この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
刑法
第一編 総則
第一章 通則
日本国外にある日本船舶 又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。
この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。
第七十七条から第七十九条まで(内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助)の罪
第八十一条(外患誘致)、第八十二条(外患援助)、第八十七条(未遂罪)及び第八十八条(予備及び陰謀)の罪
第百四十八条(通貨偽造及び行使等)の罪 及びその未遂罪
第百五十四条(詔書偽造等)、第百五十五条(公文書偽造等)、第百五十七条(公正証書原本不実記載等)、第百五十八条(偽造公文書行使等)及び公務所 又は公務員によって作られるべき電磁的記録に係る第百六十一条の二(電磁的記録不正作出及び供用)の罪
第百六十二条(有価証券偽造等)及び第百六十三条(偽造有価証券行使等)の罪
第百六十三条の二から第百六十三条の五まで(支払用カード電磁的記録不正作出等、不正電磁的記録カード所持、支払用カード電磁的記録不正作出準備、未遂罪)の罪
第百六十四条から第百六十六条まで(御璽偽造 及び不正使用等、公印偽造 及び不正使用等、公記号偽造 及び不正使用等)の罪 並びに第百六十四条第二項、第百六十五条第二項 及び第百六十六条第二項の罪の未遂罪
この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。
第百八条(現住建造物等放火)及び第百九条第一項(非現住建造物等放火)の罪、これらの規定の例により処断すべき罪 並びにこれらの罪の未遂罪
第百十九条(現住建造物等浸害)の罪
第百五十九条から第百六十一条まで(私文書偽造等、虚偽診断書等作成、偽造私文書等行使)及び前条第五号に規定する電磁的記録以外の電磁的記録に係る第百六十一条の二の罪
第百六十七条(私印偽造及び不正使用等)の罪 及び同条第二項の罪の未遂罪
第百七十六条、第百七十七条 及び第百七十九条から第百八十一条まで(不同意わいせつ、不同意性交等、監護者わいせつ 及び監護者性交等、未遂罪、不同意わいせつ等致死傷)並びに第百八十四条(重婚)の罪
第百九十八条(贈賄)の罪
第百九十九条(殺人)の罪 及びその未遂罪
第二百四条(傷害)及び第二百五条(傷害致死)の罪
第二百十四条から第二百十六条まで(業務上堕胎 及び同致死傷、不同意堕胎、不同意堕胎致死傷)の罪
第二百十八条(保護責任者遺棄等)の罪 及び同条の罪に係る第二百十九条(遺棄等致死傷)の罪
第二百二十条(逮捕及び監禁)及び第二百二十一条(逮捕等致死傷)の罪
第二百二十四条から第二百二十八条まで(未成年者略取 及び誘拐、営利目的等略取 及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取 及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等、未遂罪)の罪
第二百三十条(名誉毀損)の罪
第二百三十五条から第二百三十六条まで(窃盗、不動産侵奪、強盗)、第二百三十八条から第二百四十条まで(事後強盗、昏こん酔強盗、強盗致死傷)、第二百四十一条第一項 及び第三項(強盗・不同意性交等及び同致死)並びに第二百四十三条(未遂罪)の罪
第二百四十六条から第二百五十条まで(詐欺、電子計算機使用詐欺、背任、準詐欺、恐喝、未遂罪)の罪
第二百五十三条(業務上横領)の罪
第二百五十六条第二項(盗品譲受け等)の罪
この法律は、日本国外において日本国民に対して次に掲げる罪を犯した日本国民以外の者に適用する。
第百七十六条、第百七十七条 及び第百七十九条から第百八十一条まで(不同意わいせつ、不同意性交等、監護者わいせつ 及び監護者性交等、未遂罪、不同意わいせつ等致死傷)の罪
第百九十九条(殺人)の罪 及びその未遂罪
第二百四条(傷害)及び第二百五条(傷害致死)の罪
第二百二十条(逮捕及び監禁)及び第二百二十一条(逮捕等致死傷)の罪
第二百二十四条から第二百二十八条まで(未成年者略取 及び誘拐、営利目的等略取 及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取 及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等、未遂罪)の罪
第二百三十六条(強盗)、第二百三十八条から第二百四十条まで(事後強盗、昏酔強盗、強盗致死傷)並びに第二百四十一条第一項 及び第三項(強盗・不同意性交等 及び同致死)の罪 並びにこれらの罪(同条第一項の罪を除く。)の未遂罪
この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国の公務員に適用する。
第百一条(看守者等による逃走援助)の罪 及びその未遂罪
第百五十六条(虚偽公文書作成等)の罪
第百九十三条(公務員職権濫用)、第百九十五条第二項(特別公務員暴行陵虐)及び第百九十七条から第百九十七条の四まで(収賄、受託収賄 及び事前収賄、第三者供賄、加重収賄 及び事後収賄、あっせん収賄)の罪 並びに第百九十五条第二項の罪に係る第百九十六条(特別公務員職権濫用等致死傷)の罪
第二条から前条までに規定するもののほか、この法律は、日本国外において、第二編の罪であって条約により日本国外において犯したときであっても罰すべきものとされているものを犯したすべての者に適用する。
外国において確定裁判を受けた者であっても、同一の行為について更に処罰することを妨げない。
ただし、犯人が既に外国において言い渡された刑の全部 又は一部の執行を受けたときは、刑の執行を減軽し、又は免除する。
犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。
この法律において「公務員」とは、国 又は地方公共団体の職員 その他法令により公務に従事する議員、委員 その他の職員をいう。
この法律において「公務所」とは、官公庁 その他公務員が職務を行う所をいう。
この法律において「電磁的記録」とは、電子的方式、磁気的方式 その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。
この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する。
ただし、その法令に特別の規定があるときは、この限りでない。
第二章 刑
死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留 及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
主刑の軽重は、前条に規定する順序による。
ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。
同種の刑は、長期の長いもの 又は多額の多いものを重い刑とし、長期 又は多額が同じであるときは、短期の長いもの 又は寡額の多いものを重い刑とする。
二個以上の死刑 又は長期 若しくは多額 及び短期 若しくは寡額が同じである同種の刑は、犯情によってその軽重を定める。
死刑は、刑事施設内において、絞首して執行する。
死刑の言渡しを受けた者は、その執行に至るまで刑事施設に拘置する。
懲役は、無期 及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
禁錮は、無期 及び有期とし、有期禁錮は、一月以上二十年以下とする。
死刑 又は無期の懲役 若しくは禁錮を減軽して有期の懲役 又は禁錮とする場合においては、その長期を三十年とする。
有期の懲役 又は禁錮を加重する場合においては三十年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては一月未満に下げることができる。
罰金は、一万円以上とする。
ただし、これを減軽する場合においては、一万円未満に下げることができる。
拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。
科料は、千円以上一万円未満とする。
罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間、労役場に留置する。
科料を完納することができない者は、一日以上三十日以下の期間、労役場に留置する。
罰金を併科した場合 又は罰金と科料とを併科した場合における留置の期間は、三年を超えることができない。
科料を併科した場合における留置の期間は、六十日を超えることができない。
罰金 又は科料の言渡しをするときは、その言渡しとともに、罰金 又は科料を完納することができない場合における留置の期間を定めて言い渡さなければならない。
罰金については裁判が確定した後三十日以内、科料については裁判が確定した後十日以内は、本人の承諾がなければ留置の執行をすることができない。
罰金 又は科料の一部を納付した者についての留置の日数は、その残額を留置一日の割合に相当する金額で除して得た日数(その日数に一日未満の端数を生じるときは、これを一日とする。)とする。
次に掲げる物は、没収することができる。
犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物 又は犯罪行為の報酬として得た物
前号に掲げる物の対価として得た物
没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。
ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。
前条第一項第三号 又は第四号に掲げる物の全部 又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴することができる。
拘留 又は科料のみに当たる罪については、特別の規定がなければ、没収を科することができない。
ただし、第十九条第一項第一号に掲げる物の没収については、この限りでない。
未決勾留の日数は、その全部 又は一部を本刑に算入することができる。
第三章 期間計算
月 又は年によって期間を定めたときは、暦に従って計算する。
刑期は、裁判が確定した日から起算する。
拘禁されていない日数は、裁判が確定した後であっても、刑期に算入しない。
受刑の初日は、時間にかかわらず、一日として計算する。
時効期間の初日についても、同様とする。
刑期が終了した場合における釈放は、その終了の日の翌日に行う。
第四章 刑の執行猶予
次に掲げる者が三年以下の懲役 若しくは禁錮 又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日 又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役 又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。
ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ、同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。
前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、前条第二項ただし書 及び第二十六条の二第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。
次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。
ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。
次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。
前二条の規定により禁錮以上の刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の禁錮以上の刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならない。
刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
次に掲げる者が三年以下の懲役 又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重 及び犯人の境遇 その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日 又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
前項の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日 又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。
前項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき懲役 又は禁錮があるときは、第一項の規定による猶予の期間は、その執行すべき懲役 若しくは禁錮の執行を終わった日 又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。
前条第一項の場合においては、猶予の期間中保護観察に付することができる。
前項の規定により付せられた保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
前項の規定により保護観察を仮に解除されたときは、第二十七条の五第二号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなす。
次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。
ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十七条の二第一項第三号に掲げる者であるときは、この限りでない。
猶予の言渡し後に更に罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられたとき。
猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとき。
猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき。
次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
猶予の言渡し後に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
第二十七条の三第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき。
前二条の規定により刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の禁錮以上の刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならない。
刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その懲役 又は禁錮を執行が猶予されなかった部分の期間を刑期とする懲役 又は禁錮に減軽する。
この場合においては、当該部分の期間の執行を終わった日 又はその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行を受け終わったものとする。
第五章 仮釈放
懲役 又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。
次に掲げる場合においては、仮釈放の処分を取り消すことができる。
仮釈放中に更に罪を犯し、罰金以上の刑に処せられたとき。
仮釈放前に犯した他の罪について罰金以上の刑に処せられたとき。
仮釈放前に他の罪について罰金以上の刑に処せられた者に対し、その刑の執行をすべきとき。
仮釈放中に遵守すべき事項を遵守しなかったとき。
刑の一部の執行猶予の言渡しを受け、その刑について仮釈放の処分を受けた場合において、当該仮釈放中に当該執行猶予の言渡しを取り消されたときは、その処分は、効力を失う。
仮釈放の処分を取り消したとき、又は前項の規定により仮釈放の処分が効力を失ったときは、釈放中の日数は、刑期に算入しない。
拘留に処せられた者は、情状により、いつでも、行政官庁の処分によって仮に出場を許すことができる。
罰金 又は科料を完納することができないため留置された者も、前項と同様とする。
第六章 刑の時効及び刑の消滅
刑(死刑を除く。)の言渡しを受けた者は、時効によりその執行の免除を得る。
時効は、刑の言渡しが確定した後、次の期間その執行を受けないことによって完成する。
無期の懲役 又は禁錮については三十年
十年以上の有期の懲役 又は禁錮については二十年
三年以上十年未満の懲役 又は禁錮については十年
三年未満の懲役 又は禁錮については五年
罰金については三年
拘留、科料 及び没収については一年
時効は、法令により執行を猶予し、又は停止した期間内は、進行しない。
拘禁刑、罰金、拘留 及び科料の時効は、刑の言渡しを受けた者が国外にいる場合には、その国外にいる期間は、進行しない。
懲役、禁錮 及び拘留の時効は、刑の言渡しを受けた者をその執行のために拘束することによって中断する。
罰金、科料 及び没収の時効は、執行行為をすることによって中断する。
禁錮以上の刑の執行を終わり 又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで十年を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
罰金以下の刑の執行を終わり 又はその執行の免除を得た者が罰金以上の刑に処せられないで五年を経過したときも、同様とする。
刑の免除の言渡しを受けた者が、その言渡しが確定した後、罰金以上の刑に処せられないで二年を経過したときは、刑の免除の言渡しは、効力を失う。
第七章 犯罪の不成立及び刑の減免
法令 又は正当な業務による行為は、罰しない。
急迫不正の侵害に対して、自己 又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
自己 又は他人の生命、身体、自由 又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。
ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。
罪を犯す意思がない行為は、罰しない。
ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。
ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
心神喪失者の行為は、罰しない。
心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
十四歳に満たない者の行為は、罰しない。
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。
第八章 未遂罪
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。
ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
未遂を罰する場合は、各本条で定める。
第九章 併合罪
確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。
ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。
併合罪のうちの一個の罪について死刑に処するときは、他の刑を科さない。
ただし、没収は、この限りでない。
併合罪のうちの一個の罪について無期の懲役 又は禁錮に処するときも、他の刑を科さない。
ただし、罰金、科料 及び没収は、この限りでない。
併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役 又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。
ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。
罰金と他の刑とは、併科する。
ただし、第四十六条第一項の場合は、この限りでない。
併合罪のうちの二個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する。
併合罪のうちの重い罪について没収を科さない場合であっても、他の罪について没収の事由があるときは、これを付加することができる。
二個以上の没収は、併科する。
併合罪のうちに既に確定裁判を経た罪とまだ確定裁判を経ていない罪とがあるときは、確定裁判を経ていない罪について更に処断する。
併合罪について二個以上の裁判があったときは、その刑を併せて執行する。
ただし、死刑を執行すべきときは、没収を除き、他の刑を執行せず、無期の懲役 又は禁錮を執行すべきときは、罰金、科料 及び没収を除き、他の刑を執行しない。
前項の場合における有期の懲役 又は禁錮の執行は、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを超えることができない。
併合罪について処断された者がその一部の罪につき大赦を受けたときは、他の罪について改めて刑を定める。
拘留 又は科料と他の刑とは、併科する。
ただし、第四十六条の場合は、この限りでない。
二個以上の拘留 又は科料は、併科する。
一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段 若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。
第四十九条第二項の規定は、前項の場合にも、適用する。
第十章 累犯
懲役に処せられた者がその執行を終わった日 又はその執行の免除を得た日から五年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする。
懲役に当たる罪と同質の罪により死刑に処せられた者がその執行の免除を得た日 又は減刑により懲役に減軽されてその執行を終わった日 若しくはその執行の免除を得た日から五年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときも、前項と同様とする。
併合罪について処断された者が、その併合罪のうちに懲役に処すべき罪があったのに、その罪が最も重い罪でなかったため懲役に処せられなかったものであるときは、再犯に関する規定の適用については、懲役に処せられたものとみなす。
再犯の刑は、その罪について定めた懲役の長期の二倍以下とする。
三犯以上の者についても、再犯の例による。
第十一章 共犯
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。
正犯を幇助した者は、従犯とする。
従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。
従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。
拘留 又は科料のみに処すべき罪の教唆者 及び従犯は、特別の規定がなければ、罰しない。
犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。
身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。
第十二章 酌量減軽
犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる。
法律上刑を加重し、又は減軽する場合であっても、酌量減軽をすることができる。
第十三章 加重減軽の方法
法律上刑を減軽すべき一個 又は二個以上の事由があるときは、次の例による。
死刑を減軽するときは、無期の懲役 若しくは禁錮 又は十年以上の懲役 若しくは禁錮とする。
無期の懲役 又は禁錮を減軽するときは、七年以上の有期の懲役 又は禁錮とする。
有期の懲役 又は禁錮を減軽するときは、その長期 及び短期の二分の一を減ずる。
罰金を減軽するときは、その多額 及び寡額の二分の一を減ずる。
拘留を減軽するときは、その長期の二分の一を減ずる。
科料を減軽するときは、その多額の二分の一を減ずる。
法律上刑を減軽すべき場合において、各本条に二個以上の刑名があるときは、まず適用する刑を定めて、その刑を減軽する。
懲役、禁錮 又は拘留を減軽することにより一日に満たない端数が生じたときは、これを切り捨てる。
酌量減軽をするときも、第六十八条 及び前条の例による。
同時に刑を加重し、又は減軽するときは、次の順序による。