の価格
積荷の利害関係人
次のイに掲げる額から次のロに掲げる額を控除した額
陸揚げの地 及び時における当該積荷の価格
共同危険回避処分の時においてイに規定する積荷の全部が滅失したとした場合に当該積荷の利害関係人が支払うことを要しないこととなる運送賃 その他の費用の額
積荷以外の船舶内にある物(船舶に備え付けた武器を除く。)の利害関係人
到達の地 及び時における当該物の価格
運送人
次のイに掲げる額から次のロに掲げる額を控除した額
第二号ロに規定する運送賃のうち、陸揚げの地 及び時において現に存する債権の額
船員の給料 その他の航海に必要な費用(共同海損となる費用を除く。)のうち、共同危険回避処分の時に船舶 及び第二号イに規定する積荷の全部が滅失したとした場合に運送人が支払うことを要しないこととなる額
共同危険回避処分の後、到達 又は陸揚げ前に船舶 又は積荷等について必要費 又は有益費を支出したときは、当該船舶 又は積荷等については、前項第一号から第三号までに定める額は、その費用(共同海損となる費用を除く。)の額を控除した額とする。
第一項に規定する者が共同危険回避処分によりその財産につき損害を受けたときは、その者については、同項各号に定める額は、その損害の額(当該財産について前項に規定する必要費 又は有益費を支出した場合にあっては、その費用(共同海損となる費用に限る。)の額を超える部分の額に限る。)を加算した額とする。
価格評定書類に積荷の実価を超える価額を記載したときは、その積荷の利害関係人は、当該価格評定書類に記載された価額に応じて共同海損を分担する。
積荷の価格に影響を及ぼす事項につき価格評定書類に虚偽の記載をした場合において、当該記載によることとすれば積荷の実価を超える価格が評定されることとなるときも、同様とする。
前条の規定により共同海損を分担すべき者は、船舶の到達(同条第一項第二号 又は第四号に掲げる者にあっては、積荷の陸揚げ)の時に現存する価額の限度においてのみ、その責任を負う。
共同海損の分担に基づく債権は、その計算が終了した時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。
第七章 海上保険
この章において「海上保険契約」とは、損害保険契約のうち、保険者(営業として保険の引受けを行うものに限る。以下この章において同じ。)が航海に関する事故によって生ずることのある損害を塡補することを約するものをいう。
海上保険契約については、この章に別段の定めがある場合を除き、保険法(平成二十年法律第五十六号)第二章第一節から第四節まで及び第六節 並びに第五章の規定を適用する。
保険者は、この章 又は海上保険契約に別段の定めがある場合を除き、保険の目的について、保険期間内に発生した航海に関する事故によって生じた一切の損害を塡補する責任を負う。
保険者は、海難の救助 又は共同海損の分担のため被保険者が支払うべき金額を塡補する責任を負う。
保険法第十九条の規定は、前項に規定する金額について準用する。
この場合において、
同条中
「てん補損害額」とあるのは、
「商法(明治三十二年法律第四十八号)第八百十七条第一項に規定する金額」と
読み替えるものとする。
船舶を保険の目的物とする海上保険契約(以下この章において「船舶保険契約」という。)については、保険期間の始期における当該船舶の価額を保険価額とする。
貨物を保険の目的物とする海上保険契約(以下この章において「貨物保険契約」という。)については、その船積みがされた地 及び時における当該貨物の価額、運送賃 並びに保険に関する費用の合計額を保険価額とする。
保険契約者 又は被保険者になる者は、海上保険契約の締結に際し、海上保険契約により塡補することとされる損害の発生の可能性(以下この章において「危険」という。)に関する重要な事項について、事実の告知をしなければならない。
保険者が海上保険契約を締結した場合においては、保険法第六条第一項に規定する書面には、同項各号に掲げる事項のほか、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める事項を記載しなければならない。
船舶保険契約を締結した場合
船舶の名称、国籍、種類、船質、総トン数、建造の年 及び航行区域(一の航海について船舶保険契約を締結した場合にあっては、発航港 及び到達港(寄航港の定めがあるときは、その港を含む。))並びに船舶所有者の氏名 又は名称
貨物保険契約を締結した場合
船舶の名称 並びに貨物の発送地、船積港、陸揚港 及び到達地
保険期間の始期の到来前に航海の変更をしたときは、海上保険契約は、その効力を失う。
保険期間内に航海の変更をしたときは、保険者は、その変更以後に発生した事故によって生じた損害を塡補する責任を負わない。
ただし、その変更が保険契約者 又は被保険者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
到達港を変更し、その実行に着手した場合においては、海上保険契約で定める航路を離れないときであっても、航海の変更をしたものとみなす。
次に掲げる場合には、保険者は、その事実が生じた時以後に発生した事故によって生じた損害を塡補する責任を負わない。
ただし、当該事実が当該事故の発生に影響を及ぼさなかったとき、又は保険契約者 若しくは被保険者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
被保険者が発航 又は航海の継続を怠ったとき。
被保険者が航路を変更したとき。
前二号に掲げるもののほか、保険契約者 又は被保険者が危険を著しく増加させたとき。
貨物保険契約で定める船舶を変更したときは、保険者は、その変更以後に発生した事故によって生じた損害を塡補する責任を負わない。
ただし、その変更が保険契約者 又は被保険者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
貨物保険契約において、保険期間、保険金額、保険の目的物、約定保険価額、保険料 若しくはその支払の方法、船舶の名称 又は貨物の発送地、船積港、陸揚港 若しくは到達地(以下この条において「保険期間等」という。)につきその決定の方法を定めたときは、保険法第六条第一項に規定する書面には、保険期間等を記載することを要しない。
保険契約者 又は被保険者は、前項に規定する場合において、保険期間等が確定したことを知ったときは、遅滞なく、保険者に対し、その旨の通知を発しなければならない。
保険契約者 又は被保険者が故意 又は重大な過失により遅滞なく前項の通知をしなかったときは、貨物保険契約は、その効力を失う。
保険者は、次に掲げる損害を塡補する責任を負わない。
ただし、第四号に掲げる損害にあっては、保険契約者 又は被保険者が発航の当時 同号に規定する事項について注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
保険の目的物の性質 若しくは瑕疵 又はその通常の損耗によって生じた損害
保険契約者 又は被保険者の故意 又は重大な過失(責任保険契約にあっては、故意)によって生じた損害
戦争 その他の変乱によって生じた損害
船舶保険契約にあっては、発航の当時第七百三十九条第一項各号(第七百七条 及び第七百五十六条第一項において準用する場合を含む。)に掲げる事項を欠いたことにより生じた損害
貨物保険契約にあっては、貨物の荷造りの不完全によって生じた損害
保険の目的物である貨物が損傷し、又はその一部が滅失して到達地に到着したときは、保険者は、第一号に掲げる額の第二号に掲げる額に対する割合を保険価額(約定保険価額があるときは、当該約定保険価額)に乗じて得た額を塡補する責任を負う。
当該貨物に損傷 又は一部滅失がなかったとした場合の当該貨物の価額から損傷 又は一部滅失後の当該貨物の価額を控除した額
当該貨物に損傷 又は一部滅失がなかったとした場合の当該貨物の価額
航海の途中において不可抗力により保険の目的物である貨物が売却されたときは、保険者は、第一号に掲げる額から第二号に掲げる額を控除した額を塡補する責任を負う。
保険価額(約定保険価額があるときは、当該約定保険価額)
当該貨物の売却によって得た代価から運送賃 その他の費用を控除した額
保険者は、保険契約者 又は被保険者が、危険に関する重要な事項について、故意 又は重大な過失により事実の告知をせず、又は不実の告知をしたときは、海上保険契約を解除することができる。
この場合においては、保険法第二十八条第二項(第一号に係る部分に限る。)及び第四項 並びに第三十一条第二項(第一号に係る部分に限る。)の規定を準用する。
この章の規定は、相互保険について準用する。
ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
第八章 船舶先取特権及び船舶抵当権
次に掲げる債権を有する者は、船舶 及びその属具について先取特権を有する。
船舶の運航に直接関連して生じた人の生命 又は身体の侵害による損害賠償請求権
救助料に係る債権 又は船舶の負担に属する共同海損の分担に基づく債権
国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)若しくは国税徴収の例によって徴収することのできる請求権であって船舶の入港、港湾の利用 その他船舶の航海に関して生じたもの又は水先料 若しくは引き船料に係る債権
航海を継続するために必要な費用に係る債権
雇用契約によって生じた船長 その他の船員の債権
前条各号に掲げる債権に係る先取特権(以下この章において「船舶先取特権」という。)が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、同条各号に掲げる順序に従う。
ただし、同条第二号に掲げる債権(救助料に係るものに限る。)に係る船舶先取特権は、その発生の時において既に生じている他の船舶先取特権に優先する。
同一順位の船舶先取特権を有する者が数人あるときは、これらの者は、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。
ただし、前条第二号から第四号までに掲げる債権にあっては、同一順位の船舶先取特権が同時に生じたものでないときは、後に生じた船舶先取特権が前に生じた船舶先取特権に優先する。
船舶先取特権と他の先取特権とが競合する場合には、船舶先取特権は、他の先取特権に優先する。
船舶所有者がその船舶を譲渡したときは、譲受人は、その登記をした後、船舶先取特権を有する者に対し、一定の期間内にその債権の申出をすべき旨を公告しなければならない。
この場合において、その期間は、一箇月を下ることができない。
船舶先取特権を有する者が前項の期間内に同項の申出をしなかったときは、その船舶先取特権は、消滅する。
船舶先取特権は、その発生後一年を経過したときは、消滅する。
登記した船舶は、抵当権の目的とすることができる。
船舶の抵当権は、その属具に及ぶ。
船舶の抵当権には、不動産の抵当権に関する規定を準用する。
この場合において、
民法第三百八十四条第一号中
「抵当権を実行して競売の申立てをしないとき」とあるのは、
抵当権の実行としての競売の申立て若しくはその提供を承諾しない旨の第三取得者に対する通知をせず、又はその通知をした債権者が抵当権の実行としての競売の申立てをすることができるに至った後一週間以内にこれをしないとき」
と読み替えるものとする。
船舶の抵当権と船舶先取特権とが競合する場合には、船舶先取特権は、船舶の抵当権に優先する。
船舶の抵当権と先取特権(船舶先取特権を除く。)とが競合する場合には、船舶の抵当権は、民法第三百三十条第一項に規定する第一順位の先取特権と同順位とする。
登記した船舶は、質権の目的とすることができない。
この章の規定は、製造中の船舶について準用する。