物権は、この法律 その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。
民法
第二編 物権
第一章 総則
物権の設定 及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
不動産に関する物権の得喪 及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
同一物について所有権 及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。
ただし、その物 又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。
所有権以外の物権 及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは、当該他の権利は、消滅する。
この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。
前二項の規定は、占有権については、適用しない。
第二章 占有権
第一節 占有権の取得
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
占有権は、代理人によって取得することができる。
占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。
譲受人 又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。
権原の性質上 占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間 継続したものと推定する。
占有者の承継人は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、又は自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張することができる。
前の占有者の占有を併せて主張する場合には、その瑕疵をも承継する。
第二節 占有権の効力
占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。
善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。
悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
前項の規定は、暴行 若しくは強迫 又は隠匿によって占有をしている者について準用する。
占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、その回復者に対し、悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い、善意の占有者はその滅失 又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。
ただし、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければならない。
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
前条の場合において、占有物が盗品 又は遺失物であるときは、被害者 又は遺失者は、盗難 又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
占有者が、盗品 又は遺失物を、競売 若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者 又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から一箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。
占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額 その他の必要費を回復者から償還させることができる。
ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
占有者が占有物の改良のために支出した金額 その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額 又は増価額を償還させることができる。
ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。
他人のために占有をする者も、同様とする。
占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止 及び損害の賠償を請求することができる。
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防 又は損害賠償の担保を請求することができる。
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還 及び損害の賠償を請求することができる。
占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。
ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。
占有保持の訴えは、妨害の存する間 又はその消滅した後一年以内に提起しなければならない。
ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から一年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。
占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。
この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。
占有回収の訴えは、占有を奪われた時から一年以内に提起しなければならない。
占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。
第三節 占有権の消滅
占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。
ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。
代理人によって占有をする場合には、占有権は、次に掲げる事由によって消滅する。
本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。
代理人が本人に対して以後 自己 又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。
占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない。
第四節 準占有
この章の規定は、自己のためにする意思をもって財産権の行使をする場合について準用する。
第三章 所有権
第一節 所有権の限界
⤏ 第二款 相隣関係
土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。
ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り
前項の場合には、使用の日時、場所 及び方法は、隣地の所有者 及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
第一項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所 及び方法を隣地の所有者 及び隣地使用者に通知しなければならない。
ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
第一項の場合において、隣地の所有者 又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
池沼、河川、水路 若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
前条の場合には、通行の場所 及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。
第二百十条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。
ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。
分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。
この場合においては、償金を支払うことを要しない。
前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス 又は水道水の供給 その他これらに類する継続的給付(以下この項 及び次条第一項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。
前項の場合には、設備の設置 又は使用の場所 及び方法は、他の土地 又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
第一項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所 及び方法を他の土地等の所有者 及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。
第一項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該 他の土地 又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。
この場合においては、第二百九条第一項ただし書 及び第二項から第四項までの規定を準用する。
第一項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第二百九条第四項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。
ただし、一年ごとにその償金を支払うことができる。
第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕 及び維持に要する費用を負担しなければならない。
分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。
この場合においては、前条第五項の規定は、適用しない。
前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
土地の所有者は、隣地から水が自然に流れて来るのを妨げてはならない。
水流が天災 その他避けることのできない事変により低地において閉塞したときは、高地の所有者は、自己の費用で、水流の障害を除去するため必要な工事をすることができる。
他の土地に貯水、排水 又は引水のために設けられた工作物の破壊 又は閉塞により、自己の土地に損害が及び、又は及ぶおそれがある場合には、その土地の所有者は、当該他の土地の所有者に、工作物の修繕 若しくは障害の除去をさせ、又は必要があるときは予防工事をさせることができる。
前二条の場合において、費用の負担について別段の慣習があるときは、その慣習に従う。
土地の所有者は、直接に雨水を隣地に注ぐ構造の屋根 その他の工作物を設けてはならない。
溝、堀 その他の水流地の所有者は、対岸の土地が他人の所有に属するときは、その水路 又は幅員を変更してはならない。
両岸の土地が水流地の所有者に属するときは、その所有者は、水路 及び幅員を変更することができる。
ただし、水流が隣地と交わる地点において、自然の水路に戻さなければならない。
前二項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
高地の所有者は、その高地が浸水した場合にこれを乾かすため、又は自家用 若しくは農工業用の余水を排出するため、公の水流 又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることができる。
この場合においては、低地のために損害が最も少ない場所 及び方法を選ばなければならない。
土地の所有者は、その所有地の水を通過させるため、高地 又は低地の所有者が設けた工作物を使用することができる。
前項の場合には、他人の工作物を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置 及び保存の費用を分担しなければならない。
水流地の所有者は、堰を設ける必要がある場合には、対岸の土地が他人の所有に属するときであっても、その堰を対岸に付着させて設けることができる。
ただし、これによって生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
対岸の土地の所有者は、水流地の一部がその所有に属するときは、前項の堰を使用することができる。
前条第二項の規定は、前項の場合について準用する。
土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。
境界標の設置 及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。
ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する。
二棟の建物がその所有者を異にし、かつ、その間に空地があるときは、各所有者は、他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる。
当事者間に協議が調わないときは、前項の囲障は、板塀 又は竹垣 その他これらに類する材料のものであって、かつ、高さ二メートルのものでなければならない。
前条の囲障の設置 及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する。
相隣者の一人は、第二百二十五条第二項に規定する材料より良好なものを用い、又は同項に規定する高さを増して囲障を設けることができる。
ただし、これによって生ずる費用の増加額を負担しなければならない。
前三条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝 及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。
一棟の建物の一部を構成する境界線上の障壁については、前条の規定は、適用しない。
高さの異なる二棟の隣接する建物を隔てる障壁の高さが、低い建物の高さを超えるときは、その障壁のうち低い建物を超える部分についても、前項と同様とする。
ただし、防火障壁については、この限りでない。
相隣者の一人は、共有の障壁の高さを増すことができる。
ただし、その障壁がその工事に耐えないときは、自己の費用で、必要な工作を加え、又はその障壁を改築しなければならない。
前項の規定により障壁の高さを増したときは、その高さを増した部分は、その工事をした者の単独の所有に属する。
前条の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない。
前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。
ただし、建築に着手した時から一年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。
境界線から一メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓 又は縁側(ベランダを含む。次項において同じ。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。
前項の距離は、窓 又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する。
前二条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
井戸、用水だめ、下水だめ 又は肥料だめを掘るには境界線から二メートル以上、池、穴蔵 又はし尿だめを掘るには境界線から一メートル以上の距離を保たなければならない。
導水管を埋め、又は溝 若しくは堀を掘るには、境界線からその深さの二分の一以上の距離を保たなければならない。
ただし、一メートルを超えることを要しない。
境界線の付近において前条の工事をするときは、土砂の崩壊 又は水 若しくは汚液の漏出を防ぐため必要な注意をしなければならない。
第二節 所有権の取得
所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。
埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後六箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。
ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者 及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。
ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。
分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。
付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
前二条の規定は、所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合について準用する。
他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。
ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。
前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。
第二百四十二条から前条までの規定により物の所有権が消滅したときは、その物について存する他の権利も、消滅する。
前項に規定する場合において、物の所有者が、合成物、混和物 又は加工物(以下この項において「合成物等」という。)の単独所有者となったときは、その物について存する他の権利は以後 その合成物等について存し、物の所有者が合成物等の共有者となったときは、その物について存する他の権利は以後 その持分について存する。
第二百四十二条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第七百三条 及び第七百四条の規定に従い、その償金を請求することができる。
第三節 共有
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。
共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。
各共有者の持分は、相等しいものと推定する。
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状 又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任 及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該 他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。
共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。
前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。
共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権 その他の使用 及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。
樹木の栽植 又は伐採を目的とする山林の賃借権等
十年
前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等
五年
建物の賃借権等
三年
動産の賃借権等
六箇月
各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。
ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状 又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
前項の規定に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。
ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
共有者が一年以内に前項の義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる。
共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。
ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
前項ただし書の契約は、更新することができる。
ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
前条の規定は、第二百二十九条に規定する共有物については、適用しない。
前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
共有物の全部 又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部 又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物 又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。
共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。
ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第一項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から二箇月以内に当該裁判所にしなければならない。
共有者の一人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは、分割に際し、債務者に帰属すべき共有物の部分をもって、その弁済に充てることができる。
債権者は、前項の弁済を受けるため債務者に帰属すべき共有物の部分を売却する必要があるときは、その売却を請求することができる。
共有物について権利を有する者 及び各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる。
前項の規定による参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができない。
各共有者は、他の共有者が分割によって取得した物について、売主と同じく、その持分に応じて担保の責任を負う。
分割が完了したときは、各分割者は、その取得した物に関する証書を保存しなければならない。
共有者の全員 又はそのうちの数人に分割した物に関する証書は、その物の最大の部分を取得した者が保存しなければならない。
前項の場合において、最大の部分を取得した者がないときは、分割者間の協議で証書の保存者を定める。
協議が調わないときは、裁判所が、これを指定する。
証書の保存者は、他の分割者の請求に応じて、その証書を使用させなければならない。
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。
この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
前項の請求があった持分に係る不動産について第二百五十八条第一項の規定による請求 又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。
所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない。
第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
前各項の規定は、不動産の使用 又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。
第一項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。
前三項の規定は、不動産の使用 又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。
この節(第二百六十二条の二 及び第二百六十二条の三を除く。)の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。
ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。
第四節 所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令
裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地 又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(第四項に規定する所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。
所有者不明土地管理命令の効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地(共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である土地)にある動産(当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地の所有者 又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
所有者不明土地管理命令は、所有者不明土地管理命令が発せられた後に当該所有者不明土地管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地 又は共有持分 及び当該所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分 その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。
裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。
前条第四項の規定により所有者不明土地管理人が選任された場合には、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地 又は共有持分 及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産 並びにその管理、処分 その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。)の管理 及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。
所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。
ただし、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することはできない。
所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
所有者不明土地管理人による所有者不明土地等の管理に必要な費用 及び報酬は、所有者不明土地等の所有者(その共有持分を有する者を含む。)の負担とする。
裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る建物 又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人(第四項に規定する所有者不明建物管理人をいう。以下この条において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「所有者不明建物管理命令」という。)をすることができる。
所有者不明建物管理命令の効力は、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物(共有持分を対象として所有者不明建物管理命令が発せられた場合にあっては、共有物である建物)にある動産(当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者 又は共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有し、又は当該建物の共有持分を有するための建物の敷地に関する権利(賃借権 その他の使用 及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該所有者不明建物管理命令の対象とされた建物の所有者 又は共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
裁判所は、所有者不明建物管理命令をする場合には、当該所有者不明建物管理命令において、所有者不明建物管理人を選任しなければならない。
第二百六十四条の三から前条までの規定は、所有者不明建物管理命令 及び所有者不明建物管理人について準用する。
第五節 管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命
裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利 又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人(第三項に規定する管理不全土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「管理不全土地管理命令」という。)をすることができる。
管理不全土地管理命令の効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産(当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地の所有者 又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)に及ぶ。
管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地 及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産 並びにその管理、処分 その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産(以下「管理不全土地等」という。)の管理 及び処分をする権限を有する。
管理不全土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。
ただし、この許可がないことをもって善意でかつ過失がない第三者に対抗することはできない。
管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分についての前項の許可をするには、その所有者の同意がなければならない。
管理不全土地管理人は、管理不全土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
管理不全土地等が数人の共有に属する場合には、管理不全土地管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
裁判所は、所有者による建物の管理が不適当であることによって他人の権利 又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該建物を対象として、管理不全建物管理人(第三項に規定する管理不全建物管理人をいう。第四項において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「管理不全建物管理命令」という。)をすることができる。
管理不全建物管理命令は、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物にある動産(当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者 又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)及び当該建物を所有するための建物の敷地に関する権利(賃借権 その他の使用 及び収益を目的とする権利(所有権を除く。)であって、当該管理不全建物管理命令の対象とされた建物の所有者 又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
裁判所は、管理不全建物管理命令をする場合には、当該管理不全建物管理命令において、管理不全建物管理人を選任しなければならない。
第二百六十四条の十から前条までの規定は、管理不全建物管理命令 及び管理不全建物管理人について準用する。
第四章 地上権
地上権者は、他人の土地において工作物 又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。
第二百七十四条から第二百七十六条までの規定は、地上権者が土地の所有者に定期の地代を支払わなければならない場合について準用する。
地代については、前項に規定するもののほか、その性質に反しない限り、賃貸借に関する規定を準用する。
前章第一節第二款(相隣関係)の規定は、地上権者間 又は地上権者と土地の所有者との間について準用する。
ただし、第二百二十九条の規定は、境界線上の工作物が地上権の設定後に設けられた場合に限り、地上権者について準用する。
設定行為で地上権の存続期間を定めなかった場合において、別段の慣習がないときは、地上権者は、いつでもその権利を放棄することができる。
ただし、地代を支払うべきときは、一年前に予告をし、又は期限の到来していない一年分の地代を支払わなければならない。
地上権者が前項の規定によりその権利を放棄しないときは、裁判所は、当事者の請求により、二十年以上五十年以下の範囲内において、工作物 又は竹木の種類 及び状況 その他地上権の設定当時の事情を考慮して、その存続期間を定める。
地上権者は、その権利が消滅した時に、土地を原状に復してその工作物 及び竹木を収去することができる。
ただし、土地の所有者が時価相当額を提供してこれを買い取る旨を通知したときは、地上権者は、正当な理由がなければ、これを拒むことができない。
前項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
地下 又は空間は、工作物を所有するため、上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができる。
この場合においては、設定行為で、地上権の行使のためにその土地の使用に制限を加えることができる。
前項の地上権は、第三者がその土地の使用 又は収益をする権利を有する場合においても、その権利 又はこれを目的とする権利を有するすべての者の承諾があるときは、設定することができる。
この場合において、土地の使用 又は収益をする権利を有する者は、その地上権の行使を妨げることができない。
第五章 永小作権
永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作 又は牧畜をする権利を有する。
永小作人は、土地に対して、回復することのできない損害を生ずべき変更を加えることができない。
永小作人は、その権利を他人に譲り渡し、又はその権利の存続期間内において耕作 若しくは牧畜のため土地を賃貸することができる。
ただし、設定行為で禁じたときは、この限りでない。
永小作人の義務については、この章の規定 及び設定行為で定めるもののほか、その性質に反しない限り、賃貸借に関する規定を準用する。
永小作人は、不可抗力により収益について失を受けたときであっても、小作料の免除 又は減額を請求することができない。
永小作人は、不可抗力によって、引き続き三年以上全く収益を得ず、又は五年以上小作料より少ない収益を得たときは、その権利を放棄することができる。
永小作人が引き続き二年以上小作料の支払を怠ったときは、土地の所有者は、永小作権の消滅を請求することができる。
第二百七十一条から前条までの規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。
永小作権の存続期間は、二十年以上五十年以下とする。
設定行為で五十年より長い期間を定めたときであっても、その期間は、五十年とする。
永小作権の設定は、更新することができる。
ただし、その存続期間は、更新の時から五十年を超えることができない。
設定行為で永小作権の存続期間を定めなかったときは、その期間は、別段の慣習がある場合を除き、三十年とする。
第二百六十九条の規定は、永小作権について準用する。
第六章 地役権
地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。
ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。
地役権は、要役地(地役権者の土地であって、他人の土地から便益を受けるものをいう。以下同じ。)の所有権に従たるものとして、その所有権とともに移転し、又は要役地について存する他の権利の目的となるものとする。
ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
地役権は、要役地から分離して譲り渡し、又は他の権利の目的とすることができない。
土地の共有者の一人は、その持分につき、その土地のために 又はその土地について存する地役権を消滅させることができない。
土地の分割 又はその一部の譲渡の場合には、地役権は、その各部のために 又はその各部について存する。
ただし、地役権がその性質により土地の一部のみに関するときは、この限りでない。
地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。
土地の共有者の一人が時効によって地役権を取得したときは、他の共有者も、これを取得する。
共有者に対する時効の更新は、地役権を行使する各共有者に対してしなければ、その効力を生じない。
地役権を行使する共有者が数人ある場合には、その一人について時効の完成猶予の事由があっても、時効は、各共有者のために進行する。
用水地役権の承役地(地役権者以外の者の土地であって、要役地の便益に供されるものをいう。以下同じ。)において、水が要役地 及び承役地の需要に比して不足するときは、その各土地の需要に応じて、まずこれを生活用に供し、その残余を他の用途に供するものとする。
ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
同一の承役地について数個の用水地役権を設定したときは、後の地役権者は、前の地役権者の水の使用を妨げてはならない。
設定行為 又は設定後の契約により、承役地の所有者が自己の費用で地役権の行使のために工作物を設け、又はその修繕をする義務を負担したときは、承役地の所有者の特定承継人も、その義務を負担する。
承役地の所有者は、いつでも、地役権に必要な土地の部分の所有権を放棄して地役権者に移転し、これにより前条の義務を免れることができる。
承役地の所有者は、地役権の行使を妨げない範囲内において、その行使のために承役地の上に設けられた工作物を使用することができる。
前項の場合には、承役地の所有者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置 及び保存の費用を分担しなければならない。
承役地の占有者が取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、地役権は、これによって消滅する。
前条の規定による地役権の消滅時効は、地役権者がその権利を行使することによって中断する。
第百六十六条第二項に規定する消滅時効の期間は、継続的でなく行使される地役権については最後の行使の時から起算し、継続的に行使される地役権についてはその行使を妨げる事実が生じた時から起算する。
要役地が数人の共有に属する場合において、その一人のために時効の完成猶予 又は更新があるときは、その完成猶予 又は更新は、他の共有者のためにも、その効力を生ずる。
地役権者がその権利の一部を行使しないときは、その部分のみが時効によって消滅する。
共有の性質を有しない入会権については、各地方の慣習に従うほか、この章の規定を準用する。
第七章 留置権
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。
ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。
留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
前項の果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。
留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。
ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。
留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる。
留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額 又は増価額を償還させることができる。
ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。
ただし、第二百九十八条第二項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。
第八章 先取特権
第一節 総則
先取特権者は、この法律 その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失 又は損傷によって債務者が受けるべき金銭 その他の物に対しても、行使することができる。
ただし、先取特権者は、その払渡し 又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
第二百九十六条の規定は、先取特権について準用する。
第二節 先取特権の種類
⤏ 第一款 一般の先取特権
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
共益の費用の先取特権は、各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算 又は配当に関する費用について存在する。
前項の費用のうちすべての債権者に有益でなかったものについては、先取特権は、その費用によって利益を受けた債権者に対してのみ存在する。
雇用関係の先取特権は、給料 その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。
葬式の費用の先取特権は、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。
前項の先取特権は、債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在する。
日用品の供給の先取特権は、債務者 又はその扶養すべき同居の親族 及びその家事使用人の生活に必要な最後の六箇月間の飲食料品、燃料 及び電気の供給について存在する。
⤏ 第二款 動産の先取特権
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
種苗 又は肥料(蚕種 又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料 その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在する。
土地の賃貸人の先取特権は、その土地 又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産 及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。
建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。
賃借権の譲渡 又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人 又は転借人の動産にも及ぶ。
譲渡人 又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。
賃借人の財産のすべてを清算する場合には、賃貸人の先取特権は、前期、当期 及び次期の賃料 その他の債務 並びに前期 及び当期に生じた損害の賠償債務についてのみ存在する。
賃貸人は、第六百二十二条の二第一項に規定する敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。
旅館の宿泊の先取特権は、宿泊客が負担すべき宿泊料 及び飲食料に関し、その旅館に在るその宿泊客の手荷物について存在する。
運輸の先取特権は、旅客 又は荷物の運送賃 及び付随の費用に関し、運送人の占有する荷物について存在する。
第百九十二条から第百九十五条までの規定は、第三百十二条から前条までの規定による先取特権について準用する。
動産の保存の先取特権は、動産の保存のために要した費用 又は動産に関する権利の保存、承認 若しくは実行のために要した費用に関し、その動産について存在する。
動産の売買の先取特権は、動産の代価 及びその利息に関し、その動産について存在する。
種苗 又は肥料の供給の先取特権は、種苗 又は肥料の代価 及びその利息に関し、その種苗 又は肥料を用いた後一年以内にこれを用いた土地から生じた果実(蚕種 又は蚕の飼養に供した桑葉の使用によって生じた物を含む。)について存在する。
農業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の一年間の賃金に関し、その労務によって生じた果実について存在する。
工業の労務の先取特権は、その労務に従事する者の最後の三箇月間の賃金に関し、その労務によって生じた製作物について存在する。
⤏ 第三款 不動産の先取特権
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有する。
不動産の保存の先取特権は、不動産の保存のために要した費用 又は不動産に関する権利の保存、承認 若しくは実行のために要した費用に関し、その不動産について存在する。
不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工 又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する。
前項の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する。
不動産の売買の先取特権は、不動産の代価 及びその利息に関し、その不動産について存在する。
第三節 先取特権の順位
一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百六条各号に掲げる順序に従う。
一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権は、一般の先取特権に優先する。
ただし、共益の費用の先取特権は、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有する。
同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。
この場合において、第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。
不動産の賃貸、旅館の宿泊 及び運輸の先取特権
動産の売買、種苗 又は肥料の供給、農業の労務 及び工業の労務の先取特権
前項の場合において、第一順位の先取特権者は、その債権取得の時において第二順位 又は第三順位の先取特権者があることを知っていたときは、これらの者に対して優先権を行使することができない。
第一順位の先取特権者のために物を保存した者に対しても、同様とする。
果実に関しては、第一の順位は農業の労務に従事する者に、第二の順位は種苗 又は肥料の供給者に、第三の順位は土地の賃貸人に属する。
同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百二十五条各号に掲げる順序に従う。
同一の不動産について売買が順次された場合には、売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は、売買の前後による。
同一の目的物について同一順位の先取特権者が数人あるときは、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。
第四節 先取特権の効力
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。
先取特権と動産質権とが競合する場合には、動産質権者は、第三百三十条の規定による第一順位の先取特権者と同一の権利を有する。
一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない。
一般の先取特権者は、不動産については、まず特別担保の目的とされていないものから弁済を受けなければならない。
一般の先取特権者は、前二項の規定に従って配当に加入することを怠ったときは、その配当加入をしたならば弁済を受けることができた額については、登記をした第三者に対してその先取特権を行使することができない。
前三項の規定は、不動産以外の財産の代価に先立って不動産の代価を配当し、又は他の不動産の代価に先立って特別担保の目的である不動産の代価を配当する場合には、適用しない。
一般の先取特権は、不動産について登記をしなくても、特別担保を有しない債権者に対抗することができる。
ただし、登記をした第三者に対しては、この限りでない。
不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後 直ちに登記をしなければならない。
不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。
この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。
工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。
前二条の規定に従って登記をした先取特権は、抵当権に先立って行使することができる。
不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に、不動産の代価 又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない。
先取特権の効力については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、抵当権に関する規定を準用する。
第九章 質権
第一節 総則
質権者は、その債権の担保として債務者 又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
質権は、元本、利息、違約金、質権の実行の費用、質物の保存の費用 及び債務の不履行 又は質物の隠れた瑕疵によって生じた損害の賠償を担保する。
ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。
質権者は、前条に規定する債権の弁済を受けるまでは、質物を留置することができる。
ただし、この権利は、自己に対して優先権を有する債権者に対抗することができない。
質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。
この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。
質権設定者は、設定行為 又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。
第二百九十六条から第三百条まで 及び第三百四条の規定は、質権について準用する。
他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。
第二節 動産質
動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができない。
動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる。
動産質権者は、その債権の弁済を受けないときは、正当な理由がある場合に限り、鑑定人の評価に従い質物をもって直ちに弁済に充てることを裁判所に請求することができる。
この場合において、動産質権者は、あらかじめ、その請求をする旨を債務者に通知しなければならない。
同一の動産について数個の質権が設定されたときは、その質権の順位は、設定の前後による。
第三節 不動産質
不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用 及び収益をすることができる。
不動産質権者は、管理の費用を支払い、その他不動産に関する負担を負う。
不動産質権者は、その債権の利息を請求することができない。
前三条の規定は、設定行為に別段の定めがあるとき、又は担保不動産収益執行(民事執行法第百八十条第二号に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは、適用しない。
不動産質権の存続期間は、十年を超えることができない。
設定行為でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、十年とする。
不動産質権の設定は、更新することができる。
ただし、その存続期間は、更新の時から十年を超えることができない。
不動産質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、次章(抵当権)の規定を準用する。
第四節 権利質
質権は、財産権をその目的とすることができる。
前項の質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、前三節(総則、動産質 及び不動産質)の規定を準用する。
債権を目的とする質権の設定(現に発生していない債権を目的とするものを含む。)は、第四百六十七条の規定に従い、第三債務者にその質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者 その他の第三者に対抗することができない。
質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる。
前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。
この場合において、質権は、その供託金について存在する。
債権の目的物が金銭でないときは、質権者は、弁済として受けた物について質権を有する。
第十章 抵当権
第一節 総則
抵当権者は、債務者 又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
地上権 及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。
この場合においては、この章の規定を準用する。
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。
ただし、設定行為に別段の定めがある場合 及び債務者の行為について第四百二十四条第三項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。
抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。
第二百九十六条、第三百四条 及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。
第二節 抵当権の効力
同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。
抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。
ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。
前項の規定による順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。
抵当権者は、利息 その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。
ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の二年分についても適用する。
ただし、利息 その他の定期金と通算して二年分を超えることができない。
抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権 若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。
前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。
前条の場合には、第四百六十七条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者 及びこれらの者の承継人に対抗することができない。
主たる債務者が前項の規定により通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない。
抵当不動産について所有権 又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。
抵当不動産の第三取得者は、第三百八十三条の定めるところにより、抵当権消滅請求をすることができる。
主たる債務者、保証人 及びこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができない。
抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間は、抵当権消滅請求をすることができない。
抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない。
抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をするときは、登記をした各債権者に対し、次に掲げる書面を送付しなければならない。
取得の原因 及び年月日、譲渡人 及び取得者の氏名 及び住所 並びに抵当不動産の性質、所在 及び代価 その他取得者の負担を記載した書面
抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。)
債権者が二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、抵当不動産の第三取得者が第一号に規定する代価 又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し 又は供託すべき旨を記載した書面
次に掲げる場合には、前条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、抵当不動産の第三取得者が同条第三号に掲げる書面に記載したところにより提供した同号の代価 又は金額を承諾したものとみなす。
その債権者が前条各号に掲げる書面の送付を受けた後二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき。
その債権者が前号の申立てを取り下げたとき。
第一号の申立てを却下する旨の決定が確定したとき。
第一号の申立てに基づく競売の手続を取り消す旨の決定(民事執行法第百八十八条において準用する同法第六十三条第三項 若しくは第六十八条の三第三項の規定 又は同法第百八十三条第一項第五号の謄本が提出された場合における同条第二項の規定による決定を除く。)が確定したとき。
第三百八十三条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、前条第一号の申立てをするときは、同号の期間内に、債務者 及び抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければならない。
登記をしたすべての債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した代価 又は金額を承諾し、かつ、抵当不動産の第三取得者がその承諾を得た代価 又は金額を払い渡し 又は供託したときは、抵当権は、消滅する。
登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。
抵当権者が前項の同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者 その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。
土地 及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地 又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。
この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。
ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。
前項の規定は、その建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、適用しない。
抵当不動産の第三取得者は、その競売において買受人となることができる。
抵当不動産の第三取得者は、抵当不動産について必要費 又は有益費を支出したときは、第百九十六条の区別に従い、抵当不動産の代価から、他の債権者より先にその償還を受けることができる。
債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、同時にその代価を配当すべきときは、その各不動産の価額に応じて、その債権の負担を按分する。
債権者が同一の債権の担保として数個の不動産につき抵当権を有する場合において、ある不動産の代価のみを配当すべきときは、抵当権者は、その代価から債権の全部の弁済を受けることができる。
この場合において、次順位の抵当権者は、その弁済を受ける抵当権者が前項の規定に従い他の不動産の代価から弁済を受けるべき金額を限度として、その抵当権者に代位して抵当権を行使することができる。
前条第二項後段の規定により代位によって抵当権を行使する者は、その抵当権の登記にその代位を付記することができる。
抵当権者は、抵当不動産の代価から弁済を受けない債権の部分についてのみ、他の財産から弁済を受けることができる。
前項の規定は、抵当不動産の代価に先立って他の財産の代価を配当すべき場合には、適用しない。
この場合において、他の各債権者は、抵当権者に同項の規定による弁済を受けさせるため、抵当権者に配当すべき金額の供託を請求することができる。
抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用 又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
競売手続の開始前から使用 又は収益をする者
強制管理 又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用 又は収益をする者
前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。
第三節 抵当権の消滅
抵当権は、債務者 及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
債務者 又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
地上権 又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者 又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない。
第四節 根抵当
抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるもの その他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。
特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権 又は手形上 若しくは小切手上の請求権は、前項の規定にかかわらず、根抵当権の担保すべき債権とすることができる。
根抵当権者は、確定した元本 並びに利息 その他の定期金 及び債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができる。
債務者との取引によらないで取得する手形上 若しくは小切手上の請求権 又は電子記録債権を根抵当権の担保すべき債権とした場合において、次に掲げる事由があったときは、その前に取得したものについてのみ、その根抵当権を行使することができる。
ただし、その後に取得したものであっても、その事由を知らないで取得したものについては、これを行使することを妨げない。
債務者についての破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始 又は特別清算開始の申立て
抵当不動産に対する競売の申立て 又は滞納処分による差押え
元本の確定前においては、根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができる。
債務者の変更についても、同様とする。
前項の変更をするには、後順位の抵当権者 その他の第三者の承諾を得ることを要しない。
第一項の変更について元本の確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなす。
根抵当権の極度額の変更は、利害関係を有する者の承諾を得なければ、することができない。
根抵当権の担保すべき元本については、その確定すべき期日を定め又は変更することができる。
第三百九十八条の四第二項の規定は、前項の場合について準用する。
第一項の期日は、これを定め又は変更した日から五年以内でなければならない。
第一項の期日の変更についてその変更前の期日より前に登記をしなかったときは、担保すべき元本は、その変更前の期日に確定する。
元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は、その債権について根抵当権を行使することができない。
元本の確定前に債務者のために 又は債務者に代わって弁済をした者も、同様とする。
元本の確定前に債務の引受けがあったときは、根抵当権者は、引受人の債務について、その根抵当権を行使することができない。
元本の確定前に免責的債務引受があった場合における債権者は、第四百七十二条の四第一項の規定にかかわらず、根抵当権を引受人が負担する債務に移すことができない。
元本の確定前に債権者の交替による更改があった場合における更改前の債権者は、第五百十八条第一項の規定にかかわらず、根抵当権を更改後の債務に移すことができない。
元本の確定前に債務者の交替による更改があった場合における債権者も、同様とする。
元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債権のほか、相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保する。
元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する。
第三百九十八条の四第二項の規定は、前二項の合意をする場合について準用する。
第一項 及び第二項の合意について相続の開始後六箇月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす。
元本の確定前に根抵当権者について合併があったときは、根抵当権は、合併の時に存する債権のほか、合併後存続する法人 又は合併によって設立された法人が合併後に取得する債権を担保する。
元本の確定前にその債務者について合併があったときは、根抵当権は、合併の時に存する債務のほか、合併後存続する法人 又は合併によって設立された法人が合併後に負担する債務を担保する。
前二項の場合には、根抵当権設定者は、担保すべき元本の確定を請求することができる。
ただし、前項の場合において、その債務者が根抵当権設定者であるときは、この限りでない。
前項の規定による請求があったときは、担保すべき元本は、合併の時に確定したものとみなす。
第三項の規定による請求は、根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から二週間を経過したときは、することができない。
合併の日から一箇月を経過したときも、同様とする。
元本の確定前に根抵当権者を分割をする会社とする分割があったときは、根抵当権は、分割の時に存する債権のほか、分割をした会社 及び分割により設立された会社 又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部 又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に取得する債権を担保する。
元本の確定前にその債務者を分割をする会社とする分割があったときは、根抵当権は、分割の時に存する債務のほか、分割をした会社 及び分割により設立された会社 又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部 又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に負担する債務を担保する。
前条第三項から第五項までの規定は、前二項の場合について準用する。
元本の確定前においては、根抵当権者は、第三百七十六条第一項の規定による根抵当権の処分をすることができない。
ただし、その根抵当権を他の債権の担保とすることを妨げない。
第三百七十七条第二項の規定は、前項ただし書の場合において元本の確定前にした弁済については、適用しない。
元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権を譲り渡すことができる。
根抵当権者は、その根抵当権を二個の根抵当権に分割して、その一方を前項の規定により譲り渡すことができる。
この場合において、その根抵当権を目的とする権利は、譲り渡した根抵当権について消滅する。
前項の規定による譲渡をするには、その根抵当権を目的とする権利を有する者の承諾を得なければならない。
元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権の一部譲渡(譲渡人が譲受人と根抵当権を共有するため、これを分割しないで譲り渡すことをいう。以下この節において同じ。)をすることができる。
根抵当権の共有者は、それぞれその債権額の割合に応じて弁済を受ける。
ただし、元本の確定前に、これと異なる割合を定め、又はある者が他の者に先立って弁済を受けるべきことを定めたときは、その定めに従う。
根抵当権の共有者は、他の共有者の同意を得て、第三百九十八条の十二第一項の規定によりその権利を譲り渡すことができる。
抵当権の順位の譲渡 又は放棄を受けた根抵当権者が、その根抵当権の譲渡 又は一部譲渡をしたときは、譲受人は、その順位の譲渡 又は放棄の利益を受ける。
第三百九十二条 及び第三百九十三条の規定は、根抵当権については、その設定と同時に同一の債権の担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした場合に限り、適用する。
前条の登記がされている根抵当権の担保すべき債権の範囲、債務者 若しくは極度額の変更 又はその譲渡 若しくは一部譲渡は、その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ、その効力を生じない。
前条の登記がされている根抵当権の担保すべき元本は、一個の不動産についてのみ確定すべき事由が生じた場合においても、確定する。
数個の不動産につき根抵当権を有する者は、第三百九十八条の十六の場合を除き、各不動産の代価について、各極度額に至るまで優先権を行使することができる。
根抵当権設定者は、根抵当権の設定の時から三年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができる。
この場合において、担保すべき元本は、その請求の時から二週間を経過することによって確定する。
根抵当権者は、いつでも、担保すべき元本の確定を請求することができる。
この場合において、担保すべき元本は、その請求の時に確定する。
前二項の規定は、担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは、適用しない。
次に掲げる場合には、根抵当権の担保すべき元本は、確定する。
根抵当権者が抵当不動産について競売 若しくは担保不動産収益執行 又は第三百七十二条において準用する第三百四条の規定による差押えを申し立てたとき。
ただし、競売手続 若しくは担保不動産収益執行手続の開始 又は差押えがあったときに限る。
根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき。
根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始 又は滞納処分による差押えがあったことを知った時から二週間を経過したとき。
債務者 又は根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき。
前項第三号の競売手続の開始 若しくは差押え 又は同項第四号の破産手続開始の決定の効力が消滅したときは、担保すべき元本は、確定しなかったものとみなす。
ただし、元本が確定したものとしてその根抵当権 又はこれを目的とする権利を取得した者があるときは、この限りでない。
元本の確定後においては、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、現に存する債務の額と以後二年間に生ずべき利息 その他の定期金 及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求することができる。
第三百九十八条の十六の登記がされている根抵当権の極度額の減額については、前項の規定による請求は、そのうちの一個の不動産についてすれば足りる。
元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときは、他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者 又は抵当不動産について所有権、地上権、永小作権 若しくは第三者に対抗することができる賃借権を取得した第三者は、その極度額に相当する金額を払い渡し 又は供託して、その根抵当権の消滅請求をすることができる。
この場合において、その払渡し 又は供託は、弁済の効力を有する。
第三百九十八条の十六の登記がされている根抵当権は、一個の不動産について前項の消滅請求があったときは、消滅する。
第三百八十条 及び第三百八十一条の規定は、第一項の消滅請求について準用する。