民法

# 明治二十九年法律第八十九号 #

第五編 相続

分類 法律
カテゴリ   民事
@ 施行日 : 令和六年四月一日 ( 2024年 4月1日 )
@ 最終更新 : 令和四年法律第百二号による改正
最終編集日 : 2024年 04月27日 20時49分


第一章 総則

1項
相続は、死亡によって開始する。
1項

相続は、被相続人の住所において開始する。

1項

相続回復の請求権は、相続人 又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。


相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。

1項

相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。


ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。

第二章 相続人

1項

胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。

2項

前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない

1項
被相続人の子は、相続人となる。
2項

被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。


ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

3項

前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

1項

次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。

一 号

被相続人の直系尊属。


ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。

二 号
被相続人の兄弟姉妹
2項

第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

1項

被相続人の配偶者は、常に相続人となる。


この場合において、第八百八十七条 又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

1項

次に掲げる者は、相続人となることができない

一 号

故意に被相続人 又は相続について先順位 若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者

二 号

被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。


ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者 若しくは直系血族であったときは、この限りでない。

三 号

詐欺 又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者

四 号

詐欺 又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者

五 号

相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

1項

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

1項

被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。


この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

1項

被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

2項

前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。

1項

推定相続人の廃除 又はその取消しの請求があった後 その審判が確定する前に相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関係人 又は検察官の請求によって、遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。


推定相続人の廃除の遺言があったときも、同様とする。

2項

第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が遺産の管理人を選任した場合について準用する。

第三章 相続の効力

第一節 総則

1項

相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。


ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

1項

系譜、祭具 及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。


ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2項

前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

1項

家庭裁判所は、利害関係人 又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任 その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。


ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第九百五十二条第一項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。

2項

第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

1項

相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

2項

相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。

1項

各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。

1項

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず次条 及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録 その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない

2項

前項の権利が債権である場合において、次条 及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

第二節 相続分

1項

同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。

一 号

子 及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分 及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。

二 号

配偶者 及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。

三 号

配偶者 及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。

四 号

子、直系尊属 又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。


ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

1項

第八百八十七条第二項 又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。


ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。

2項

前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。

1項

被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。

2項

被相続人が、共同相続人中の一人 若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。

1項

被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条 及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。


ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。

1項

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻 若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈 又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2項

遺贈 又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者 又は受贈者は、その相続分を受けることができない

3項

被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

4項

婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物 又はその敷地について遺贈 又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈 又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

1項

前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

1項

共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供 又は財産上の給付、被相続人の療養看護 その他の方法により被相続人の財産の維持 又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

2項

前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法 及び程度、相続財産の額 その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。

3項

寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない

4項

第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合 又は第九百十条に規定する場合にすることができる。

1項

前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない


ただし次の各号いずれかに該当するときは、この限りでない。

一 号

相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

二 号

相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

1項

共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額 及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。

2項

前項の権利は、一箇月以内行使しなければならない。

第三節 遺産の分割

1項

遺産の分割は、遺産に属する物 又は権利の種類 及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態 及び生活の状況 その他一切の事情を考慮してこれをする。

1項

遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。

2項

前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人 又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

1項

共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合 又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部 又は一部の分割をすることができる。

2項

遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部 又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。


ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

1項

被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

2項

共同相続人は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部 又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。


ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。

3項

前項の契約は、五年以内の期間を定めて更新することができる。


ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。

4項

前条第二項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて、遺産の全部 又は一部について、その分割を禁ずることができる。


ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。

5項

家庭裁判所は、五年以内の期間を定めて前項の期間を更新することができる。


ただし、その期間の終期は、相続開始の時から十年を超えることができない。

1項

遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。


ただし、第三者の権利を害することはできない。

1項

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一第九百条 及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額 その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。


この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

1項

相続の開始後 認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割 その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

1項

各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。

1項

各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。

2項

弁済期に至らない債権 及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。

1項

担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者 及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。


ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない

1項

前三条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない

第四章 相続の承認及び放棄

第一節 総則

1項

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純 若しくは限定の承認 又は放棄をしなければならない。


ただし、この期間は、利害関係人 又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

2項

相続人は、相続の承認 又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

1項

相続人が相続の承認 又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

1項

相続人が未成年者 又は成年被後見人であるときは、第九百十五条第一項の期間は、その法定代理人が未成年者 又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

1項

相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。


ただし、相続の承認 又は放棄をしたときは、この限りでない。

1項

相続の承認 及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない

2項

前項の規定は、第一編総則)及び前編親族)の規定により相続の承認 又は放棄の取消しをすることを妨げない。

3項

前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。


相続の承認 又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。

4項

第二項の規定により限定承認 又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

第二節 相続の承認

第一款 単純承認

1項

相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

1項

次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一 号

相続人が相続財産の全部 又は一部を処分したとき。


ただし、保存行為 及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二 号

相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認 又は相続の放棄をしなかったとき。

三 号

相続人が、限定承認 又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部 若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。


ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

第二款 限定承認

1項

相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ 被相続人の債務 及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

1項

相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

1項

相続人は、限定承認をしようとするときは、第九百十五条第一項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

1項

相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。

1項

限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。

2項

第六百四十五条第六百四十六条 並びに第六百五十条第一項 及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。

1項

限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと 及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。


この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。

2項

前項の規定による公告には、相続債権者 及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。


ただし、限定承認者は、知れている相続債権者 及び受遺者を除斥することができない

3項

限定承認者は、知れている相続債権者 及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。

4項

第一項の規定による公告は、官報に掲載してする。

1項

限定承認者は、前条第一項の期間の満了前には、相続債権者 及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

1項

第九百二十七条第一項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者 その他知れている相続債権者に、それぞれ その債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。


ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない

1項

限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。

2項

条件付きの債権 又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。

1項

限定承認者は、前二条の規定に従って各相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない

1項

前三条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。


ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部 又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。

1項

相続債権者 及び受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売 又は鑑定に参加することができる。


この場合においては、第二百六十条第二項の規定を準用する。

1項

限定承認者は、第九百二十七条の公告 若しくは催告をすることを怠り、又は同条第一項の期間内に相続債権者 若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者 若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


第九百二十九条から第九百三十一条までの規定に違反して弁済をしたときも、同様とする。

2項

前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた相続債権者 又は受遺者に対する他の相続債権者 又は受遺者の求償を妨げない。

3項

第七百二十四条の規定は、前二項の場合について準用する。

1項

第九百二十七条第一項の期間内に同項の申出をしなかった相続債権者 及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは、残余財産についてのみ その権利を行使することができる。


ただし、相続財産について特別担保を有する者は、この限りでない。

1項

相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の清算人を選任しなければならない。

2項

前項の相続財産の清算人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理 及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。

3項

第九百二十六条から前条までの規定は、第一項の相続財産の清算人について準用する。


この場合において、

第九百二十七条第一項
限定承認をした後五日以内」とあるのは、
「その相続財産の清算人の選任があった後十日以内」と

読み替えるものとする。

1項

限定承認をした共同相続人の一人 又は数人について第九百二十一条第一号 又は第三号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。

第三節 相続の放棄

1項

相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

1項

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

1項

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人 又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

2項

第六百四十五条第六百四十六条 並びに第六百五十条第一項 及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。

第五章 財産分離

1項

相続債権者 又は受遺者は、相続開始の時から三箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。


相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後も、同様とする。

2項

家庭裁判所が前項の請求によって財産分離を命じたときは、その請求をした者は、五日以内に、他の相続債権者 及び受遺者に対し、財産分離の命令があったこと 及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければならない。


この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない

3項

前項の規定による公告は、官報に掲載してする。

1項

財産分離の請求をした者 及び前条第二項の規定により配当加入の申出をした者は、相続財産について、相続人の債権者に先立って弁済を受ける。

1項

財産分離の請求があったときは、家庭裁判所は、相続財産の管理について必要な処分を命ずることができる。

2項

第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

1項

相続人は、単純承認をした後でも、財産分離の請求があったときは、以後、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理をしなければならない。


ただし、家庭裁判所が相続財産の管理人を選任したときは、この限りでない。

2項

第六百四十五条から第六百四十七条まで 並びに第六百五十条第一項 及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。

1項

財産分離は、不動産については、その登記をしなければ、第三者に対抗することができない

1項

第三百四条の規定は、財産分離の場合について準用する。

1項

相続人は、第九百四十一条第一項 及び第二項の期間の満了前には、相続債権者 及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

2項

財産分離の請求があったときは、相続人は、第九百四十一条第二項の期間の満了後に、相続財産をもって、財産分離の請求 又は配当加入の申出をした相続債権者 及び受遺者に、それぞれ その債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。


ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。

3項

第九百三十条から第九百三十四条までの規定は、前項の場合について準用する。

1項

財産分離の請求をした者 及び配当加入の申出をした者は、相続財産をもって全部の弁済を受けることができなかった場合に限り、相続人の固有財産についてその権利を行使することができる。


この場合においては、相続人の債権者は、その者に先立って弁済を受けることができる。

1項

相続人は、その固有財産をもって相続債権者 若しくは受遺者に弁済をし、又はこれに相当の担保を供して、財産分離の請求を防止し、又はその効力を消滅させることができる。


ただし、相続人の債権者が、これによって損害を受けるべきことを証明して、異議を述べたときは、この限りでない。

1項

相続人が限定承認をすることができる間 又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、相続人の債権者は、家庭裁判所に対して財産分離の請求をすることができる。

2項

第三百四条第九百二十五条第九百二十七条から第九百三十四条まで第九百四十三条から第九百四十五条まで 及び第九百四十八条の規定は、前項の場合について準用する。


ただし第九百二十七条の公告 及び催告は、財産分離の請求をした債権者がしなければならない。

第六章 相続人の不存在

1項
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
1項

前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人 又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。

2項

前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨 及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。


この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない

1項

第二十七条から第二十九条までの規定は、前条第一項の相続財産の清算人(以下この章において単に「相続財産の清算人」という。)について準用する。

1項
相続財産の清算人は、相続債権者 又は受遺者の請求があるときは、その請求をした者に相続財産の状況を報告しなければならない。
1項

相続人のあることが明らかになったときは、第九百五十一条の法人は、成立しなかったものとみなす。


ただし、相続財産の清算人がその権限内でした行為の効力を妨げない。

1項
相続財産の清算人の代理権は、相続人が相続の承認をした時に消滅する。
2項

前項の場合には、相続財産の清算人は、遅滞なく相続人に対して清算に係る計算をしなければならない。

1項

第九百五十二条第二項の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者 及び受遺者に対し、二箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。


この場合において、その期間は、同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない。

2項

第九百二十七条第二項から第四項まで 及び第九百二十八条から第九百三十五条まで第九百三十二条ただし書を除く)の規定は、前項の場合について準用する。

1項

第九百五十二条第二項の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人 並びに相続財産の清算人に知れなかった相続債権者 及び受遺者は、その権利を行使することができない

1項

前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者 その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部 又は一部を与えることができる。

2項

前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。

1項

前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。


この場合においては、第九百五十六条第二項の規定を準用する。

第七章 遺言

第一節 総則

1項

遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

1項

十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

1項

第五条第九条第十三条 及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない

1項

遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

1項

遺言者は、包括 又は特定の名義で、その財産の全部 又は一部を処分することができる。

1項

第八百八十六条 及び第八百九十一条の規定は、受遺者について準用する。

1項

被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人 又はその配偶者 若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。

2項

前項の規定は、直系血族、配偶者 又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない

第二節 遺言の方式

第一款 普通の方式

1項

遺言は、自筆証書、公正証書 又は秘密証書によってしなければならない。


ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。

1項

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付 及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2項

前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部 又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。


この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3項

自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除 その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

1項

公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

一 号

証人二人以上の立会いがあること。

二 号

遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。

三 号

公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者 及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。

四 号

遺言者 及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。


ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。

五 号

公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

1項

口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人 及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。


この場合における同条第三号の規定の適用については、

同号
口述」とあるのは、
「通訳人の通訳による申述 又は自書」と

する。

2項

前条の遺言者 又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者 又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。

3項

公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。

1項

秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

一 号

遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。

二 号

遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。

三 号

遺言者が、公証人一人 及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨 並びにその筆者の氏名 及び住所を申述すること。

四 号

公証人が、その証書を提出した日付 及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者 及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

2項

第九百六十八条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

1項

秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。

1項

口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人 及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨 並びにその筆者の氏名 及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第九百七十条第一項第三号の申述に代えなければならない。

2項

前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。

3項

第一項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第九百七十条第一項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。

1項

成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。

2項

遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。


ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。

1項

次に掲げる者は、遺言の証人 又は立会人となることができない。

一 号
未成年者
二 号

推定相続人 及び受遺者 並びにこれらの配偶者 及び直系血族

三 号

公証人の配偶者、四親等内の親族、書記 及び使用人

1項

遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。

第二款 特別の方式

1項

疾病 その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。


この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者 及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。

2項

口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。

3項

第一項後段の遺言者 又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授 又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者 又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。

4項

前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人 又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。

5項

家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない

1項

伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人 及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。

1項

船舶中に在る者は、船長 又は事務員一人 及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。

1項

船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。

2項

口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。

3項

前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人 又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。

4項

第九百七十六条第五項の規定は、前項の場合について準用する。

1項

第九百七十七条 及び第九百七十八条の場合には、遺言者、筆者、立会人 及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。

1項

第九百七十七条から第九百七十九条までの場合において、署名 又は印を押すことのできない者があるときは、立会人 又は証人は、その事由を付記しなければならない。

1項

第九百六十八条第三項 及び第九百七十三条から第九百七十五条までの規定は、第九百七十六条から前条までの規定による遺言について準用する。

1項

第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、その効力を生じない。

1項

日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書 又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。


この場合においては、第九百六十九条第四号 又は第九百七十条第一項第四号の規定にかかわらず、遺言者 及び証人は、第九百六十九条第四号 又は第九百七十条第一項第四号の印を押すことを要しない。

第三節 遺言の効力

1項

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

2項

遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

1項

受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。

2項

遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

1項

遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認 又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。


この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。

1項

受遺者が遺贈の承認 又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認 又は放棄をすることができる。


ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

1項

遺贈の承認 及び放棄は、撤回することができない

2項

第九百十九条第二項 及び第三項の規定は、遺贈の承認 及び放棄について準用する。

1項

包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。

1項

受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は、遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができる。


停止条件付きの遺贈についてその条件の成否が未定である間も、同様とする。

1項

受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。


ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

1項

第二百九十九条の規定は、遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を支出した場合について準用する。

2項

果実を収取するために支出した通常の必要費は、果実の価格を超えない限度で、その償還を請求することができる。

1項

遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。

2項

停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項同様とする。


ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

1項

遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。


ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

1項

遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。


ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。

1項

相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。

2項

前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価額を弁償しなければならない。


ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

1項

遺贈義務者は、遺贈の目的である物 又は権利を、相続開始の時(その後に当該物 又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う。


ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

1項

遺言者が、遺贈の目的物の滅失 若しくは変造 又はその占有の喪失によって第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定する。

2項

遺贈の目的物が、他の物と付合し、又は混和した場合において、遺言者が第二百四十三条から第二百四十五条までの規定により合成物 又は混和物の単独所有者 又は共有者となったときは、その全部の所有権 又は持分を遺贈の目的としたものと推定する。

1項

債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者が弁済を受け、かつ、その受け取った物がなお相続財産中に在るときは、その物を遺贈の目的としたものと推定する。

2項

金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。

1項

負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。

2項

受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。


ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

1項

負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認 又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて、その負担した義務を免れる。


ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

第四節 遺言の執行

1項

遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。


遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。

2項

前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない

3項

封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人 又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない

1項

前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。

1項

遺言者は、遺言で、一人 又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。

2項

遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。

3項

遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なく その旨を相続人に通知しなければならない。

1項

遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。

2項

遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

1項

相続人 その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。


この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。

1項

未成年者 及び破産者は、遺言執行者となることができない

1項

遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。

1項

遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。

2項

遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。

1項

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理 その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

2項

遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

3項

第六百四十四条第六百四十五条から第六百四十七条まで 及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

1項

遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分 その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない

2項

前項の規定に違反してした行為は、無効とする。


ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない

3項

前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

1項

前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。

2項

遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人 又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

3項

前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金 又は貯金の払戻しの請求 及びその預金 又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。


ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る

4項

前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

1項

遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

1項

遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。


ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

2項

前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任 及び監督についての責任のみを負う。

1項

遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。


ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

2項

各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

1項

家庭裁判所は、相続財産の状況 その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。


ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。

2項

第六百四十八条第二項 及び第三項 並びに第六百四十八条の二の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。

1項

遺言執行者がその任務を怠ったとき その他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。

2項

遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。

1項

第六百五十四条 及び第六百五十五条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。

1項

遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。


ただし、これによって遺留分を減ずることができない

第五節 遺言の撤回及び取消し

1項

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部 又は一部を撤回することができる。

1項

前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。

2項

前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分 その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

1項

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。


遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。

1項

前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。


ただし、その行為が錯誤、詐欺 又は強迫による場合は、この限りでない。

1項

遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない

1項

負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。


この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

第八章 配偶者の居住の権利

第一節 配偶者居住権

1項

被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号いずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用 及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。


ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。

一 号

遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。

二 号

配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

2項

居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。

3項

第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

1項

遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。

一 号

共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。

二 号

配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮しても なお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く)。

1項

配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。


ただし、遺産の分割の協議 若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。

1項

居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。

2項

第六百五条の規定は配偶者居住権について、第六百五条の四の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。

1項

配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用 及び収益をしなければならない。


ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。

2項

配偶者居住権は、譲渡することができない

3項

配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築 若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用 若しくは収益をさせることができない。

4項

配偶者が第一項 又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。

1項

配偶者は、居住建物の使用 及び収益に必要な修繕をすることができる。

2項

居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。

3項

居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なく その旨を通知しなければならない。


ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。

1項

配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。

2項

第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。

1項

配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。


ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない

2項

第五百九十九条第一項 及び第二項並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物 又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

1項

第五百九十七条第一項 及び第三項第六百条第六百十三条 並びに第六百十六条の二の規定は、配偶者居住権について準用する。

第二節 配偶者短期居住権

1項

配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続 又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。


ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。

一 号

居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合

遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日 又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日

二 号

前号に掲げる場合以外の場合

第三項の申入れの日から六箇月を経過する日

2項

前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡 その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。

3項

居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。

1項

配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。

2項

配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。

3項

配偶者が前二項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。

1項

配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅する。

1項

配偶者は、前条に規定する場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。


ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。

2項

第五百九十九条第一項 及び第二項 並びに第六百二十一条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物 又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

1項

第五百九十七条第三項第六百条第六百十六条の二第千三十二条第二項第千三十三条 及び第千三十四条の規定は、配偶者短期居住権について準用する。

第九章 遺留分

1項

兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

一 号

直系尊属のみが相続人である場合

三分の一

二 号

前号に掲げる場合以外の場合

二分の一

2項

相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条 及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

1項

遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。

2項

条件付きの権利 又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

1項

贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。


当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2項

第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3項

相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、

同項
一年」とあるのは
十年」と、

価額」とあるのは
「価額(婚姻 若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る)」と

する。

1項

負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。

2項

不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。

1項

遺留分権利者 及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し 又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2項

遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号 及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。

一 号

遺留分権利者が受けた遺贈 又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額

二 号

第九百条から第九百二条まで第九百三条 及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

三 号

被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

1項

受遺者 又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継 又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者 又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。

一 号

受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。

二 号

受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者 又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。


ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

三 号

受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

2項

第九百四条第千四十三条第二項 及び第千四十五条の規定は、前項に規定する遺贈 又は贈与の目的の価額について準用する。

3項

前条第一項の請求を受けた受遺者 又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済 その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。


この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。

4項

受遺者 又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。

5項

裁判所は、受遺者 又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部 又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

1項

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始 及び遺留分を侵害する贈与 又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。


相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

1項

相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。

2項

共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

第十章 特別の寄与

1項

被相続人に対して無償で療養看護 その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持 又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者 及び第八百九十一条の規定に該当し 又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。

2項

前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。


ただし、特別寄与者が相続の開始 及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。

3項

前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法 及び程度、相続財産の額 その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。

4項

特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない

5項

相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。